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5.1 総合考察

 本研究は,今日の生徒指導が抱える様々な問題への積極的な対応としての生徒指 導推進の課題として,児童理解のあり方に焦点をあてて,学校における実践的な研 究を進めてその教育的効果を検証した。これまで,予防的・開発的な積極的生徒指 導に対してどうしても遅れをとっていると言わざるを得ない学校の生徒指導体制を 見直し,積極的な生徒指導を目指した学校体制を学校教育相談(以下,教育相談と 表記する)に求め,児童理解を基本とした援助機能を確立することで,今目の学校 が抱える生徒指導推進上の課題の改善に寄与するものと考えて,教師連携の校内シ ステムによる児童理解の実践モデルの構築を実践的に目指した研究を進めてきた。

 児童理解はこれまで,個に応じた教育の基本であるとしてその重要性は生徒指導 に留まらず,教科指導においても強調され続けてきた。しかし,その定義や方法に ついては現場においてあまり焦点をあてて論議されることがなかったものと考える。

本研究をとおして,児童理解とは何かというその概念を明確にして,その考え方を 生かすための機能としての児童理解の方法を,教育相談の中で「主観的理解」「客観 的理解」「共感的理解」の3つの方法論に基づいて具現化し,有機的な関連をもたせ ながら教師連携のもとで多面的なアセスメントを試みた。本研究における理論研究 の中で,2.2に示したように,児童理解の概念を定義づけして,そのための方法論を 明確にしたことは,これからの学校における教育活動として児童理解のあり方を考 えていく上で意義あることであったと考える。

 また,教師の児童理解に関する調査を実施したことで,児童理解への取り組みの 現状と今後の課題が浮き彫りとなった。教師はその個人の資質に児童理解の方法と 活用が任されてきたことから,経験や個人の資質による取り組みの格差をなくし,

同じ目的意識のもと教師の連携を基本として理解の方法を共有しながら積極的な児 童理解を図っていきたいと望んでいることが明らかとなった。この調査結果は,本 研究実践に向けた貴重な視点を得ることとなり,校内連携体制,児童理解の方法の 獲得,理解のための知識や技能の向上を基本としたシステムを教育相談の中で構築

していく必要性を示唆する調査結果となり得た。

 多面的理解のためには,児童の何を目常の中で見取っていくのかという領域を明 確にして,その領域に関わる内容を目常の中でどのように理解していくかという方 法を具体化することが重要であった。本研究では,2.2.2において,学校で目常的に すべての児童にっいて必要となる基本的な理解領域および内容を整理して確立させ た。そして各方法に基づく実践においてはこの領域に関わる視点に沿った理解を目 指した。また,チームによるアセスメント会議を重ねることで,複眼的視点のもと で各領域を多面的にアセスメントし,理解を深めることができた。このような児童 理解の領域を網羅した理解の方法とアセスメントは,本研究のテーマであるところ の多面的児童理解を目指したものであり,理解の領域をふまえた手立てとアセスメ

ントは多面的理解を可能としたものと考える。さらに,多面的な児童理解は,援助 方針まで含めた児童理解にとってはどの領域のどの内容で援助を必要としているか という児童の援助二一ズを見出すことにもなり,児童にとって適切な援助について のより正確な判断を可能にしたものと考える。

 本研究では,上記の3っの方法論に基づいて「観察法」「検査・調査法」「面接法」

の具体的な手立てを構築した。「観察法」については「児童理解モニターチェック表」

を開発し,その活用の手立てを明確にして教師の観察法を確立させた。実践におい ては,記録に慣れるまでに時間がかかるといった点や,毎日は難しいといった点で の反省が残された。今後改善の余地はある。しかし,これまで観察による情報や他 の教師から聞いた情報を日常的に記録する習慣が曖昧であったものを,この表の活 用によって積極的に取り組む習慣づけとしたことや,観察が教師の児童理解のモニ タリングとして理解の視点や児童への関わり方の変容をもたらす効果を目指したと いう点では,意義ある開発と活用であった。特に,児童理解の視点をふり返って,気 になる児童やあまり関われていない児童に対して次回から肯定的に関わろうとする ことで,その繰り返しが児童理解を広く深く進められるだけでなく,すでに肯定的 関わりが初期の個別援助となっていた可能性については4.4。2でも述べたとおりであ

