第 3 章 世界の都市下水の生成量および処理量の推定
3.3. 結果および考察
3.3.3. 世界の都市下水処理量の推定結果
2010 年とほぼ同じであった.旧ソビエト連邦諸国において 2000~2010 年の年平均増加率 が最も高く推移した.これは同時期にロシア国のめざましい経済発展があり,ロシア国は この地域の下水生成量の 60%を担っていた.アジア,サブサハラアフリカ,ラテンアメリ カおよびオセアニア地域において年平均増加率は2000~2010 年の期間が1990~2000より も高かった.特に,アジア地域とサブサハラアフリカ地域においては世界平均増加率であ
る年 2.3%を超える増加率を示していた.MENA 地域は 2000~2010 年の増加率が 1990~
2000 年と比較して低かったが,2000~2010 年の年平均増加率は 2.4%と世界平均を上回っ ていた.そのため,これらの地域における急速な都市下水生成量の増加は下水処理能力が 十分に伴っていないと深刻な環境汚染を引き起こす可能性が考えられた.
世界の農業用水の取水量は2003年前後において2,700 km3であった(FAO-AQUASTAT,
2013).世界の下水の生成量は農業用水の取水量のおおよそ 20%に相当すると見積もられ
た.さらに,世界の半数の国において,生成する都市下水はその国の農業用水の取水量の
50%以上を賄うことができると試算された.加えて,都市下水生成量は,2000 年に水ひっ
迫状態の国(水資源賦存量<2,000 m3 capita–1 yr–1)の農業取水量の約 7%を占めると見積 もられた.そのため,都市下水は莫大な水資源であり,さらに,水資源がひっ迫している 乾燥地においても重要な水資源であると考えられた.
図 10 都市下水処理量の報告値と推定値の比較
(n=152,直線は 1:1線,推定適合度は0.75)
WWAP(2003)によると,発展途上国の生活廃水の平均 90%および工業廃水の平均 70%
が未処理のまま排出されており,しばしば,水源を汚染していると危惧されている.本研 究において,いくつかの高所得国において生成量に対する処理量の割合が過小評価されて いた.これは主に,ヨーロッパの国において,都市下水の生成量が過大評価されている一 方で,処理量の推定値が報告値よりも低いこと,および日本の処理量の報告値が 10~14 km3であるが,推定値がわずか 4 km3と過小評価されていることに起因すると考えられた.
ヨーロッパ地域並びに日本における過小評価の要因として,高所得国でかつ処理量の多い 国のデータ数が少ないこと,および処理量が広範囲で存在することによると考えられた.
北アメリカ地域の都市下水の生成量に対する処理割合が最も高く,1990~2010 年まで
平均して 80%以上が処理されていた.他の地域における生成量に対する処理量の割合は以
下の順であった:MENA 地域(63%)>オセアニア地域(58%)>旧ソビエト連邦諸国
(46%)>ヨーロッパ地域(45%)>>ラテンアメリカ地域(20%)>アジア地域(19%)
>サブサハラアメリカ地域(15%).未処理の都市下水の排出は 1990 年から 2010 年にか けて,2 倍に増加した(図 11).アジア地域は未処理の都市下水の最大の排出源であり,
世界の 40%に相当する未処理水を排出している.本推定において,未処理のまま都市下水
が水域へ放出されていると推定された地域は UNEP–GPA(2004)の推定地域とおおよそ 同じであった.UNEP–GPA(2004)の推定は,生物化学的酸素要求量(BOD)や窒素,
リンの負荷量に基づき行われ,10 海域のうちアジアやアフリカ,ラテンアメリカ,地中 海,カスピ海などの8海域において,都市下水排出量の50%以上が未処理のまま海域に排 出されていると見積もっている.さらに,地中海,カスピ海および東アフリカ海域を除く 5 つの海域において 80%以上が未処理のまま排水されていると推定されている(UNEP–
GPA, 2004).
多くの発展途上国においては,人口の増加に処理施設が不十分なことや処理施設の維 持の管理水準が低いことにより,処理された都市下水の水質は低く,先進国のレベルに到 達していない(Qadir et al., 2010b; OECD, 2008).また,先進国内においても処理レベル やその処理法には大きな違いが見られる.OECD(2008)によると高次処理施設に接続さ れている人口は,アイルランド国やトルコ国において 10%以下である.一方,オーストリ ア国,デンマーク国,フィンランド国,ドイツ国,オランダ国およびスウェーデン国にお いては 80%を超えている.処理された下水の水質は処理レベルやその処理工程,処理場の 稼働状況に大きく依存すると考えられている.それゆえ,今後の研究においては,今回の 推定とBODや窒素,リン濃度などの水質データを統合し,検討する必要があると考えら
図 11 各地域における未処理都市下水の推定量
0 100 200 300 400 500
1990 1995 2000 2005 2010
未処理下水の推定量(km3)
年
アジア オセアニア
サブサハラアフリカ 中東および北アフリカ 旧ソビエト連邦諸国 ヨーロッパ
ラテンアメリカ 北アメリカ
れた.BOD の排出量データは WB のデータベース(2013)において参照することができ,
世界の河川においては,多くの論文や出版物により水質データの利用が可能である.