• 検索結果がありません。

第 5 章 遠距離場において騒音を低減するアクティブ防音塀 57

5.6 結論

御領域内の騒音低減量の差が最も大きかった条件である。提案手法の二次音源出力の増幅率β1

β2は,それぞれ3.8,1であり,このとき提案手法の騒音低減量は最大になる。従来のフィー ドバック制御を用いた場合,防音塀付近では地面から高さが4 m以下の範囲で音圧レベルが6 dB以上低下しているが,提案手法ではほぼ同じ範囲で12 dB以上音圧レベルが低下している。

空間分布と同じ条件での,制御領域内でエネルギー平均した騒音低減量の周波数特性を図5.15 に示す。棒グラフに添えた数字は提案手法を用いた場合と従来のフィードバック制御を用いた 場合の騒音低減量の差である。計算を行った全ての周波数において,提案手法が従来のフィー ドバック制御よりも騒音低減量が大きい。この条件では,自動車走行騒音の主成分に近い周波 数でも騒音低減量が大きいため,オーバーオール値の騒音低減量も大きい。

騒音源をN2地点に配置したときの騒音低減量の周波数特性を図5.16に示す。騒音源をN1地 点に配置したときと比べて,提案手法による低周波数での騒音低減量は小さいものの,630,800 Hzでは8 dB以上騒音が低減した。また,図5.12に示す防音塀の先端にシステムを一つ設けた ときの結果と比べて,提案手法による騒音低減量は400 Hz以上では増加しているが,315 Hz 以下では減少している。

75

6 章 結論

本研究では,広い三次元空間において騒音を低減することを目的とし,三次元音場を伝搬す る騒音の制御とフィードバックシステムを用いた回折音の制御について検討を行った。

1章では,本研究の位置付け,背景と目的,本論文の構成について述べた。

2章では,境界音場制御の原理をANCに適用する際に問題となる「境界の離散化」について 検討した。まず,三好と金田によって提案された2個のエラーセンサを持つANCシステムによ る騒音低減量の推定式を,任意の数のエラーセンサを持つANC システムによる騒音低減量の 推定式へと一般化した。2個のエラーセンサを持つANCシステムでは両者の推定式は一致して いる。次に,境界面上の騒音低減量と領域内での騒音低減量の関係を定式化し,騒音低減量の 推定式と結合することによって,任意の数のエラーセンサを境界面上に配置したときの領域内 での騒音低減量を定式化した。妥当性を検討するために,求めた推定式と数値シミュレーショ ンによって求めた騒音低減量を比較したところ,ほぼ一致していた。最後に,円形領域内にお いて騒音を5 dB低減するためにはエラーセンサを騒音の半波長ごとに境界上に配置する必要 があり,15 dB低減するためには1/3波長ごとに配置する必要があることが分かった。

3章では,境界音場制御の原理を開口部において騒音を反射する制御に応用可能であること を実験によって確認した。無響室内に高さ2 m,幅1 m (3.2.6 節の実験では幅2 m)の開口をも つ模擬的な設備機械室(4.5×3.6 m, 高さ2.4 m)を建造し,開口を通して室内から室外に放射 される騒音を低減することを想定した。境界音場制御の原理は原理的には二次音源の配置位置 に関わらず騒音を制御可能であるのだが,制御対象である開口の縁に二次音源を配置しても制 御可能であることを確認した。実験で使用したシステムは1 – 4 – 4のフィードフォワード制御 を採用しており,建築分野においては十分実用可能な規模である。放射パワーが最大で18 dB 低下した。また,騒音源位置によらずに制御可能であることも確認した。開口部周辺でのイン テンシティを計測したところ,開口で騒音が反射されていることを確認した。最後に,二つの 独立したANC ユニットでも制御可能であることを確認した。

4章では,境界音場制御の原理に基づいて騒音を反射する境界面を生成するシステムActive Noise Reflection Unit(ANRU)を提案し,ANRUを防音塀として使用した場合の性能について 検討した。ANRUは制御に必要な二次音源,エラーセンサ,コントローラなどをすべて組み込 むことでユニット化したシステムであり,システムを並列に設置することによって,大きな面

