55 第3項 道路貨物運送業における財務戦略
道路貨物運送業について、貸借対照表と損益計算書の平均構成を示す。図 4-2-8は 分析対象企業 212 社の平均構成である。図 4-2-9は、労働生産性の高い企業上位 21 社の平均構成である。労働生産性の高い企業は、売上高規模で順位付けをしたこともあ り、売上高は、道路貨物運送業に比べて大きくなっているが、売上高に対する純利益の割 合では、労働生産性の高い企業と道路貨物運送業の平均値とでは大きな違いはない。自己 資本比率についても労働生産性の高い企業が優れているわけではない。薄利の利益構造に 成り立つことが利益構造に反映されていると考えられる。
図 4-2-8 道路貨物運送業における貸借対照表、損益計算書の平均的構成(道路貨物 運送業の 212 社の平均)
0 500,000 1,000,000 1,500,000 2,000,000 2,500,000 3,000,000
BS(資産) BS(負債/資本) PL(売上高) PL(費用/利益)
売上高(億円)
6.3
25.3% 当期純利益率 0.51%
総資本に対する売上高の割合
149.3%
単位:千円
56
図 4-2-9 道路貨物運送業における労働生産性の高い企業群の貸借対照表、損益計算書構成(労働 生産性上位の 21 社の平均)
労働生産性の高い代表的企業である“117”社の財務構成について以下記す。建築資材等 を保管・配送の一貫化を行う”117”社の財務構成は、道路貨物運送業の平均的な BS/PL 構 造が小さな資本で売り上げを稼いでいる PL 型であったが、より小さな総資本で大きな売上 高を上げている。一貫して業務を請け負うことで取扱量を増やすとともに、IT 化を進め外 部の協力会社の高効率な活用を進めることで売上高の拡大に成功している。
管理システムを整備して物流効率を高めていく過程で長距離物流は業者間の情報共有を進 め、協力会社との双方の利益に結びつけ、ネットワークを拡大しているが、自社で展開可能 な近距離での物流網、拠点配備などにとどまらず、各社が悩みの種である長距離物流をシス テムと連携という取り組みで解消している。
こういった総資本に比べて売上高が大きくなる財務戦略は、コストが相応にかかること もあって、利益率が小幅となる傾向が強い。道路貨物運送業の平均の当期純利益率が 0.79%
であることから、同社の 0.44%は低めに出ているといえ、さらにコストダウンもしくは利幅 の良い取引を求めていく必要がある。
0 500,000 1,000,000 1,500,000 2,000,000 2,500,000 3,000,000
BS(資産) BS(負債/資本) PL(売上高) PL(費用/利益)
売上高(億円)
25.9 18.8%
当期純利益率
0.79%
自己資本比率
総資本に対する売上高の割合 125.4%
単位:千円
57 図 4-2-10 “117”社の財務構成
第4項 道路貨物運送業の制約条件と政策課題
道路貨物運送業は零細性、コストの外部性が強く、運送業務のみでの収益確保が難しい。
そのため、傭車に代表される運送業務自体の外部化(市場取引)が盛んに行われるが、外部 化によって管理不足となり品質の劣化が起きる。また、運送業務以外の付帯業務を一貫して 受注する体制を構築するためには、需要家が行っている業務をアウトソーシングしてもら う働きかけが必要である。
こういった産業の制約条件がある中で、労働生産性向上のための政策課題としては、①コ ストダウンの取り組みが収益確保の源泉となる運送業では、機会損失を減らす取り組みと しての運送の共同化があるが、共同配送を実現するためのシステム投資や配送拠点整備、そ して企業間連携が欠かせない。また、②付加価値を出して、長期取引を構築するためには、
運送業務の周辺業務(倉庫、構内作業などサードパーティー・ロジスティクス)を取り込ん だ一貫化の取り組みによって需要家の要求に応える取り組みが欠かせない。
0 2,000,000 4,000,000 6,000,000 8,000,000 10,000,000 12,000,000 14,000,000
BS(資産) BS(負債/資本) PL(売上高) PL(費用/利益)
売上高(億円)
119.9
49.7%
当期純利益率
2.05%
自己資本比率
365.0%
総資本に対する売上高の割合
単位:千円
58 第3節 宿泊業
第1項 宿泊業における取引構造分析
宿泊業の経営上の大きな特性は、①資本集約型の装置産業、②投下資金の回収が長期、③ 装置産業のため客室数が制約となる、④人件費などの固定費に加えて価格決定権が得るこ とが容易ではない、⑤需要の季節性が挙げられる。これらの論点は、宿泊事業においてどの 点を外部化したのかに依存して取引構造の特徴として現れる。宿泊業のビジネスモデルは、
薄利多売型と固定費削減型が存在している。薄利多売型となる要因は、宿泊業が装置産業で 投資回収が長期化する業種であるためである。取引構造は、宿泊業に加えて、飲食・宴会、
土産物など収益源の多角化による薄利多売型の場合、図 4-3-1のように取引構造は川 上にも川下にも複雑な形になる。
図 4-3-1 宿泊業の取引構造(各業種名と全国の企業数を併記する)