り,反省をふまえて改良しながら学校現場に導入することは,今後の教育的効果に 大きな期待ができる。また,「検査・調査法」で導入した「学級生活満足度尺度」お よび「文章完成法テスト」については,客観的な理解において内容が適切で有効な 手段であると考える。学年や発達段階を考慮し,学年に応じた内容を今後検討して いく余地がある。文章完成法テストについては,書くことを苦手とする児童や文章 にまとめることが難しい発達段階の学年に対しては,調査法として別の形式で児童 の内面の気持ちを率直に引き出すことのできる方法を新たに考えていくことも検討 する余地があるものと考える。面接法については,3.2.4に示した内容で明らかにす べき点に焦点をあてた面接の進め方を試みたが,面接の技量は教師によって差があ

り,かつカウンセリングの技法を導入するとなると,専門的な技術と経験が必要に なる。今回は,コンサルテーションの中で面接の進め方や必要となる基礎的な技法 について学び合う時間を設け,どの教師も面接のねらいが達成できることを目指し た。しかし,短時間でそれらの内容を身につけることは不可能であり,結果的にコ ンサルテーションで学び合ったことを参考として押さえながら,その進め方は教師 の主体性に任せた格好となった。しかし,3.2。4に示したような面接の基本的内容や 教師の姿勢を意識して臨んだことにより,4.3。3で示した面接のねらいがほぼ達成で きたと考える。

 また,本研究で実施した理解の手立ては,生徒指導の目的である自己指導力の育 成という点で必要となる自己理解の促進にとっても効果的であった。特に,文章完 成法テストや面接法は児童の内面を引き出し,自己の現状や目標を認識させること

となり,教師側の視点による具体的な情報の獲得とともに,児童本人の自己理解の 促進につながったものと考える。この点については,4.4で明らかとなった実践の教 育的効果の検証結果でも,児童の自己受容領域の得点が上昇し,さらには自己実現

的態度の得点が上昇したことからも言える。

 教育相談については,これまで学校における役割や位置づけが曖昧とされてきた問 題点を改善すべく,3.1.1で示した教育相談の機能を明らかにして,会議型援助チー

ムを基本単位とした組織の中でそれが機能するように活動内容を明確することがで きたと考える。そして,その活動内容に沿ったチーム体制による教育相談活動によっ て協働的な児童理解を目指した。その結果,日常の情報連携だけでなく,会議をと おした相互コンサルテーションとしてのアセスメントや活動の共通理解を図るため のコンサルテーションによって教師の行動連携が促進されたと考える。また,同じ 目的意識の中で,個別の視点にチームのメンバーがすべてが関心をもち目を向けよ うとする姿勢が形成されたと考える。この協働化により,以降の援助実践に移行し た際もチームで援助していこうとする意識や児童をよく見ていこうとする姿勢,あ るいは他の学級の児童についても連携体制をとって関わり援助していこうとする姿 勢が継続し,必然的かつ意図的に援助チームが形成されることにつながるものと考

える。

 以上の考察は,4,4でも明らかとなったとおり,実践の効果が示され,研究実践の 仮説が証明されたことからもいえると考える。よって,本研究の理論および実践は,

1.4で述べた本研究の目的を達成できたものと考える。

5.2 今後の課題と展望

5.2.1 学校教育相談体制のあり方

 本研究は,児童理解を進める上での学校体制を教育相談に求め,教育相談体制を 明確に位置づけることを一つの柱として実践を試みた。そこで,Fig.3,1に示した教 育相談の構造を打ち立て,それぞれの機能を生かした協働化による児童理解のあり 方を開発的に探ってきた。本研究実践はその一つの具体例を示すことができたもの

と考える。今後,教育相談を中核とした生徒指導を推進する上では,教育相談の構 造に示したように,教育相談の機能を明確にした校内体制を学校に整備する必要が ある。しかし,現実には,問題対応としての生徒指導に力点が置かれ,教育相談の 機能は学校に十分浸透していない感が否めない。

 香川県教育委員会が実施した教育相談の現状の調査*95によると,小学校だけでみ ると,教育相談が校務分掌に位置付けられているとの回答は,全体の88%であった。

これは割合からすると高いといえる。教育相談がどのように位置付けられているか については,部や係として独立しているのは22%であり,生徒指導部の中に所属し ているのは71%であった。中学校でも生徒指導部の中にあるという学校がほぼ同じ 割合であった。これは教育相談の性質上,生徒指導の一環として機能するものとい う考え方からすると,独立するよりも生徒指導部の中に位置づけるほうがよいとい う考え方によるものであろう。しかし,高等学校では,77%が独立した部として位

*95 川県教育センター(2000),前掲書*21,pp.(4)7一(4)10

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