で騒音を反射する制御も実現可能なものである。システムの性能の検証は数値計算及び実験に よって行った。数値計算では,ANRU近傍において100 Hzの騒音を最大で17 dB低減するこ とを確認した。また,6 dB及び12 dB音圧レベルが低下する領域の面積は,ANRUを二つ設 置した時にはANRUを一つ設置した時の3.6倍及び5.1倍になるなど,ユニット数の増加以上 の制御面積の増加を示している。インテンシティの空間分布に注目すると,騒音からの音響エ ネルギーは二次音源によって吸収される一方で,開口の中心部では反射されることが分かった。

実験ではANRUを二つにすることにより315 Hz以下で放射パワーが低下しており,160 Hzで

最大14 dB低下した。また,ANRUを一つだけ設置したときよりも,広い領域で音圧レベルが

低下した。数値計算,実験結果ともにANRUを複数個設置することによって,さらに広い範囲 で高い効果が得られることを示唆している。また,音響インテンシティから反射率及び吸音率 を計算したところ,100 Hz では反射率が0.9,吸音率が0であり,反射によってANRU下流で 騒音を低減している。一方,200 Hzでは反射率と吸音率がそれぞれ0.42と0.45であり,反射 と吸音によって騒音を低減していることを確認した。

5章では,フィードバック制御を使用した回折音の低減について検討を行った。従来のフィー ドバック制御では遠距離場において騒音低減効果が小さくなるという欠点があるため,遠距離 場での効果を向上させるために,二次音源出力を高めたシステムを提案した。提案手法は従来 のフィードバック制御に使用するコントローラをシステムの一部として使用可能であり,その 構成は非常に単純なものであり,実用上有利である。数値計算によって性能を検証したところ,

塀の頂点に一つシステムを配置する場合,従来のフィードバック制御と比べて,提案手法はA 特性オーバーオール値で4.7 dB騒音低減効果を向上させることが可能である。1/3オクターブ バンド分析した結果に注目すると,提案手法は従来のフィードバック制御よりも80 Hzで9.6 dB騒音低減効果が向上することを確認した。また,塀の頂点に二つシステムを配置する場合,

提案手法は騒音の音圧レベルをA特性オーバーオール値で最大13.0 dB低下可能であり,従来 のフィードバック制御と比べて6.7 dB騒音低減効果が向上しており,提案手法の有効性は高い。

以上,本研究では三次元音場を伝搬する騒音の制御とフィードバックシステムを用いた回折 音の制御について検討を行った。2章の研究は,境界音場制御の原理に基づくANCシステムを 構築する際の設計指針となり得る。3章では開口において騒音を反射するANCシステムを提案 し,4章ではANRUを提案し防音塀としての性能を確認した。これらのシステムはいずれも建 築分野においては実用可能な規模であり,実用化が期待される。5章では二次音源出力を高め るたフィードバックシステムを提案し,遠距離場で回折音を低減可能であることを確認した。

提案したフィードバックシステムの構成は単純であるためアナログ回路で実現可能であり,低 コストで回折音の低減が可能である。

77

参考文献

[1] 総務省 公害等調整委員会,“平成20年度公害苦情調査–調査の概況–”.

[2] 日本音響学会編,“実務的騒音対策指針”,pp.117–135.

[3] P. Leug, “Process of silencing sound oscillation”, U.S. Patent, No.2043416 (1936).

[4] Olson, H.F. and May, E.G.,“Electric sound absorber”, J. Acoust. Soc. Am. ,28pp.966–972 (1956).

[5] P. A. Nelson and S. J. Elliot, “Active Control of Sound”, Academic Press.

[6] Laura R. Ray, Jason A. Solbeck, Alexander D. Streeter, and Robert D. Collier,“Hybrid feedforward – feedback active noise reduction for hearing protection and communication”, J. Acoust. Soc. Am. ,120 (4), pp.2026–2036 (Oct. 2006).

[7] B. Widrow and S. D. Stearns, “Adaptive Signal Processing”, Prentice Hall, (1985).

[8] 鮫島俊哉,“フィードバック型のアクティブ制御用アルゴリズム”,日本音響学会誌,59, pp.407–413 (2003).

[9] Stephen J. Elliott, Ian M. Stother and Philip A.Nelson, IEEE, “A Multiple Error LMS Algorithm and Its Application to the Active Control of Sound and Vibration”, IEEE, pp.1423–1434 (1987).

[10] P. A. Nelson, A. R. D. Curtis, S. J. Elliot and A. J. Bullmore, “The minimum power output of free field point sources and the active control of sound”, J. Sound and vibration, 116 (3), pp.397–414 (1987).

