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第 4 章 農村の格差と農民の移住:郷鎮・村データを用いて

1. 統計資料に基づく郷鎮・行政村の状況

Ⅲでは、郷鎮および行政村における農村住民の所得状況を概観する。

表 4.3 は中陽県の郷鎮の農民 1人当たり純収入および鉱工業の立地についてまとめ たものである。中陽県には7つの郷鎮があるが、農民1人当たり純収入の分布が高所 得地域(寧郷鎮、金羅鎮、張子山郷、枝柯鎮)と、低所得地域(下棗林郷、武家庄鎮、

暖泉鎮)に二極化している。

続いて郷鎮の下位に位置する行政村の所得を、空間と分布の両面から概観しよう。

図 4.1 は、非公開内部資料を用いて、中陽県の全行政村における農民 1人当たり純 収入のデータマップを作成した。図中の丸の位置は村民委員会の位置を、丸の模様は

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図4.1 中陽県行政村別農民1人当たり純収入のデータマップ

出所)地図は中陽県志編纂委員会(1996)、杜(2001: 70)を参考に筆者作成。データの出所は関連機関の提供 資料。

注)2005年時点の行政村の地図を作成した。図中の丸の位置は、居民委員会と村民委員会の位置を表している。

所得水準を表している。高所得の村は金羅鎮東部、張子山郷西部、寧郷鎮北部そして 枝柯鎮に帯状に集中している。この 4 つの郷鎮は、既に表 4.3で示したように、鉱工 業が集中している高所得地域である。さらにこの地帯には国道と鉄道が並行して走っ ており、これらは製品の輸送経路となっている。一方、低所得の村は、下棗林郷、武 家庄鎮、暖泉鎮の低所得地域に集中しており、炭鉱と工場が少なく、国道と鉄道はな い。

さて、郷鎮と行政村の所得分布の状況を確認するために、Gaussian カーネルで密度 推計を行い、2005年における双方の農民1人当たり純収入の分布を描いた。それが図 4.2である。なお、バンド幅は 300としている。

図4.2からわかることが三点ある。まず、通常、地域所得分布に構造的な問題がな ければ、分布の峰は1つしか存在しないが、図4.2をみると、中陽県には、郷鎮レベ ルでは峰が二つ、行政村レベルでは峰が三つ存在し、中陽県には歪な構造の地域所得

枝柯鎮

寧郷鎮

武家庄鎮

暖泉鎮

0 10km

(元)

4000 30002000 1000

82

図4.2 中陽県における郷鎮と行政村の農民1人当たり純収入の分布(2005年)

出所)筆者作成。

注)縦軸はカーネル密度、横軸は人民元。破線は郷鎮、実線は行政村のカーネル密度である。用いたデータは 2005年の中陽県における全郷鎮と全行政村の農民1人当たり純収入である。ガウシアンカーネルによって推定 した。バンド幅はSilverman(1986:42-43)が推奨している方法で行政村のバンド幅300を求め、それを郷鎮と の共通のバンド幅とした。

格差が存在していることがわかる。第二に、同じ県内の地域所得分布を推定しても、

郷鎮と行政村で、所得分布の形状が大きく異なっていることである。これは、地域所 得に影響する要因が、行政階層のレベルで異なっていることを意味する。第三に行政 村レベルに地域的な貧困の存在である。中陽県には行政村が100あるが、そのうち36 の村が0元から1500元の範囲に集中している。それが図2では左の峰を形成している。

県内で最も低い村の所得は420元、最も高い村の所得は 4280元であり、その差は10.2 倍である。上海市と貴州省の農民1人当たり純収入の格差4.4倍と比べて、中陽県の

.0000 .0001 .0002 .0003 .0004 .0005 .0006 .0007 .0008

0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000

Kernel Density

Yuan Village (Solid line)

Town (Broken line)

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それは非常に大きい。中陽県が貧困県であることを考えると、三分の一の行政村は深 刻な低所得状態に直面しているといえそうだ。