31 児童理解のための校内体制の構築
31.1 学校教育相談の機能を生かした教育活動
生徒指導の機能の中で,これまで児童を理解する機能としての役割を担ってきた のは学校教育相談である。そこで,本研究実践においても,学校教育相談(以下,教 育相談と表記する)の機能を生かした児童理解のための体制を整備することが,学 校体制としての児童理解のシステムを確立していく上で妥当であると判断した。
また,1.2.1にも述べたとおり,教育相談は,児童の「自己実現」を促進するため の援助の一つであり,積極的な生徒指導の中核としての役割を担うものである。児 童理解は予防・開発的な積極的生徒指導を目指したものであることから,児童理解 を校内体制として推進していくためには,教育相談体制を構築することが不可欠で あると考える。しかしながら,これまで教育相談はその機能や体制が明確に位置づ けられてこなかったという課題も指摘された。
そこで,教育相談の体制のあり方を実践に取り入れて,教育相談の機能を生かす 体制を構築することにする。
まずは,教育相談の機能とは何かを明確にしたい。
今井(1886)*74は,教育相談の機能を以下のように述べている。
一人ひとりの生徒に正面から対し,その生徒(児童)がどこでつまずい ているかを明瞭化し,そのつまずきまでさかのぼり,手をさしのべる。
このようなかかわりによって(児童)生徒が自己実現の欲求をもち,自 らの内に秘めたカによって自己実現をはかるように援助し,その援助に よって(児童)生徒が自己実現をはかれるように変容することを,学校
教育相談の機能と呼ぶ**。 軸 ()は著者
が加筆
この考え方は,児童が自ら自己実現を図る能力が備わっていることに信頼を置い た援助機能であるととらえることができる。そして援助のためには,児童が抱える 問題の明瞭化という点での児童理解が必要であることが示されている。
岩手県総合教育センター(1999)*75は,教育相談の機能として,以下の4点を挙 げている。
1,開発的教育相談
児童生徒の能力,人格,精神的健康などを,さらに望ましい方向へ押し 進める。一人一人の自己実現の課題を明確にし,その可能性を最大限に 生かすように援助する。
掌74今井五郎編著(1986)『学校教育相談の実際』,p.14,学事出版
*75岩手県総合教育センター(1999),前掲書*33,p.144
2.予防的教育相談
一人一人の児童生徒の内面理解を図り,信頼関係を確立する。目頃から,
一人一人の児童生徒の精神的健康の維持と増進を図る。
3.援助的教育相談
問題を抱えた児童生徒を対象に,どのようなことで,どの段階でつまず いているかなどを明らかにして,一人一人に見合ったかかわりをもち,
自己実現欲求を引き出しながら適応を図る。
4.訓育的教育相談
問題行動傾向をもつ児童生徒には,信頼関係を前提として,「気持ちは受 容するが行為は認めない」という毅然とした姿勢で,本人の将来を思い やり,問題行動をなくして,けじめを守らせる援助を行なう。
この中で,1.から3.までは,生徒指導における問題の早期対応の面を強調した機 能であり,自己実現の課題の明確化,児童の内面を理解することによる信頼関係の 確立,問題レベルの理解という点で,児童理解の必要性を強調したものである。
香川県教育センター(2000)*76は,教育相談の利点として以下の3点を挙げている。
L予防的,開発的な援助が可能である。
2.児童生徒の問題行動を早期に発見し援助することが可能である。
3.様々な援助資源を活用した多面的な援助が可能である。
上記の利点については,問題への早期対応としての教育相談の援助機能としてと らえることができる。
以上の考え方をふまえた上で,児童理解は,教育相談の中でも,予防的,開発的 な教育相談の機能ととらえ,その広義の機能を以下のように考える。
教育相談の広義の機能
児童の自己実現傾向や抱えている問題を多面的に理解し,児童一人ひとりに 見合った援助方針を定めて,予防的・開発的に援助する機能である。
この機能を生かす教育相談活動は,多面的理解に基づく援助が可能となるように,
組織を中心とした活動として,その具体的な活動内容も含めて構築する必要がある。
大野(1997a)*77(1997b)*78および栗原(2002)*79は,教育相談活動のあり方を 示している。大野,栗原の考えをもとにすると,教育相談活動は,「統合活動」「カ
*76 川県教育センター(2000),前掲書*21,p.4
*77大野精一(1997),前掲書*20,pp.130−135
*78大野精一(1997),前掲書*43,p.26
