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デキストラン,カオリン誘導足蹠浮腫及び血管透過性を抑制し,さらに,fMLP 誘導好 中球遊走及び PMA,fMLP による好中球の活性酸素放出を抑制し,シクロオキシゲナー ゼ活性も抑制した.すなわち,AGP,アシアロ AGP はin vivoにおいて抗炎症作用が あり,好中球の浸潤及び活性を抑制し,シクロオキシゲナーゼ活性も抑制することが示 唆された.一方,シアル酸はカラゲニン(3 時間以降)とカオリン誘導足蹠浮腫及び血 管透過性を抑制し,また,好中球遊走を抑制し,シクロオキシゲナーゼ活性も抑制した.

シアル酸にも AGP とは若干異なるが,抗炎症効果のあることが示唆された.しかしな がら,アシアロ AGP やシアル酸は血中からの消失が速く,実際,急性炎症時に抗炎症 効果を発揮しているのは,AGP 本体であると推察された(第 3 章).

3)AGP は赤血球の 5µm 幅のマイクロチャンネル通過時間を短縮し,浸透圧低下によ る溶血を抑制した.さらに,H2O2 による赤血球破壊を抑制した.これらのことから,

赤血球に対して AGP は変形能改善作用,膜安定化作用,抗酸化作用のあることが示唆 された.一方,シアル酸にはまったくこのような作用はなく,糖鎖がない HSA におい て作用があったことから,AGP の赤血球保護効果にはペプチド部分が大きく関与して いることが推察された.さらに,AGP はマウス大動脈平滑筋細胞のレクチン様ドメイ ンにカルシウム依存的に結合し,血管拡張作用を示すことが示唆された.また,その作 用機序として,イノシトール 3 リン酸依存性のカルシウム放出阻害,及び非選択的カチ オンチャンネルの阻害,作用としては小さいが電位依存性カルシウムチャンネルの阻害 が示唆された.すなわち,AGP は赤血球の流れを保護し,血管を拡張させ,血液循環 をより良いものにすることで,火傷時などの末梢循環系における組織の低酸素血症の防 止に極めて重要な働きを果たしていることが推察された(第 4 章).

4)ヒト AGP 分子上においてオーラミン O-クロルプロマジン,オーラミン O-アセノ クマリン,クロルプロマジン-アセノクマリン,クロルプロマジン-プロゲステロン,ア セノクマリン-プロゲステロンは 1 つの結合サイトで競合するが,オーラミン O とプロ ゲステロンは独立した2つの結合サイトにそれぞれ結合するか,もしくは 1 つの結合サ イトに 2 つのリガンドが独立して結合する可能性が示唆された.また,イヌ及びウシ AGP 分子上には,ヒトとは異なり酸性薬物の結合サイトは存在しないものの,ヒト AGP 同様,塩基性薬物及びステロイドホルモンの結合サイトが一部オーバーラップし て幅広い結合領域を形成しているものと推察された.このように,薬物の AGP 結合サ イトには種差が認められた.すなわち,臨床試験において動物実験より得られたデータ を解析する際には結合性の種差を十分配慮し,in vitroあるいは in vivoのヒトと実験 動物における実験結果について検討する必要性を強く示している(第 5 章).

 以上述べてきたように,急性期反応物質である AGP はオータコイドや好中球活性に よる炎症を抑制し,血液の流動性を改善した.さらに,生体内においてこのような作用 を発揮しているのは AGP 本体であることが示唆された.炎症は,基本的には生体の防 衛反応であり,障害因子や傷害を受けた組織細胞を取り除き修復するという,生体にとっ

て有利な反応機構である.しかし,炎症反応とそれに随伴した修復反応は同時に傷害性 となる可能性を有している.つまり,炎症反応を誘導した傷害性因子の直接効果を越え て炎症反応自体が生体に重大な傷害作用を与えてしまうことがある.そこで,このよう な急性炎症時に増加する AGP は,過剰な炎症反応を抑制し,炎症反応においてフィー ドバック因子としての役割を担っていると推察された.また,薬物の AGP 結合性には 種差の存在が示唆され,医薬品開発における動物からヒトへの外挿には結合性の種差に ついて十分配慮すべきであると考えられた.

 これらの知見は急性炎症時に生合成が亢進する急性期蛋白質が生体内でどのような役 割を担っているのかを理解する上で重要な基礎資料になるとともに,医薬品開発を行う 上でのアニマルスケールアップの予測につながるものと期待される.

実験の部

試料

 ヒト,イヌ,ウシα1-酸性糖蛋白質,ヒト血清アルブミン,ヒトγグロブリン,ノイ ラミニダーゼ,λカラゲニン,ホルムアミド,phorbol 12-myristate 13-acetate,

formyl-methionyl-leucyl-phenylalanine,アラキドン酸,ジヒドロローダミン 123,

L-フェニレフリン,オーラミン O,クロルプロマジンはシグマ社より購入した.シアル 酸,デキストラン,カオリン,エバンスブルー,ルミノール,アセチルサリチル酸はナ カライテスクより購入した.β-ガラクトシダーゼは生化学工業より購入した.TSKgel  Tresyl-5PW は東ソー より購入した.111In は日本メジフィジックスから恵与された.

