第 2 章 地域格差と収束:省データを用いて
1. カーネル密度推計
まずカーネル密度推計を用いて、地域所得分布の形状の変化を確認し、収束の存在 を視覚的に把握することから始めよう。カーネル密度推計は
1 2.1
で表され、 がサンプルサイズ、 がバンド幅、 が分布を推計したいデータである。 に 0.0
0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2
-1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
Kernel Density
1952 1978
2007
48
図2.5 1952年、1966年、1978年の地域所得分布
出所)筆者作成
注)実線が1952年、細かい破線が1966年、粗い破線が1978年である。1952、1966年は海南を除く。
1 人当たり実質 GDP( )を入れると、右に歪んだ対数正規分布の形状をとるため、
対数をとることで正規分布に近い形状に変更し、さらに経済成長の影響を排除し分布 の形状だけを比較しやすくするために、平均 からの差をとった。すなわち、
ln ln ln 2.2
である。さらにカーネルKはいくつかの方法論があるが、ここでは次式で示される 1
√2
⁄ 2.3
Gaussianを用いた。ただし ⁄ である。バンド幅はSilverman(1986:47-48)
が提案した方法で1952、1966、1978、1992、2007年のバンド幅を推計し、それが 0.0
0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2
-1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
Kernel Density
1952
1966 1978
49
図2.6 1978、1992、2007年の地域所得分布
出所)筆者作成
注)実線が1978年、細かい破線が1992年、粗い破線が2007年である。データは海南を含む全31省である。
最も近い値である0.2を共通のバンド幅とした23。
図 2.4 は 1952 年、1978 年、2007 年の所得分布を比較したものである。これによ ると、1978年は分布の山が左へ移動し、低所得に収束している極が存在していること、
1.0 と 1.7 にも二つの分布が存在し、高所得にも僅かながら収束している極が存在し ていることがうかがえる。続いて1978年と 2007年を比較すると、0.5を中心に分布 が大きく歪んでおり、高所得に収束も極が存在していること、一方で全体として最も 大きな分布の中心が僅かに左に移動し、分布も-1.5まで存在していることから、低所 得にも小さな収束の極が存在していることがうかがえる。
23 標準偏差もしくは四分位偏差/1.34の小さい方に0.9を乗じ、さらにサンプルサイズの-0.2乗を乗じたも のが、そのバンド幅である。
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2
-1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
Kernel Density
1978
1992
2007
50
1966 年の分布も加えて、1952年から 1978年の分布の変化をより詳細に比較する と、1966年には分布の中心が左に移動したこと、0.5付近の分布が高くなっているこ とから二極化していることがわかる。1966年から1978年には、分布の中心はさらに 左へ移動し 0.5に存在していた分布の厚みが消滅していることから、収束が低所得に 一極化している。
続いて、改革開放以降の期間である、1978、1992、2007 年の所得分布を比較しよ う。この期間は高度の経済成長が続いたため、-0.3付近に不安定均衡が存在している ため分布の高さが減少し、その分、0.5 付近に安定均衡の収束の極が存在しているた め、分布の厚みが増大していることが明確に読み取れる。ただし、2007年には-1.5 付近まで分布が存在しており、低所得に小さな収束の極が存在している。
したがって、カーネル密度推計から、(1)1952年から1978年は低所得へ収束して いた、(2)1978年から2007年にかけては、高所得と低所得に、それぞれ二極の均斉 成長経路が存在していることが視覚的にわかる。