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世界の都市下水の農業利用の有用性

第 5 章 総合考察

5.3. 世界の都市下水の農業利用の有用性

世界的には都市下水の処理割合は既存の報告において,50%程度であるがその国の経済 状況によって大きく異なっていた.特に低所得国においては,生成量のわずか 8%と報告 されている.都市下水の再利用による動因は先進国の湿潤地域においては,都市下水は農 業よりも工業目的や都市の樹木への灌漑などの様々な利用目的に使用されていた.先進国 の乾燥地域においては農業と家庭,観光業との水の競合により主に農業利用されていた.

発展途上国においては不十分な下水処理のため,都市下水中に豊富な肥料成分が含まれて おり,水が豊富にある場合でも農家はその肥料成分と経済的な利点によって灌漑利用を積 極的に行っていた.

世界の年間都市下水生成量は2000 年には 460 km3,2010 年には579 km3と推定した.

これは,世界の農業取水量の約 20%に相当する.国別にみた場合,半数以上の国において 農業用水取水量の 50%以上に相当することが推定された.それゆえ,都市下水は豊富な水 資源になりうると考えられた.主要国などにおける都市下水の水質(付表 1)を基にする と,各経済区分による都市下水処理場の流入水および流出水の水質は表 26 のようにまと められた.この水質および今回の都市下水の推定値を基に肥料換算すると世界における都

表 26 各経済区分別の都市下水の水質特性

(引用文献は付表1による)

低所得国

下位中所得国 上位中所得国 高所得国 流入水 流出水 流入水 流出水 流入水 流出水

BOD5 390.0 266.9 401.4 48.7 174.3 13.3

COD 785.3 289.1 696.6 207.9 411.5 62.8

TSS 372.0 239.4 285.0 77.9 223.9 25.6

全窒素 67.3 35.8 52.2 39.6 32.7 12.3

全リン 8.6 7.2 8.7 5.2 7.7 3.1

市下水の潜在的な養分は,窒素において 26.76 Tg,リンにおいて 4.77 Tgと換算された.

第2章における経済区分による都市下水の処理割合および本研究による推定割合(第 3章)

とすると,それぞれ窒素として 21.20~22.98 Tg,リンとして 3.61~3.96 Tgであった.こ れらの概算値は世界の窒素肥料として約 20%,リン肥料として約 10%の肥料分に相当す る.そのため,都市下水の農業利用は養分の循環からも有用であると考えられた.

都市下水の農業利用は農業取水が多い発展途上国においては,競合しない水資源および 補足的な土壌肥料供給源として有用な手段であると考えられた.都市下水の農業利用の利 益を最大限に,危険性を最小限にするためには適切な処理は必須であると考えられる.し かし,一人あたりの都市下水生成量および処理量は経済発展すると増加する一方,生成量 に対して処理量の増加は鈍い(図 24).そのため,人口が急増している現状において未処 理水の放出は増加すると予測された.よって,適切な処理を行った都市下水の農業利用を 進める一方,処理が十分に行われていない下水を利用する場合の管理や運用法の優先順位 を経済,農業,環境,疫学的な側面から明らかにし,対応していく必要があると考えられ た.特に都市下水農地の環境影響評価はその地域の都市下水の特性を明らかにするために は必須の情報であると考えられた.加えて,都市下水の水質は経済および都市の発展によ り,工業および生活廃水の相対的な割合に大きく影響を受けるため,継続的な調査が望ま れる.

処理が十分に行われていない都市下水を農業利用する場合,処理場の拡充を加速させる 必要がある.しかしながら,多くの発展途上国において,財政的に余裕があるとは言えな いため,処理場の処理水準を先進国並みにするのではなく,再利用の目的に応じた仕様を 導入することが考えられた.例えば,農業利用を前提にする場合は,都市下水中の窒素や リンなどの肥料分を除くのではなく,細菌類などの消毒過程を強化することが考えられた.

さらに,WHO の基準および国別のガイドラインや規制をそのまま導入するのではなく,

柔軟に適応することによって,その地域に適した基準の導入が考えられた.そのためには,

都市下水の複雑な事象(図 25)を取り扱う人材育成および機構の設置,あわせて研究者 や政策立案者の協力体制の構築が必要あると考えられた.最後に各国,地域,世界におけ る都市下水に関する量的なデータは十分ではなく,現実の情報には大きな開きがあった.

これらの基礎情報は政策立案者や研究者,実務者,政府機関による廃水処理を目指す国家 行動計画や法律,規則の基準値策定,農業における都市下水の効率的な利用のために必要 な投資だと考えられた.

図 25 都市下水の農業再利用に関する模式図

学問分野はそれぞれの領域において役割を期待される分野を示す.