はじめに,本研究ではこころとからだの関係や自己と身体と環境(他者や物,
事柄)という関係の中で語られる身体像やボディイメージといった概念を包括 したものとして広義に捉え,身体イメージという用語を用いて表した.
身体イメージの用語や定義は衛藤(1999)が述べるように,その研究領域の 拡大に伴い,複雑化し,曖昧さが増しているのが現状である。最近では,秋本
(1990)や村山(1995),衛藤(1999)らが身体イメージの用語や定義の整理 を試みているが,現時点では,太田(1990)も述べるように,一義的に確立さ れた定義はないといってもよい.衛藤(1999)は「それぞれの測定方面によっ て測定されているもの」がボディイメージであり,そのため,これからの研究 において同一被験者に複数の測定方法を用いていくことが必要であると述べ,
身体イメージを多角的に捉えることの重要性を指摘している.年齢の高い子ど もや成人を対象にした場合,測定法を様々に用いることが可能であるため多く の研究から身体イメージと心理的諸機能との関係が深いことを示唆する報告が なされている(秋山・藤本,1990;柴田,1990;伊原,1992;清水,1998;
長谷川,1999他).また,成瀬(1977)のいう自己が危機的な状態に陥った場 合,自己存在感や自己現実感,「私」と「他者」,「私」と「世界」の認識を修正 するために,身体イメージにアプローチすることが有効であると考えられるこ
とから,最近では,村山(1995)によれば,精神分裂病者へのダンスセラピー や神経症者への経験的運動(experiential movement),薬物嗜癖者へのバイオ エネルギー訓練など,ボディイメージの変容そのものを目標としたセラピーが おこなわれており,実証的検証は確立していないとしても心理的機能への効果 を示している.このように,身体イメージは心身相関性のなかで取り上げられ るテーマである.
村田(1972)は,子どもの精神発達における身体の役割について,次の表の
自動的運動 ↓
内受容的感覚の分化
(漠然とした身体感覚の発生)
↓ 情動の発達 感覚と運動の循環反応
↓
身体でのまわりへの働きかけ 感覚的イメージの発達
↓ 表象能力の発達 自己身体像の把握
(身体図式の発達)
↓
身体模倣能力の発達 ↓ 象徴機能の形成 自他の区別 対象関係 自己の確立… 社会化 の発展
ようにまとめている.身体イメージの 形成によって子どもは,まわりと自分 の関係,周りの物と物との関係を知る ことが可能になり,自分の身体を空間 の中での基点として認識できることに よって,他人と自分の関係を知ること ができ,対象関係をつくることができ ると述べている.このように,身体イ メージは子どもの心身の発達に重要な ものであるとされている.今回の調査 では,人物画に描出されない身体部位に関しても幼児はその身体イメージを有 していることが示唆された.低年齢児や障害児では言語を媒介とする身体イメ ージの測定には困難を伴う.言語にあまりよらない方法では身体ポインティン グや運動・動作の観察,遊び場面などの行動観察などの方法を用いることで,
その身体イメージを推測することは可能であるが,この場合,身体イメージは それらの行動を説明するにとどまる.また,具体的にその子どもがどのような 身体イメージを有しているのかを知るためには,描画を代表とする投影法が有 効であると考えられるが,描画の場合も描画スキルなどの変数により,身体イ メージそのものが直接的に表されるものではなく,また,その点に関して二型 パズルも同様であると思われる.今回の健常児の人型パズルとパズル評価の人 物画にみる身体イメージの加齢に伴う変化をみると,二型パズルは人物画より も発達的に先行するものの,ほぼ同様の身体イメージを捉えていたと考えられ た.このことから,描画の困難な低年齢児や障害児に対しては,二型パズルを 用いることで人物画による測定の代用とすることができると考えられた.子ど もの身体イメージを捉える場合,いくつかの測定法を併用し,それぞれの限界
を補いながら多角的に捉え,それぞれで測定された身体イメージの関連を繋ぎ 合わせ構成していくことが必要であると考える.今後,二型パズルや人物画と それ以外の測定を併用することで,子どもの身体イメージの発達をより詳細に 把握することができるのではないかと考える.また,今回の調査では,子ども の身体イメージの発達と心理的諸機能の発達との関連を検討することはなかっ たが,それらの関連を明らかにすることが今後の課題であると思われる.