ホ79栗原慎二(2002)『新しい学校教育相談の在り方と進め方 一教育相談係の役割と活動一』,pp.38一
ウンセリング活動(学校カウンセリング)」「プロモーション活動」の3つの活動を 柱とすることができる。
教育相談の3つの活動を,先述した教育相談の広義の機能を支えるための狭義の機 能としてとらえると,それぞれの活動の機能は以下のようにまとめることができる。
1.統合活動
組織としての活動の定着を図り,教育相談の活動全体を評価し,評価に基づい て活動を再構成する。
2.カウンセリング活動(学校カウンセリング)
教師の多面的な視点に基づき,児童の援助二一ズに応じて直接的および間接的 に援助する。
3.プロモーション活動
全ての教師が学校カウンセリングを推進するために必要な基盤を整備する。
Fig.3.1は,それぞれの機能における活動内容を具体的に示し,教育相談活動全体 の構造としてまとめたものである。
統合活動
学校教育相談
プロモーション活動
・教育相談の目標および計画の作成 教育相談活動に関わる情報提供 研疹会の企画・運営 カウンセリング活動
学校カウンセリング)
・活動のための組織化
・活動の形成的評価
評価に基づいた組織や活動の再構成 活動の総括的評価
・子どもへの直接的な援助活動
・集団を対象とした指導,助言,および情報 やスキルの提供
唖・活動の場と時間の設定・活動のための備品や記録管理・人的資源の管理・調整
コンサルテーショ
・援助者による援助方針の検討 援助活動のための情報交流 援助者の援助スキル向上に向けた研修
コーディネーショ
・教師間の連絡・調整および学外の専門機関 の連携
カウンセリングの計画の立案
Fig.3.1 学校教育相談活動の構造
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」1。2 会議型援助チームの組織化
本研究実践では,Fig.3.1に示した学校教育相談活動の中の「学校カウンセリング」
を推進するための組織として,「会議型援助チーム」を編成する。
学校現場においてはこれまでも,児童理解として位置づけられる会議として,生 徒指導部会議,生徒指導事例研究会,学年生徒指導会議などが行なわれていた。しか し,多面的なアセスメントに基づく具体的な援助方針の確立と援助実践というチー ムのねらいを明確にし,会議と援助活動が同じメンバーの中で協働的に機能するこ
とを目指したものとして,より機能的な組織を構成することが必要である。
佐藤(2004)*80は,会議型援助チームの意義として以下の5点を挙げている。
1.多面的なアセスメントと多様な資源の発見と活用
2.すべての児童生徒に対する指導・援助の公平性と全体的整合性の 確保
3.責任あるr教育的判断」と指導・援助の役割の明確化 4.教師の支え合いや学び合い
そして,会議型援助チームは,CチームとLチームとで展開するとしている。
CチームとLチームにっいて,八並(1999)*81は,協働的生徒指導体制として,教 師の役割や校務分掌に責任を集中させることを避け,援助に関わる教師が情報を共 有し,それぞれの持ち味を生かした援助できるように,援助の目的に応じて柔軟に 改編しながら機能させるチーム編成としての,Cチーム(コラボレートチーム)と Lチーム(リーダーチーム)による2つのチームによる協働体制のあり方を示して
いる。
佐藤は,Cチームは担任教師,養護教諭,生徒指導主事,教育相談担当などがメ ンバーとなり,L児童生徒の特性や環境,間題状況についてのアセスメント,2.活 用できる資源の把握,3.具体的な指導・援助策の決定,を行い,その際には,定型 化された援助シートを用いるのが有効であるとしている。また,Lチームは,管理 職,分掌主任等で構成され,Cチームの活動状況の報告を受けて,助言や承認を与 えることで,Cチームの機密性を避けるとともに,継続性を保つことができるとし
ている。
「会議型援助チーム」は,援助方針の決定まで含めた協働化による多面的な児童 理解の推進というねらいに十分合致する校内体制であり,本研究実践では,協働化 を図りやすい学年団を中心とした構成メンバーで,Fig.3.2のとおりに「会議型援助 チーム」を構成する。
*80佐藤一也(2004)「会議型援助チーム」目本学校心理学会編集『学校心理学ハンドブック ー「学 校の力」発見一』,pp.128−129,教育出版
ホ81八並光俊(1999)「「柔軟にかかわり続ける」生徒指導体制の構築」『月刊生徒指導』10月
号,29(13),pp。14−17,学事出版