Prostaglandin E2 immunoassay kit はフナコシから購入した.リンホプレップは第一 化 学 よ り 購 入 し た . H2O2 は 三 徳 化 学 よ り 購 入 し た . ア セ チ ル コ リ ン , NG-nitro-L-arginine  metyl  ester  hydrochloride , NG-monomethyl-L-arginine  hydrochloride,ヘパリンは和光純薬より購入した.プロゲステロンは日本シェーリン グより購入した.アセノクマリンはユトレヒト大学薬学部 Janssen 教授から恵与され たものを使用した.その他,試薬,溶媒類はすべて市販特級品を使用し,溶媒としての 水はイオン交換水を使用した.

第 2 章に関する実験

1)アシアロ AGP の調製

 アシアロ AGP は Primozic と McNamara の方法に従って,AGP を Clostridium 

perfrigens由来のノイラミニダーゼで処理して調製した111).AGP 溶液(0.1M 酢酸緩

衝液,pH5.0,40mg/mL)にノイラミニダーゼ(緩衝液 5mL 中に 2unit)を加え,

37℃で 24 時間インキュベートした.その後,8µm のフィルターでノイラミニダーゼを 取り除き,そのろ液をイオン交換水で透析後,凍結乾燥した.調製したアシアロ AGP の脱シアル酸含量は,透析前の反応溶液をチオバルビツール酸法で算出した112).その 結果,95%以上のシアル酸が除去されたことが確かめられた.また,アシアロ AGP の 分子量は 40000 と仮定した.

2)アガラクト AGP の調製

Streptococcus由来のβ-ガラクトシダーゼ0.1unit を0.5 M リン酸緩衝液(pH 7.5)

に溶解し,TSKgel Tresyl-5PW を 0.1g 入れ,25℃で4時間インキュベートした.そ の 溶 液 に イ オ ン 交 換 水 を 加 え , 遠 沈 後 , 上 澄 液 を 捨 て た . そ の 沈 殿 物 に 0.1 M  Tris-HCl 緩衝液 (pH 7.5)を加え,再度遠沈後,上澄液を捨て,0.1 M Tris-HCl 緩衝 液 に再溶解し,25℃で1時間インキュベートした.その後,さらに遠沈し,上澄液を

捨て,酵素溶液とした.その酵素溶液に 0.4 M 酢酸緩衝液(pH 5.5)を加え,遠沈後,

上澄液を捨て,また 0.4 M 酢酸緩衝液に再溶解し,アシアロ AGP(30mg/20ml)を混 合した.37℃で4時間インキュベート後,0.45µm のフィルターを用いて溶液を濾過し,

そ の ろ 液 を イ オ ン 交 換 水 で 透 析 後 , 凍 結 乾 燥 し た . 調 製 し た ア ガ ラ ク ト AGP は SDS-PAGE により確認した.また,アガラクト AGP の分子量は 36000 と仮定した.

3)マウスにおける体内動態

 AGP を無水ジエチレントリアミン 5 酢酸を架橋剤として 111In 標識した.標識した AGP は 0.1M 酢酸緩衝液(pH 6.0)を溶出液とし,PD-10 カラムにより精製した.各 フラクションを well-type NaI シンチレーションカウンター (ARC-500,Aloka)で 測定し,111In-AGP の入ったフラクションだけを取り,0.9%NaCl で限外濾過し,マウ ス 1 匹当たり 100000cpm になるように濃縮した.生理食塩水に溶かした111In-AGP を 0.1mg/kg で雄性 ddy マウス(6 週齢,25〜35g)の尾静脈に投与し,一定時間後,下 大静脈より採血し,膀胱より採尿した.さらに心臓,肺,肝臓,脾臓,膵臓,腎臓,胃,

腸,皮膚,筋肉を取り,重量測定後,放射活性を測定した113,114). 4)マウス肝細胞取り込み実験

 111In-AGP を0.1mg/kg でマウス尾静脈に投与し,30分後,マウスを麻酔下に屠殺し,

手術用ハサミで皮膚,腹筋の順に開腹し腹腔を露出させる.その後、眼科用ハサミの先 端で門脈を半切し,すばやくカニューレを門脈に挿入する.そこから約 5mL/min の流 速で 37℃に保温した Hanks'緩衝液(pH 7.5、Ca2+(-))を流し始め、同時に肝臓下の下 大静脈を切断する.約 10 分間灌流し十分に脱血させた後,0.5%コラゲナーゼを含む Hanks'緩衝液(pH 7.5、Ca2+(+))で肝臓を灌流し,肝細胞群を分離させる.この分離 細胞液から percoll の密度勾配遠心法により肝細胞を精製した.すなわち,肝細胞分散 液を 70%percoll に重層し,2500rpm,10 分間遠心し,沈殿した細胞を肝実質細胞と した.さらに上清を、25%/50%percoll の上に重層し,2500rpm、30 分間遠心するこ とにより,25%及び 50%percoll の境界面に無傷の非実質細胞を得た.得られた非実質 細胞をプラスティック培養皿で 10 分間培養し,付着した細胞をクッパー細胞とし,肝 内皮細胞は最終的にフィブロネクチンでコートした培養皿に付着細胞として回収した.

実質細胞,クッパー細胞,内皮細胞をそれぞれ well-type NaI シンチレーションカウン ター (ARC-500,Aloka)により放射活性を測定した.

第 3 章に関する実験 1)ラット足蹠浮腫測定

 尾静脈から 10mg AGP,アシアロ AGP,1.2mg シアル酸,15mg HSA をそれぞれ投与

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