4.1 実践の目的と方法
4.1.1 実践の目的
児童の心身や行動面での問題に対して積極的生徒指導としての早期対応が重要で あり,そのために児童理解を基盤として,教師の協働化による連携のもと,情報交 流やアセスメントを進めながら個に応じた支援方針を見出していくことの重要性は,
先にも述べたとおりである。
さらに,生徒指導の究極的な目標である,自己実現を図る上での児童の自己理解 という点においても,自己を受容し,さらに自己を発展させるための目標をもち,そ の目標との関連で自己の現状を把握する能力を育成していくことが必要であるとい うことも強調したとおりである。そのためには,学校現場において,自己理解とい う概念を含めた児童理解の方法を確立させ,校内体制のもとで協働的に児童理解を 進め,積極的生徒指導に寄与するモデルの構築が課題となる。
そこで,前章では,問題への積極的な対応という課題に対し,学校現場において 具体的にどのように実践するかという点に関して,学校教育相談を基盤とした児童 理解の体制,そして児童理解の具体的な実践方法の構築を行った。
児童理解を機能的に促進させることは,教師の日常の児童理解に対する意識を変 容させ,連携をべ一スに個々の児童を適切に理解していこうと努めることにつなが るだけでなく,個に応じた適切な援助方針を見出すことにもなるものと考える。そ の結果として,教師の児童理解に対する自信も高まるであろう。また,児童にとっ ては,より教師との信頼関係の中で自己理解を促進させることにもつながり,結果 として,児童が抱える問題への積極的な対応という点において有効な実践モデルと なるものと考える。
そこで,学校現場での実践の目的は,積極的生徒指導を目指した児童理解の体系 的な教育活動を学校現場において実施し,実践モデルの教育効果および教師にもた
らす効果を検証することである。
本研究実践の効果の仮説は以下のとおりとする。
(1)仮説1
学校教育相談体制のもとで,児童理解の具体的な手立てを講じながら児童理解 を推進することで,教師間の連携が強化されるとともに,協働意識の中で児童
理解に対する自信**が向上するであろう。 町こでいう 教師の「自信』
とはロ とし
(2)仮説2 石讐盤警 するさかの 教師の協働的な児童理解は,児童への適切な個別援助のための基盤として,多 聾毯嚢 面的で正確な理解が促進されるとともに,問題の早期対応としての生徒指導の する。
機能となるであろう。
(3)仮説3
「主観的理解」「客観的理解」「共感的理解」を理解の基本として,具体的な手 立てのもとで有機的な児童理解を推進すれば,児童の自己理解が促進されると ともに,教師への信頼感が助長され,教師と児童との好ましい人間関係が醸成 されるであろう。
4.1.2 実践の方法
児童理解の実践は,予防的,促進的援助をねらいとする一次的援助サービスの対象 者であるすべての児童を対象として,Fig。3.6に示した実践モデルに沿って実施する。
本研究では,5,6学年を中心とした高学年団を児童理解のための対象とし,その 担任教師団を中心とした会議型援助チームを組織した。実践は,第一次計画と第二 次計画の2段階で実施した。その内容は以下の通りである。
(1)第一次計画
・実践の概要説明,合意形成および援助チームの組織化,児童理解の目標の確立
・観察法,調査・検査法についてのコンサルテーション
・第1回アセスメント会議(情報の共有および分析)
・フォローアップ会議(第一次計画の形成的評価)
・第2回アセスメント会議(面接対象者の抽出)
(2)第二次計画
・面接法についてのコンサルテーション
・フォローアップ会議(第二次計画の形成的評価)
・第3回アセスメント会議(援助方針の決定)
第一次計画は,実践の目的を明確にした上で体制の組織化を図り,一次的教育援 助として全児童を対象とした児童理解を進める。さらに,集めた情報にっいて会議 をとおしてアセスメントし,二次的教育援助の必要がある,あるいは今後必要とな る傾向を示していると思われる児童を抽出し,面接の対象者とする。
第二次計画では,面接の目的や方法を共通理解した上で,抽出した対象児童生徒 に面接を実施する。さらに,アセスメント会議によって,これまでの情報に基づい て具体的に援助方針を決定する。
実践計画の流れは,Fig.4.1に示したとおりである。なお,研究としての実践の範 囲は,援助実践の開始は含まないものとする。
第 次 計 画 第 二 次 計 画
第一 フオロ︸アツプ会議 第三回アセスメント会議