次に,自閉症児の身体イメージについては,今回の調査から山型パズルを用 いてその様相を捉えることの可能性が示唆された.しかし,今回の調査では対 象の抽出に偏りがあったことや対象人数が少なかったという理由から,詳細な 検討をおこなうことはできなかった.今後,この点を改善して検討がおこなわ れることが望まれる.また,人型パズルと人物画での身体イメージ得点とK:IDS の発達年齢との相関分析の結果では,概念や社会性の領域での発達年齢とは低 い相関係数しか得られなかった.このことから,自閉症児の身体イメージを捉 える場合,その発達のアンバランスさを考慮に入れることが必要であると考え られた.また,両者とも操作領域の発達年齢と相関関係にあったことから,今 回測定された身体イメージは身体に関する知識や身体を上手に動かす力といっ た面での身体イメージであることがうかがえた.自閉症児の身体イメージにつ いて,神園(1998)は自閉症児の姿勢・運動の特性を自我や意識の作用,自己 身体とものや他者との関係,身体図式との関連において整理することを試みて いる.また,浦崎(2000)や神野(2001)は自閉症児との長期にわたる関わり の中での描画の変遷から自閉症児の身体イメージと関係性の障害について述べ ている.今回の調査での身体イメージはこれらの研究における身体イメージと は違う側面での身体イメージであったと考える.今後,自閉症児に対しても身 体イメージを多角的に捉える方法を用いることで,身体イメージと自閉症児の
どの機能に関連があるのかを検討することが課題であると思われる.
第5章 研究のまとめと今後の課題
第1節研究のまとめ
本研究では,人物画には描出されない身体部位のイメージについて検討する ため,はじめに健常児を対象に人型パズルと人物画による身体イメージの測定 をおこなうことで,人型パズルによってそれらの身体イメージを測定すること が可能であるかについて発達的評価を試みた.その結果,3歳児では人物画に 描出されなかった身体部位についてもイメージを有しており,それらの身体イ
メージを人型パズルによって捉えることが可能であった.また,3歳児の達成 率がすでに全体の約半分の達成率に達していたことから,3歳児以下の子ども に対しても人型パズルによって身体イメージを測定することが可能ではないか と考えられた.
次に,身体イメージの問題が運動領域や関係性の障害との関連の中で指摘さ れながらも,検査上の困難性などの理由からその身体イメージの様相が十分に 検討されていない自閉症児を対象に,調査をおこなった.自閉症児へも人型パ ズルと人物画による身体イメージの測定を試み,健常児と同様に,二型パズル によって人物画には描出されない身体部位の身体イメージを測定しうるかにつ いて検討をおこなった.その結果,人型パズルによる身体イメージの表出が困 難であった対象児はいたものの,その他の対象児ではパズル評価の人物画より も人型パズルの達成率が高かった.対象人数が少なかったことから明確にはい えないが,人型パズルによって自閉症児の身体イメージを捉えることが可能で あったと考える.
次に,人型パズルと人物画によってみられた自閉症児の身体イメージの様相 を示すことを試みた.まず,人型パズルとパズル評価の人物画での達成率を健 常児と比較したところ,身体イメージの様相は対象児間で大きく異なり,個人 差が大きかったが,「頭部」は比較的達成率が高く,「胴」では低い達成率を示
す傾向がみられた.また,個人内において身体部位によって身体イメージの形 成の度合いが異なる様子がうかがえた.
次に,人型パズル及び人物画での自閉症児の身体イメージが主にどの側面で の発達と関係があるのかをみるために,それぞれでの身体イメージ得点と KIDSによる各領域での発達年齢との相関分析を試みた.その結果,両者とも
にKIDSでの操作領域での発達年齢と有意な相関が得られた.このことから,
今回の調査で得られた身体イメージは主に,身体に関する知識や身体を上手に 動かす力といった面での身体イメージであったと考えられた.
最後に,身体イメージと関係していると考えられている動作模倣と人型パズ ル,人物画にみる身体イメージとの関係をみることを試みた.動作模倣課題の 結果では,ほとんどの対象児が即時模倣の全項目を通過し,また,動作模倣課 題全体でみても,高い達成率を示していたことから,今回の対象児にとっては,
今回用いた動作模倣課題は比較的容易なものであったと考えられた.三型パズ ル,人物画での身体イメージ得点と動作模倣課題全体での得点には有意な相関 は得られなかった.三型パズルと連続動作の模倣には弱いながら,有意な相関 がえられた.このことから,今回の自閉症児への調査では,即時模倣→人型 パズル・連続動作の模倣→人物画といった順に難易度が高かったと考えられ,
今回の対象児では二型パズルから人物画にいたる過程に困難さが生じていたの ではないかと考えられた.