本章では、各業種について労働生産性の高い企業の取引構造の分析を行った結果を示す。
第1節 医薬品卸売業
第1項 医薬品卸売業の取引構造
医薬品卸売業の取引構造における立ち位置は、医薬品製造業を主業とする企業を川上に もち、川下側には医薬品を取り扱う医療機関、調剤薬局、ドラッグストアが存在している。
特に医薬品の市場は、成長市場であるものの市場における企業数も多く企業合併による再 編が進んでいる市場でもある。買い手との関係において、医薬品卸売業の力は強いとは言え ず、地域の買い手に密着した経営基盤を確立することが必要である。
図 4-1-1医薬品卸売業の取引構造 (各業種名と全国の企業数を併記する)
医薬品卸売業における業界再編の動きは、同業種の中のみにとどまらず、川上側もしくは 川下側への垂直統合も動きも存在している点も示す。図 4-1-2に示されるような川上 型の統合では、医薬品卸売業者がメーカー機能を持つ動きがある。地域への営業基盤を活か して生産から販売までの効率化を図り労働生産性向上を目指すことが目的である。取引品 目にも特徴があり、漢方薬の原材料等にあげられる市場においてドミナントでない品目に よる差別化がみられる。
川上 川中 川下
大学病院 病院 メイン企業 診療所
周辺企業 ドラッグストア
調剤薬局 医薬品卸売業( 1 次)
医療用医薬 品製造業
医薬品卸売 業( 2 次)
一般用医薬 品製造業
配置薬
【機能】仕入 / 保管 / 配送 / 管理 / 情報収集 / 販促
2,398 件 36,568 件 691 件
医薬品小売業 6,768 件
37
図 4-1-2医薬品卸売業の取引構造特性(川上型)
一方、図 4-1-3にある川下型の垂直統合も存在している。川下側の統合では、医薬 分業を背景に医薬品卸売業者が調剤薬局を取り込む統合の形が存在している。川下側の統 合においては、地域における営業基盤を活かし、院内業務を請け負うことで経営効率の向 上から労働生産性向上を目指す取引構造を持つ。
図 4-1-3 医薬品卸売業の取引構造特性(川下型)
①垂直統合
川上 川中
メイン企業
周辺企業
医薬品卸売業(1次)
医療用医薬 品製造業
医薬品卸売 業(2次)
一般用医薬 品製造業
原材料
②営業基盤
③ニッチ調達
【機能】仕入/保管
【機能】製造
医薬品卸売業
川中 川下
メイン企業
周辺企業 ①垂直統合
②営業基盤
大学病院 病院 診療所
ドラッグストア 調剤薬局
【機能】配送 / 管理 / 情報
収集 / 販促
38
第2項 医薬品卸売業における労働生産性の高い企業の取引構造分析
医薬品卸売業における労働生産性の高い企業を抽出し、労働生産性の高い企業の取引構 造について考察する。医薬品卸売業における売上高規模、従業者数の順位は表 4-1-4の 通りである。売上高と従業者数の上位 10 位については黄色の背景で示している。
表 4-1-4 医薬品卸売業の売上高規模・従業者数順位
特に売上高が大きい上位の企業に対して、労働生産性の順位付けを行うと、表 4-1-5 のようになる。
表 4-1-5 医薬品卸売業の労働生産性順位(売上高順)
企業名 売上高順位 従業者数順位
R社 1 1
P社 2 2
O社 3 3
T社 4 4
Q社 5 6
G社 6 16
H社 7 21
D社 8 10
E社 9 8
K社 10 5
U社 11 12
V社 12 7
F社 13 14
A社 14 15
S社 15 17
L社 16 12
J社 17 10
M社 18 17
I社 19 17
N社 20 9
X社 21 21
B社 22 21
W社 23 24
C社 24 20
企業名 売上高順位 従業者数順位 労働生産性順位
R社 1 1 9
P社 2 2 7
O社 3 3 10
T社 4 4 8
Q社 5 6 3
G社 6 16 2
H社 7 21 1
D社 8 10 5
E社 9 8 4
K社 10 5 6
39
表4-1-5の企業群から、労働生産性の高い企業 E 社と Q 社を取引構造分析の対象企 業として抽出した。抽出条件は、売上高が 3 期でみたときに成長している企業とした。。
