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ヒト,イヌ及びウシ AGP 分子上の薬物結合サイトの識別

第5章  AGP の輸送蛋白としての機能評価

第3節  ヒト,イヌ及びウシ AGP 分子上の薬物結合サイトの識別

結合サイトに 2 つのリガンドが独立して結合する可能性が示唆された.

○; competitive displacement, ●; co-binding.

Table 11 Binding patterns of the ligand - ligand interaction to human AGP as assumed from the theoretical curve

Human Complex

Auramine O - Chlorpromazine Auramine O - Acenocoumarin Auramine O - Progesterone Chlorpromazine - Acenocoumarin Chlorpromazine - Progesterone Acenocoumarin - Progesterone

Fig. 30 Proposed drug binding site on human AGP variants

AO : auramine O, CPZ : chlorpromazine, AC : acenocoumarin, PG : progesterone.

AO-CPZ, AO-AC, CPZ-AC, CPZ-PG, AC-PG system

Competitive displacement AGP

L L

AO-PG system

co -Binding AGP

L

L AGP

L L

or

L:Ligand

討した報告はほとんどない.そこで,ヒト AGP 同様,イヌ,ウシ AGP にも塩基性薬 物,酸性薬物,ステロイドホルモン結合サイトが存在するかどうか検討した.Table 12 に示すように,オーラミン O,クロルプロマジン及びプロゲステロンは,ヒト,イヌ及 びウシ AGP に強く結合したが,酸性薬物であるアセノクマリンは,ヒト AGP に対し てのみ結合することが明らかとなった.

Table 12 Binding parameters of auramine O and drugs to different AGPs

Auramine O Chlorpromazine Acenocoumarin Progesterone

Human n k (x105 M-1) 1.0 1.0±0.2 1.1

1.3 1.2

23.2±5.7 1.6±0.2 3.5±0.1

0.7

1.4

0.9 0.7±0.2 9.5±2.3

2.2±0.2

1.4

1.3

1.1 0.6±0.2 7.7±2.3

2.1±0.2 Dog

n

Bovine n

a) a) a) a)

a) ; not determined.

Ligand

k (x105 M-1) k (x105 M-1)

3-2 各種 AGP に対する薬物の結合様式

 次に各種 AGP に対するオーラミン O の結合性に及ぼす各種薬物の影響を限外濾過法 により調べた.Fig. 31 に示すように,イヌ及びウシ AGP において,クロルプロマジン はオーラミン O の結合性を減少させた.この結果から,イヌ及びウシ AGP 分子上にお いて,クロルプロマジンはヒト AGP 同様オーラミン O の結合サイトに完全にあるいは 一部オーバーラップして結合する可能性が示唆された.また,オーラミン O の結合性 に影響を与えなかったプロゲステロンも,ヒト AGP 同様イヌ及びウシ AGP 分子上で オーラミン O と異なった部位に結合するのではないかと推察された.しかしながら,

酸性薬物であるアセノクマリンはヒト AGP とは異なり,イヌ及びウシ AGP ではオー ラミン O をまったく置換しなかった.これは Table 13 に示されたアセノクマリンはイ ヌ及びウシ AGP には結合しないということをさらに強く示唆する結果となった.イヌ 及びウシ AGP のアミノ酸配列は未だに分かっていないけれども,ヒト AGP と動物種 間(ウサギ,ラット,マウス)では約 40〜50%の相同性であり107-109),この薬物結合 特性の種差にはアミノ酸配列が関与しているかもしれない.

 次に Kragh-Hansen モデルを用い,より詳細な相互作用様式を検討した.Table 13 に示すように,ヒト AGP 同様イヌ及びウシ AGP 分子上でオーラミン O とクロルプロ マジン,さらにクロルプロマジンとプロゲステロンは同一あるいは一部オーバーラップ している位置で結合し,オーラミン O とプロゲステロンは異なった位置に独立して結 合していることが示唆された.

J J

H H

B

B B

J H

0 20 40 60 80 100 120

0 1 2 3

B JH JH JH

B B

B

0 20 40 60 80 100 120

0 1 2 3

B

Dog Bovine

B

B

B

B J

J

J

H H H

0 20 40 60 80 100 120

0 1 2 3

Human

Binding as %initial

[Ligand] / [AGP]

Fig. 31 Effects of drugs on free fraction of auramine O bound to different AGPs

The following concentrations were used: AGP, 10 µM, auramin O, 10 µM and dugs, 10-30 µM.

B, chlorpromazine; J, acenocoumarin; H, progesterone.

Table 13

Binding patterns of ligand - ligand interaction to different AGPs as deduced from the theoretical curve

Complex Human Dog Bovine

I I

I I

I I

Auramine O - Chlorpromazine Auramine O - Acenocoumarin Auramine O - Progesterone Chlorpromazine - Acenocoumarin Chlorpromazine - Progesterone Acenocoumarin - Progesterone

Note: ○; competitive, ●; independent, I; acenocoumarin is not bound to AGP.

 これらのことから,Fig. 32 に示すように,イヌ及びウシ AGP 分子上には,ヒトとは 異なり酸性薬物の結合サイトは存在しないものの,ヒト AGP 同様,塩基性薬物及びス テロイドホルモンの結合サイトは一部オーバーラップして幅広い結合領域を形成してい るものと推察された.なお,酸性薬物はアルブミンに結合するため110),臨床試験など を行う際には,動物種 AGP に酸性薬物結合サイトが存在しないことは必ずしも重大な 問題ではないと考えられる.しかしながら,ヒトとイヌ,ウシの間で薬物結合サイトに 相違が観察されたことは,他の動物種 AGP においても結合サイト特性ひいては薬物の 結合性に種差が認められる可能性を示している.すなわち,臨床試験にのぞむにあたっ て動物実験より得られたデータを解析する際には結合性の種差を十分配慮し,in vitro

あるいはin vivo のヒトと実験動物における結合性の種差について検討する必要性を強 く示している.

Human AGP

Basic drug binding site

Steroid hormone binding site

Dog and bovine AGPs

Acidic drug binding site

Basic drug binding site

Steroid hormone binding site

Fig. 32 Proposed drug binding sites of different AGPs 第4節 小括

 本章では,ヒト,ウシ及びイヌ AGP 分子上における酸性薬物,塩基性薬物,ステロ イドホルモン結合サイトの特性やそのサブサイトの位置関係を明らかにすることを目的 とし,限外濾過法を用いて,各種 AGP の輸送蛋白としての機能評価を行った.その結 果,以下の知見が得られた.

1)ヒト AGP 分子上においてオーラミン O-クロルプロマジン,オーラミン O-アセノ クマリン,クロルプロマジン-アセノクマリン,クロルプロマジン-プロゲステロン,ア セノクマリン-プロゲステロンは 1 つの結合サイトで競合するが,オーラミン O とプロ ゲステロンは独立した2つの結合サイトにそれぞれ結合するか,もしくは 1 つの結合サ イトに 2 つのリガンドが独立して結合する可能性が示唆された.

2)イヌ及びウシ AGP 分子上には,ヒトとは異なり酸性薬物の結合サイトは存在しない ものの,ヒト AGP 同様,塩基性薬物及びステロイドホルモンの結合サイトが一部オー バーラップして幅広い結合領域を形成しているものと推察された.

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