医薬品卸売業、道路貨物運送業、宿泊業の三業種における労働生産性分析と取引構造分析 から明らかになった業種ごとの支援に向けた総括を以下に記す。
① 医薬品卸売業
医薬品卸売業の取引構造は、主業の卸売業だけではなく、医薬品製造業者等への垂直統合 支援が労働生産性向上に向けて必要であると明らかになった。近畿地域における労働生産 性の高い医薬品卸売業者の特徴として、和漢生薬における原材料調達において海外を含む 独自調達を行っている企業が存在している点があげられる。医薬品卸売業の調達のグロー バル化支援が労働生産性向上に向けて必要であると明らかになった。
② 道路貨物運送業
道路貨物運送業の取引構造から労働生産性の高い企業は、荷主からの運送受託だけでな く、倉庫管理、傭車を行うことで荷主の付帯業務を一貫して受託する体制がわかった。しか し、アウトソーシングの進展自体は、収益性確保という面で不利になる。特に、外部協力会 社との協力においてシステム投資や配送拠点整備を行う際には設備投資が必要になり、経 費負担が顕著になる。道路貨物運送業における労働生産性向上にむけて、設備投資に関する 支援によりサードパーティーロジスティクス機能(倉庫、構内作業等を含めた運送業務)の 強化を行うことが必要であると明らかになった。
③ 宿泊業
宿泊業の取引構造から、労働生産性の高い企業は装置産業としての宿泊業から脱却する 動きを見せていることがわかった。大規模な設備投資を実施し、中長期的に資本回収を行う のではなく、宿泊施設自体を外部調達することで宿泊需要の変動に対応することで付加価 値向上を目指す動きである。宿泊業への新規参入者は、上述のようなビジネスモデルで参入 することは容易だが、すでに宿泊施設を自社保有する企業にとって、収益構造の転換は容易 ではない。そのため、損益計算書ベースでの経営に向けた金融支援を拡大することが宿泊業 全体の労働生産性向上には必要であると明らかになった。
以上、分析対象とした3業種においては、統計的分析から得られた業種特性の把握に加え、
企業間取引データによる深堀分析を行うことにより労働生産性を高めるためのビジネスモ デルの特徴を明確にすることができた。
サービス産業はGDPの7割を占める産業であるが、その業種・業態により生産性の実状 や生産性改善に向けて取り組むべき方策は大きく異なる。サービス産業に包含される様々 な業種の生産性改善のために必要な各業種の特性把握・課題抽出等にあたっては、企業間取 引データ分析を含む多方面からのアプローチが有用であると言える。
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付録 クラスター分析による企業間の類似度比較
付録において、分析対象の三業種それぞれにおける企業のクラスター分析を行った結果 を記す。
第1節 クラスター分析の目的
データが複雑化し対象をグループ分けしたい場合に、グループ分けの基準作りが大きな 問題となる。本付録において示すクラスター分析は、人間の主観を排して与えられたデータ のみから分類を行い似たもの同士を分類する手法である。クラスター分析には、階層的クラ スター分析と非階層的クラスター分析がある。階層的クラスター分析は、個々の対象をまと めていき大きなグループをつくる手法である。一方、あらかじめグループ数を指定するなど の制約条件を設ける手法を非階層的クラスター分析という。本付録におけるクラスター分 析は、階層的クラスター分析を用いている。
本分析においては、労働生産性の高い企業候補として選定した企業と他の企業の類似性 を把握することを目的として、各企業の労働生産性、売上高営業利益率、主業比率、人口密 度、非正規雇用割合をパラメーターとしてクラスター分析を実施した。
第2節 クラスター分析の手順
クラスター分析は、(1)距離行列を作成する、(2)類似したクラスター同士を結合して 新しいクラスターを作る、(3)距離行列を更新する、(4)樹形図の描画を行うという四段 階の手順に分けられる。
距離行列とは、ユークリッド距離により定義される分類対象同士の距離を示したもので ある。ユークリッド距離とは、例えば地図上の二地点の直線距離と同じ概念である。クラス ター分析では、対象間の距離が短いときに同じクラスターに分類される。一方、距離が大き いときには、対象間の類似性は高くないと判断され、同じクラスターには分類されない。新 しいクラスターが作られたら、他のクラスターとの間で再び距離行列を計算する。この操作 を繰り返すことで、クラスター同士の結合関係を最も粗いクラスター数である二分類にま で整理することが可能となる。樹形図における高さは結合距離(無次元)であり、この結合 距離が近いクラスターほど、類似度が高い分類と解釈できる。
第3節 クラスター分析の結果
① 医薬品卸売業
医薬品卸売業の企業についてクラスター分析を行った結果は図(付録) 3-1のとおりで ある。労働生産性の高い企業として選定し D 社、E 社、G 社は類似度の高いクラスター同士 に分類されているが、H 社、K 社、Q 社は結合距離が 4,000 以上のクラスターに属しており 労働生産性以外の指標を考慮すると D 社、E 社、G 社との類似度は高いとは言えない。また、
Q 社に最も類似度が高い企業として、S 社が存在している点に特徴がある。S 社は売上高、
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従業者数規模において分析対象企業の上位に位置することがないため労働生産性の高い企 業抽出の段階で対象外となったが、事業規模や業績を考慮に入れずに企業抽出を行う場合 には、労働生産性の高い企業候補して選定対象となり得る。
以上の結果より、医薬品卸売業においては、労働生産性の高い企業は、売上高営業利益率、
主業率、人口密度、非正規雇用割合においても類似した傾向を持つ産業構造であると考えら れる。
図(付録) 3-1 医薬品卸売業のクラスター分析結果
② 道路貨物運送業
道路貨物運送業におけるクラスター分析の結果は図(付録) 3-2である。労働生産性 の高い企業候補として抽出した“75”社、“116”社、“185”社は類似度の高いクラスター に属しているが、それ以外の 4 社は類似度の高い近接クラスターに属していない。また、
“117”社は、“118”社よりも“154”社と類似性の高いと分類される点が特徴である。企 業の売上高規模、雇用吸収力としての従業者数を考慮に入れずに、労働生産性と労働生産 性に関連する各種指標の類似性のみで労働生産性の高い企業を更に抽出する場合には、
“154”社が候補して挙げられる。
近接するクラスターに労働生産性の高い企業が属しているという分析結果より、労働生 産性を向上させるためのビジネスモデルとして売上高営業利益率、主業比率、人口密度、
非正規雇用割合が評価指標になり得る形態が存在していることが示唆される。
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図(付録) 3-2 道路貨物運送業のクラスター分析結果
③ 宿泊業
宿泊業におけるクラスター分析の結果は図(付録) 3-3である。労働生産性が高い企 業候補として抽出した a 社、e 社、L 社、M 社、J 社、F 社は、互いに近接したクラスター に分類されていない。すなわち、宿泊業においては、労働生産性が高い企業同士で、売上 高営業利益率、主業比率、人口密度、非正規雇用割合で類似した傾向をもたないことがわ かる。この結果は、宿泊業の労働生産性向上には、上述の指標以外が労働生産性の評価指 標として存在していることを示唆している。