一方、固定費削減型の場合、固定費が大きくなる物件を賃貸とすることで、チェーン化し固 定費を資産ではなく販管費に移し替え経営している。多角化という面においては、レストラ ン部門などは持たず宿泊に特化したサービスを展開している。
第2項 宿泊業における労働生産性の高い企業の取引構造分析
宿泊業における売上高規模、従業者数と順位は表 4-3-2の通りである抽出は売上高 と従業者数の上位 10 位を黄色の背景で示している。労働生産性の順位付けは、売上高で上 位 10 社について行い、売上高、従業者数、労働生産性がともに上位となる企業を労働生産 性の高い企業として抽出する。ただし、従業者数と労働生産性は相反する関係にあるので、
労働生産性が上位 5 位に入っていない場合でも、取引構造分析の対象とする。
川上 川中 川下
メイン企業
周辺企業
予約サイト 旅行代理店 シティホテル
食品卸
貸衣装
消 費 ビジネスホテル 者
リネンサプライ 雑貨卸
写真撮影 人材派遣
広告
旅館・ホテル 7,928 件 3,400 件
34,196 件
1,952 件 3,044 件
5,376 件
59 表 4-3-2 宿泊業の売上高規模・従業者数順位
表 4-3-3は、売上高上位 10 位の企業について労働生産性の順位付けを行ったもの である。さらに上位 10 社について旅館業法の管轄に含まれるという条件から、宿泊業の 労働生産性の高い企業候補として選ぶのは、a 社、L 社、M 社、J 社、F 社、e 社とする。
企業名 売上高順位 従業者数順
N社 1 2
a社 2 1
L社 3 7
M社 4 18
h社 5 8
J社 6 4
S社 7 5
F社 8 15
D社 9 18
e社 10 3
P社 11 10
K社 12 9
R社 13 6
O社 14 16
H社 15 23
j社 16 20
I社 17 13
G社 18 36
W社 19 25
f社 20 11
c社 21 26
X社 22 26
C社 23 14
V社 24 26
Z社 25 35
o社 26 17
b社 27 24
Q社 28 26
d社 29 21
Y社 30 32
T社 31 22
E社 32 11
m社 33 30
g社 34 33
l社 35 40
k社 36 39
n社 37 34
i社 38 36
A社 39 38
U社 40 41
B社 41 31
60
表 4-3-3 宿泊業の売上高規模・従業者数・労働生産性順位
抽出条件を売上高が 3 期でみたときに成長している企業とした場合、e 社が労働生産性の 高いモデル企業として抽出できる。以下では、e 社の取引先産業の売上高規模と時系列の変 化を整理する。
図 4-3-4のように 2015 年 1 月において、“e”社が受注している産業で最も大きいも のは、老人福祉事業である。同時期において“e”社が発注している産業は、各種商品卸が 最も大きくなっている。時系列で考察すると、2015 年 1 月の取引構造は 2014 年 1 月と同じ であるが、2013 年 1 月の取引は、発注先の産業として、各種商品卸に次いで旅館・ホテル、
住宅賃貸、建物サービスがあげられる。受注先の産業においては、老人福祉事業は取引の大 きさでは 4 位となっている。
図 4-3-4 宿泊業 e 社の取引構造 2015 年 1 月
企業名 売上高順位 従業者数順 生産性順位
N社 1 2 8
a社 2 1 2
L社 3 7 4
M社 4 18 1
h社 5 8 9
J社 6 4 6
S社 7 5 7
F社 8 15 3
D社 9 18 5
e社 10 3 10
発注側Tier1 1位 各種商品卸
107,000 2位
他の衣服身辺雑貨卸
32,872 3位
洗濯業 18,186 4位
建築工事業 220 5位
建物・土地売買業 989 発注側Tier2
1位 生鮮魚介卸
39,533 2位
その他の食料飲料卸
37,036 3位
乾物・缶詰卸 1,503,682 4位
調味料製造 557,798 5位
他の飲食料品製造 82,557
受注側Tier1 1位
老人福祉事業 368 2位
-3位
-4位
-5位
-(単位:百万円)
受注側Tier2 1位
旅館・ホテル 1,334 2位
-3位
-4位
-5位
-e 社
61
図4-3-5の e 社の取引構造をみると、7 件の e 社の発注のうち 3 件は不動産業に関す る取引であり賃貸による宿泊施設の取得を行っていることがわかる。E 社は物件を自社保 有するのではなく外部調達を行うことで固定費を抑えていることがわかる。
図 4-3-5 e 社の取引構造の詳細
第3項 宿泊業における財務戦略
宿泊業について、貸借対照表と損益計算書の平均構成を示す。図 4-3-6は全企業 41 社の平均構成である。図 4-3-7は、労働生産性の高い企業、a 社、L 社、M 社、J 社、
F 社、e 社の平均構成である。宿泊業の平均構成をみると、本調査における他の業種と比 べて、総資本に対する売上高の割合は、100%を下回っている。これは、宿泊業が固定費型 のビジネスであることを反映している。労働生産性の高い企業は売上高規模を考慮して抽 出したため、必然的に売上高規模は大きくなっている。一方、純利益率では宿泊業の平均 が 2.57%であり、労働生産性の高い企業群における売上高純利益率を上回っている。それ ゆえに、自己資本比率も宿泊業の平均では、21.4%であり労働生産性の高い企業の自己資 本比率 11.8%を上回っている。