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第 4 章 シリア国北西部における長期間の都市下水の灌漑利用が環境に及ぼす影響

4.2. 長期間の都市下水灌漑利用に伴う土壌重金属汚染

4.2.4. 結論

都市下水が主体的なクウェイック川においては,未処理の皮なめしや毛織産業からの 工業廃水による Cr の混入が疑われた.25 年以上この灌漑水を使用している農地において は土壌全 Cr および Zn含量,可給態 Cdおよび Cu,Ni,Zn 含量が地下水灌漑農地よりも 有意に高かった.

都市下水灌漑が土壌重金属に及ぼす影響を明確化するために,逐次抽出法を用いて土 壌重金属の化学的形態を調べた.重金属の主要な化学的形態は,Cd は Carb 画分,Pb は

Mno/Feo画分,CrおよびCu,ZnはRes画分,NiはOMおよびRes画分であった.Cdは

図 21 小麦子実中の重金属含量および土壌重金属全含量,可給態含量,pH,有機物含量との相関関係

図 22 小麦茎葉中の重金属含量および土壌重金属全含量,可給態含量,pH,有機物含量 との相関関係

Carb 画分が主要な形態であったことは,土壌中の移動性が高い形態であると考えられた.

そのため,Cd は都市下水灌漑によって安定的な画分に移行していなかった.全ての重金 属の Res 画分における都市下水灌漑および地下水灌漑農地における含量が同程度であった 一方,都市下水灌漑農地において,Ni を除く全ての重金属において OM および Mno/Feo 画分において,地下水灌漑農地よりも有意に高かったことを明らかにした.OM および

Mno/Feo画分は Exchおよび Carb画分よりも相対的に移動性および可給性が低いと考えら

れている.つまり,長期間の都市下水灌漑によって,土壌 Cd,Cr,Cu,Ni,Pb および Zn の移行が生じ,Cr,Cu,Ni,Pb および Zn においてより安定的な画分に移行したと考 えられた.

選択溶解法の結果よりCrはAmor-Fe,PbはRRO,ZnはRROおよびAmor-Fe,Cry-Fe が都市下水灌漑による主要な重金属シンクとして働いていたと考えられた.これらの結果 はMnおよびFe酸化物が付加された重金属の吸着に大きく寄与していたと示唆された.

植物体の Cd 含量はコーデックスや欧州委員会の基準値以内であった.ほとんどの Pb は基準値以内であった一方,3 試料において基準を超過していた.これらの試料は DTPA 抽出態Pbおよび全Pb含量の高い土壌において生育していた.

以上より,本調査地域においては長期間の都市下水灌漑によって土壌へ重金属が蓄積 していた一方,FeやMn酸化物によってその危険性は軽減されていたと考えられた.その 結果,DTPA 抽出態の重金属量が相対的に少なく,植物体中に過剰に吸収されなかったと 示唆された.しかし,高濃度に蓄積した土壌においては植物への高濃度の吸収されていた ため,下水の処理は必要であると考えられた.下水処理が十分に機能していない現状にお いては,灌漑水量を減らし農地に負荷される重金属を減らすことや,多くの重金属を含む 浮遊物質の除去等は有効な対策であると示唆された.また,高濃度に重金属が汚染されて いる土壌においては,非食用植物を栽培することにより消費者への重金属の混入を防ぐこ とも対策として考えられた.

図 23 クウェイック川における汚染源の模式図