目標設定および組織化 コンサノレテ1シヨン 回アセスメント会議 フオロ1アツプ会議 学級生活
足度尺度 面接
援聖募盟
コンサノレテ1シヨン
文章完成法 スト
第二回アセスメント会議
観察法(モニターチェック表)
Fig.4.1 実践計画の概略
4.2 対象および計画
4。2.1 実施校の概要および対象
(1)実施校の概要
本研究は,D県E市立F小学校において実施する。F小学校は,全校生徒数約300 名弱の中規模校である。
F小学校は,「知性を磨き,豊かな心をもち,たくましく生きる子ども」を基本目 標として,「運動する子」「勉強する子」「はたらく子」「しんぼう強い子」「親切な子」
を教育重点目標に掲げている。また,F小学校の伝統としてこれまで培われてきた
「健康教育」「特別支援教育」「情操教育」を3つの宝として,学校経営の重点に置い
ている。
学校教育目標の具現化に向けて,生徒指導に関わっては「生徒指導を充実させ,子 どもの健全育成に努める」ことを重点としている。この重点課題を受けて,生徒指 導運営計画においては,「心豊かで心身ともにたくましい児童の育成j「自己実現の 喜びを実感できるような指導の充実」「問題行動等の早期予防および対応」を指導方 針として掲げている。その中の「自己実現の実感」に向けた指導の重点目標を,「一 人ひとりの児童理解に努め,教師と児童,児童と児童のふれ合いを大切にし,生活 体験や人間関係を豊かなものとする生徒指導の実践に努める」としている。そして,
この重点目標の達成のために,職員間の情報交換の徹底を図ること,学級担任は児 童の動きをしっかり把握するように努めることとしている。
また,教育相談の充実も生徒指導推進の課題としている。相談ポストを設けたり,
教育相談の手順を明確にしたりして,積極的に教育相談を機能させる体制がとられ ている。しかし,組織としては生徒指導部が推進の役割を兼務し,校務分掌上は生 徒指導主事が兼任として担当することになっている。
児童の実態としては,児童間の大きな問題はあまり見られない。学級集団も比較 的安定している。
F小学校は,かつては学年に1人から2人ほどの不登校傾向の児童が存在し,そ の対策が生徒指導上の重点課題であったが,現在では,不登校傾向を示す児童は少 なくなっている。しかし,児童理解を基本に置いた不適応児童への早期対応は継続
して重点課題となっている。
また,著しい児童の問題行動はほとんど見られない。F小学校では,些細な問題 についても定期的に話し合う体制がとられており,学年団生徒指導会議で出された 問題状況について,生徒指導部会で報告し合い,それを受けて職員会議の中で状況 を説明するという手立てがとられている。
以上のようにF小学校は,児童理解や教育相談,そして学年団や生徒指導部を中 心とした情報連携に積極的に取り組んでいる。本研究における援助チームの構成を 考えたとき,F小学校は学年団として連携する機会が多く,学年団を中心とした組 織化が既存のシステムを生かすという点で適当であるといえる。
(2)対象
本研究は,小学校5,6学年を中心とする高学年団を対象とする。2.3.2の調査結 果からも明らかになったが,小学校教師は高学年の児童に関する理解に困難を感じ ている傾向が強いという現状が見られる。
『児童の理解と指導』(1982)*92に準拠して考察すると,高学年の児童は,心身と もに成長が著しく,青年期への移行が始まる時期である。論理的なものの見方,自 己概念の芽生え,教師や親への依存の減少と自立的な態度の発達など,比較的安定 していた時期から,第二の発達加速期へと入る。身体面においては,第二次性徴も 発現し,体型の変化とともに性意識の高まりも出現する。このような中で,不安や 不快,自立への欲求,自我意識が高まる反面,いらだちや葛藤など,揺れ動く気持 ちを感情的にぶっける,いわば反抗的な態度をとることで解消しようとする面が見 られるようにもなる。いわゆる第二反抗期の発現であるが,この時期の児童の内面 を理解していくことは,親はもとより教師にとっても困難を生じる。
このような時期の最中に位置する高学年を本研究実践の対象とし,実践の教育的 効果を検証することは,児童理解の実践モデルの有効性をより明確にすることにつ
ながるものと考える。
また,児童理解のチーム体制を学年団を中心としたものとすることで,同じ学年 団の担任として多くの教育的活動場面で児童生徒と関わる機会が多い分,児童に関 する情報共有や支援方針の共通理解を進めやすいという点で協働化を図りやすいと
*92文部省(1982),前掲書*57,pp.59−60