[11] 西村正治,新井隆範,“ダクト出口放射音のアクティブコントロール”,日本音響学会誌,

45,pp.672–680 (1989).

[12] 江波戸明彦,田中信雄,永田寿一,穂坂倫佳,塩山勉,中川篤,小林雅彦,谷村新,“音響 パワーを最小とする能動騒音制御の研究(大型開口部放射音の低減手法の提案と実機への 応用)”,日本機械学会論文集(C編), 69,pp.2541–2549 (2003).

[13] 松本健太郎,後藤田龍介,山崎俊彦,“空調ダクト騒音のアクティブコントロール”,騒音 制御20巻6号,pp.21–23 (1996).

[14] 西村正治,宇佐川毅,伊勢史郎,“アクティブノイズコントロール”,コロナ社,pp.25–33.

[15] 石野和成,“ガスエンジン用アクティブサイレンサの開発”,騒音制御20巻6,pp.29–31 (1996).

[16] 松本健太郎,後藤田龍介,高橋稔,“大風量用マルチダクト電子消音システム(第1報) – シングルチャンネルコントローラによる構成 –”,日本音響学会講演論文集,pp.557–558 (Sep.1985).

[17] 森下達哉,山口千晶,田中利幸,多氣昌生,森卓支,“モード分解・生成に基づく高次モード成 分を含むダクト内騒音のアクティブコントロール”,日本音響学会誌51巻4号,pp.282–290  (1995).

[18] Jingnan Guo and Jie Pan, “Actively created quiet zones for broadband noise using multiple control sources and error microphones”, J.Acoust.Soc.Am, 105 (4), pp.2294–2303 (1999).

[19] M. Jessel and G. Mangiante, “Active Sound Absorbers in an air duct”, J. Sound and Vibration, 23 (3), pp.383–390 (1972).

[20] Shiro Ise, Hiroo Yano and Hideki Tachibana, “Basic study on active noise barrier”, J.

Acoust. Soc. Jpn.,12 (6), pp.299–306 (1991).

[21] 尾本章,藤原恭司,“防音塀エッジポテンシャルの能動消去”,日本音響学会誌47巻11号,

pp.801–808 (1991).

[22] Jingnan Guo and Jie Pan,“Increasing the insertion loss of noise barrier using an active-control system”,J. Acoust. Soc. Am,104 (6), pp.3408–3416 (1998).

[23] 大西慶三,寺西進,西村正治,上坂克己,大西博文,“アクティブソフトエッジ遮音壁の 基本コンセプトと無響室内実験による減音効果”,日本音響学会誌57巻2号, pp.129–138 (2001).

[24] D. Palumbo, R. Cabell, J. Cline, and B. Sullivan, “Active structual acoustic control of in-terior noise on a Raytheon 1900D”, NASA/TM–2000–209846, ARL–TR–2205 (Mar. 2000).

参考文献 79 [25] C. W. Ahn and B. Balachandran, “Active Control of Multiple Tones Transmitted into an Enclosure”, proceedigns of SPIE Conference on Smart Structures and Integrated Systems, pp.244–253 (March, 1998).

[26] Kazumori Kimura, “Sound Barrier Panel using Piezoelectric Polymer Films”, proceedings of ICA 2004, pp.IV–3251–3252 (2004).

[27] 鮫島俊哉,安岡正人,“状態フィードバック制御による室内残響抑圧”,日本音響学会誌55 巻1号,pp.12–22 (1999).

[28] 佐野久,井上敏郎,高橋彰,山下剛,中村光勇,寺井賢一,中村由男,“低周波ロードノ イズのアクティブ制御システムの開発(1) –実用化に向けた課題解決法とシステム概要–”,

日本音響学会講演論文集,pp.499–500 (Sep.2000).

[29] 浜田晴夫,兵頭英樹,半場道男,岡部馨,三浦種敏,“アクティブ・ノイズコントロール・

チェアの実現 –エラースキャニング適応制御アルゴリズムの応用–”,電気情報通信学会技 術報告,EA90-2,pp.7–14 (1990).

[30] 伊勢史郎,“キルヒホッフ – ヘルムホルツ積分方程式と逆システム理論に基づく音場制御 の原理”,日本音響学会誌53巻9号,pp.706–713 (1997).