本項では特に E 社の取引構造について考察する。2015 年 1 月における E 社の取引構造を 分析する。
E 社の取引構造を分析するにあたり、E 社の主業の詳細について述べる。E 社(売上高 17 億円、従業員数 31 名)の主業は生薬原料の卸売や生薬の製造販売である。長年の業歴から 生薬の希少種などの独自ルートを持っており、仕入先には原料メーカーや貿易会社などが 出てくる。海外からの直接仕入れもあり、ニッチな調達ルートを強みとしている。卸売業で あるが、製造機能を持っており、医薬品製造業から安定した OEM 製造を受託している点が特 徴である。OEM 契約社数は 300 社程度といわれ、生薬分野におけるニッチトップな構造を有 しているといえる。事業分野がニッチな薬品(漢方薬)に絞り込まれており、生薬などの原 材料が集まることと、漢方薬の販路としても取引構造上集まる傾向がみられる。こういった 和漢の伝統的な生薬関連は、大阪や奈良に強みを持つ企業が歴史的に存在している。この点 は図 4-1-6に示す E 社の取引構造を具体的に見るとより詳細にわかる。近畿地域にお ける企業を赤、近畿地域以外の企業を青で示している。図 4-1-6の中心が E 社である。
E 社が受託している企業 37 社のうち 27 社が近畿地域の企業であり、うち 10 社が奈良県に 所在する企業である。受託取引品目の 37 件中 9 件が製品を取引している。E 社が発注する 取引品目に製品はなく、9 件中 5 件が原材料等である点をあわせて考えると、E 社は卸売業 でありながら OEM メーカーとしての側面を有することがわかる。E 社は図 4-1-2に示さ れるような川上型の事業参入戦略を行っていることがわかった。
40 図 4-1-6 E 社の取引構造の詳細
E 社 発注先
発注元
41 図 4-1-7 医薬品卸売業 E 社の取引構造
次に E 社の取引先企業が属する産業の規模について分析を行った結果を示す。企業間取 引構造分析においては、発注側、受注側の取引先の産業分類構成と市場規模、時系列で取引 先をみたときの産業の入れ替わりの把握が重要である。図 4-1-8では、取引高推定値を 用いて取引先の産業分類を順位付けし、各産業の売上高を産業小分類名の下に記した。前年 と比較し、取引推定値の順位が変化している部分について黄色の枠線で示している。これに より産業としての規模と、自社の取引上のパイプの太さを考察する。
E 社は、2015 年 1 月時点で、医薬品製造業の企業から最も多く受注をしているが、2014 年 1 月、2013 年 1 月には雑品製造業の企業と多く取引していることがわかる。一方で、E 社 の 1 次発注先の企業は 2013 年 1 月から 2015 年 1 月までの各年 3 年で変化していない。E 社 は発注先を変えないまま、得意先が繋がる市場(受注側 Tier2)の変化に合わせて新しい販 路開拓を行っていることがわかる。
医薬品卸売業
川上 川中
メイン企業
周辺企業
一般用医薬 品製造業
原材料
製造機能
生薬調達 OEM 受注
配置薬
42
図 4-1-8 医薬品卸売業 E 社の取引構造 2015 年 1 月
v
発注側Tier1 1位
医薬品・医療用品卸
6,107 2位
陶磁器ガラス器等卸
9,581 3位
一般化学製品卸 3,376 4位
塗料・油脂・ろう卸
3,087 5位
燃料小売 510 発注側Tier2
1位
他の飲食料品製造 11,097 2位
一般化学製品卸 321,162 3位
医薬品・医療用品卸
1,908,381 4位
医薬品製造 234,615 5位
合成樹脂製品製造 127,205
受注側Tier1 1位 医薬品製造
24,191 2位
雑品製造 9,519 3位
他の飲食料品製造 748 4位
一般化学製品卸 60 5位
医薬品・医療用品卸
255
(単位:百万円)
受注側Tier2 1位 医薬品製造
6,214,193 2位
医薬品・医療用品卸
3,108,269 3位
その他の食料飲料卸
99,201 4位
医薬・化粧品小売 2,463,828 5位
塗料・油脂・ろう卸
1,106