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灌漑水中の栄養塩濃度と土壌の栄養塩含量

第 4 章 シリア国北西部における長期間の都市下水の灌漑利用が環境に及ぼす影響

4.1. 長期間の都市下水灌漑利用が農業環境に及ぼす影響~土壌および灌漑水の塩類集積の

4.1.3. 結果および考察

4.1.3.2. 灌漑水中の栄養塩濃度と土壌の栄養塩含量

クウェイック川の全窒素濃度は 21~35 mg L–1の範囲にあり,その60%以上がアンモニ ア態窒素であった(図 15).全リンおよびカリウムイオン濃度は 5.9~8.6 mg-P L–1 (図

16)および7.3~23 mg-K L–1であった.灌漑水の全窒素濃度の範囲は,未処理下水によっ

て重度に汚染されているインド国ハリヤナ地域(Gupta et al., 1998)やメキシコ国グアナ ファト川流域(Scott et al., 2000)の報告値よりも低い値であった.しかし,WHO(2006)

基準と照らし合わせると,大半の水試料は厳しい利用制限(Severe restirict of use)に区分 された.また,Segal-Rozenhaimer et al.(2004)によると下水処理が不十分な都市下水の混 入によりアンモニア態窒素の構成割合が高まると報告されている.本調査地域においても アレッポの下水処理場が十分に機能していないことにより全窒素に対するアンモニア態窒 素の割合が高くなったと考えられた.MENA 地域の下水処理場の多くは,生活および工 業廃水の混合水に対する処理能力を持たず,人口の急増により過負荷状態にあるといわれ ている(Qadir et al., 2010b).その結果,処理場における十分な処理反応時間を確保する ことができず,低水質な処理水を環境中に放出しており,アレッポ地域においても同様な 現象が生じていたと考えられた.処理が不十分であったことを裏付けるように,灌漑水中 の平均TSS濃度(271 mg L–1)も高かった.採取した水試料の約 70%において,WHOの 許容限度(TSS < 100mg L-1;WHO, 2006)を上回り,60%の試料がシリア国の基準(TSS

< 150mg L-1;SASMO, 2003)を超過していた.クウェイック川を灌漑利用する場合,施肥

量の削減を考慮する必要があるほどに大量の養分が供給されると見積もられた(表 17).

図 15 シリア国,都市下水を主成分とするクウェイック川の窒素組成の経時変化 破線はWHO(2006)の都市下水の農業利用に関する許容値.図中のバーは標準誤

差を示す.

図 16 シリア国,都市下水を主成分とするクウェイック川のリン組成の経時変化 図中のバーは標準誤差を示す.

表 17 シリア国,クウェイック川の養分負荷量(窒素, リン, カリウム)の推定

養分 濃度 養分負荷量

(mg L–1) (kg ha–1

3000 m3 ha–1 5000 m3 ha–1

の場合 の場合

窒素 22~54 66~162 110~270

リン 5~12 15~ 36 25~ 60

カリウム 12~37 36~111 60~185

Oweis et al.(1999)によると,本調査地域における小麦の必要灌水量は3,000 m3 ha–1であ り,この3,000 m3 ha–1中には窒素として63~105 kg-N ha–1およびリンとして18~27 kg-P ha–1供給できる養分が含まれている.本調査地域の一般的な灌漑管理(5000 m3 ha–1)を行 うと,シリア農務省による小麦慣行施肥量(FAO, 2003b)に対して窒素は全量を,リンは 半分程度を賄うことが可能であると見積もられた.これらの養分供給量はパキスタン国,

パンジャブ州の未処理都市下水灌漑農地の報告に匹敵していた(Matsuno et al., 2005).

表層土(0~10 cm)の土壌有機物含量,可給態リンおよび全窒素含量は,それぞれ,11

~50 mg kg–1(平均値20 mg kg–1),8.2~120 mg-P kg–1(平均値29 mg-P kg–1),0.7~3.1

g-N kg–1(平均値1.3 g-N kg–1)であった.大半の圃場においてはRashid(1997)による乾

燥地土壌における肥沃度の分類において十分量(adequate)に区分された.また,本調査 地域の地下水灌漑農地の既報値(Ryan et al., 1996)よりも高かった.さらに,これらの土 壌断面内における含量は相互に強い相関(r>0.9,p<0.01)を持っており,都市下水の灌 漑によって,有機物,リンおよび窒素が土壌に蓄積したと考えられた.都市下水灌漑によ って土壌中の肥料成分含量は増加する(Siebe, 1998;Rattan et al., 2005;Rusan et al., 2007)

一方,過剰な窒素による収穫物の質の低下や成熟期の遅れ,雑草の成育向上などの不利益 が報告されている(Asano and Pettygrove, 1987;Qadir and Scott, 2010).