[31] 古家賢一,一ノ瀬裕,“境界面音圧による閉空間の音場制御”,電気情報通信学会技術報告,

EA90-15,pp.25–32 (1990).

[32] 三好正人,金田豊,“音場の逆フィルタ処理に基づく能動騒音制御”,日本音響学会誌46巻 1号,pp.3–10 (1990).

[33] 仲島崇博,伊勢史郎,“多点アクティブノイズコントロールにおけるQuiet Zoneの推定式 の一般化”,日本音響学会講演論文集,pp.763–764 (Mar.2000).

[34] 伊勢史郎,“境界音圧・粒子速度制御による境界上の誤差と制御精度の関係”,日本音響学 会講演論文集,pp.815–816 (Sep.1994).

[35] M. Miyoshi and Y. Kaneda, “Inverse filtering of room acoustics” IEEE Transactions on Acoustics, Speech, and Signal Processing, 36, pp.145–152 (1988).

[36] R. K. Cook, R. V. Waterhouse, R. D. Berendt, S. Edelman and M. C. Thompson, Jr.,

“Measurement of correlation coefficients in reverberant sound fields”, J. Acoust. Soc. Am., 27 (6), pp.1072–1077 (1955).

[37] 松本敏雄,山本貢平,久野和宏,“吸音ルーバーの遮音性能の測定と評価”,日本音響学会 誌60巻11号,pp.646–654 (2004).

[38] Shiro Ise, “Theory of acoustic impedance control for active noise control,”Proc. internoise, pp.1339–1342 (1994).

[39] Hideo Nagamatsu, Shiro Ise, Kiyohiro Shikano, “Optimun arrangement of secondary sources and error sensors for active noise barrier”, Proc. of internoise, pp.1733–1738 (2000).

[40] Shiro Ise and Kiyohiro Shikano, “The superposition principle with regard to the multi-channel adaptive filter”, Proc. of internoise (1998).

[41] 山本貢平,“新型の道路用遮音壁について”,日本音響学会誌54巻4号,pp.327–332 (1998).

[42] 仲島崇博,伊勢史郎,“遠距離場で騒音を低減するアクティブ防音塀”,日本音響学会誌63 巻10号,pp.577–584 (2007).

[43] Shiro Ise and Hideki Tachibana, “Active noise barrier based on the boundary surface control”, 16th International Conference on Acoustics, pp.103–104 (1998).

[44] Shinya Kim, Takahiro Nakashima and Shiro Ise, “Experimental study of Active Noise Reflection Unit(ANRU)”, inter-noise 2007, in07 421 (2007).

[45] Takahiro Nakashima and Shiro Ise, “Experimental study of the active noise control that creates a reflecting surface in a space”, inter-noise 2006, in06 374 (2006).

[46] 伊勢史郎,“最新のDSPを用いた低コストANCシステムの開発とその性能の検討”,日本 音響学会講演論文集,pp.513–514 (Nov. 2008).

[47] T.Nakashima, S.Ise,“Active noise barrier aiming at the noise reduction in far field”, Proc.

of internoise 2004, 726 (2004).

[48] 日本音響学会道路交通騒音調査研究委員会,“道路交通騒音の予測モデル“ASJ Model 1998””,日本音響学会誌55巻4号,pp.281–324 (1999).

81

謝辞

京都大学工学研究科都市環境工学専攻の高橋大弐教授には著者の主指導教官として研究室や 環境系のゼミはもちろん,常に適切なご助言やご指導を賜りました。

本研究を直接的にご指導いただいたのは京都大学工学研究科都市環境工学専攻の伊勢史郎准 教授です。研究室のゼミ,打ち合わせで数多くのご助言のみならず,普段からきめ細かいご指 導をいただきました。研究の楽しさを教わったように感じております。

京都大学工学研究科都市環境工学専攻の堀之内吉成助教には研究室のゼミにおいてのみなら ず,普段からご指導ご助言をいただきました。

実験及びシミュレーションに尽力してくれた金慎也君,井本桂右君,森山欣昭君をはじめと する,高橋・伊勢研究室の皆様には様々なご協力をいただきました。

3章の実験では,大林組技術研究所の縄岡好人氏,藤沢康仁氏のご支援ご協力を賜りました。

本研究をまとめるにあたり,上記の各氏,関係各位に対して心から感謝致します。

関連したドキュメント