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 第6章では,本研究の結果をもとにして,得られた知見について考察を加え,内発的学 習意欲を支える3要素(有能感,自己決定感,他者受容感)を高めるために有効な手立てに ついて提言する。さらに,それを踏まえて今後の課題について述べることにする。

 第1節では,本研究の結果を総合的に考察し,知見を述べる。第2節では,知見を受け て,提言と課題をまとめる。

第1節 結果の考察と得られた知見

 本研究の目的のひとつめは,「総合的な学習の時間」に行う課題解決学習において,「未 来日記」を用いた実践(「未来日記を書く」・「検討会を行う」)が,児童の内発的学習意欲 の源となる3つの要素(有能感,自己決定感,他者受容感)を高めるのに有効であるかど うかを検証することであった。

 先行研究より選択し,作成した質問紙を使用して,単元前に実施したプリテストと「未 来日記を書く」「検討会を行う」という処遇を行った後に実施したポストテスト1のt検定 の結果,3つの要素すべてに有意差が認められた。これは,「総合的な学習の時間」の課題 解決学習において「未来日記」を活用した実践を行うことで,3つの要素が高まることを 明らかにしている。

 ただし,未来日記を書いた後に実施したポストテスト1の時点では,r自己決定感」「他 者受容感」にのみ有意差が認められ,検討会終了後のポストテスト豆では,「他者受容感」

にのみ有意差がでた。

 つまり,「未来口記を書く」「検討会をする」という2つの処遇を実施して,はじめて3 要素ともに有意差が認められ,効果が表れるといえる。

 次に目的のふたつめである検討会で児童の「有能感」「他者受容感」を高めるために有効 であると考えられる教師の手立てをプロトコル分析して洗い出した。その結果は,次の通

りである。

o rOOができたね。」という自己愛を高める声かけをする

○認めて,ほめる

○虚栄心を高める声かけ(配慮を要する)をする

O児童が答えられそうな質問をして,自分の言葉で発言させる Oうなずきながら傾聴する

Oその児童の課題にあった資料を手渡す

O評価規準表でその能力を説明しながら評価する

O文章中の言葉を糸口に助言する

 ただ,あくまでもこれは手立てのサンプルである。どんな児童にも有効であるとは,必 ずしも言えない。担任しかできない児童認識,児童把握のもと,目の前の児童を様子や普 段の生活を見て判断,活用するようにしなければならない。

第2節 本研究から得た提言と課題

 第1項 方略への提言

 提言をまとめると以下のようになる。

①r未来日記」を用いた取り組みを,できれば1学期に実施する。

 本研究で抽出児として取り上げた1児は,この取り組み以降,月曜日の欠席がほとんどな くなった。また,日記でも担任に何でも打ち明けるようになっている。

       」  このように,担任と児童との人間関係作りという意味から,できれば1学期に実施する

ことをカリキュラムに位置づけることを提言する。

 「未来日記」は,学校の中での活動をシミュレーションするよりも,外へ出て生活社会 で活動するときに書かせる方が,そのねらい(子どもたちに,自分たちは社会的に価値の あることに取り組んでいるんだという意識,そして,その課題をやり遂げることによって 自分の有能感と成長を実感できそうだという予感をもてるようにすること)に適している と考える。そこで,できるだけ1学期にフィールドワークをする場面があるテーマを設定 しカリキュラムに組み込みたい。

 今回は,「奈良公園でのフィールドワーク」というようにその場面を限定してしまった。

生活社会といいながら,なかば教師側がお膳立てした場面である。

 これに対し,活動の場面も自分で決め,すべてを自分でプロデュースした方が「自己決 定感」も高まり,自己の環境を効果的に処理することのできる人の能力(ability)もしくは力 量(capacity)というr有能感」も向上するのは言うまでもない。そこで,自分で未来日記を 書く場面,日時を児童一人ひとりが決定し,日記を書かせる方がより効果的ではないかと

考える。

②検討会を中学年から実施する。

 金子(1976)51は,対話が成立し,それが効率的に進められていく条件のひとつに「相互承 認」と「相互受容」とあげている。承認とは相手の所有している意見や思想または提案を 認めることであり,受容とは相手の人格を受け入れることであると述べている。

 今回の検討会は,まだまだ教師主導で行われ,児童の発話は少なかった。しかし何度か 回を重ね,児童の発話が増えてくると,「相互受容」がより確実なものになり,本研究のね らいである児童の教師に対する他者受容感が高まってくるものと考えられる。また検討会 は,教師が一方的に喋るのではなく,できるだけ児童にも語らせることで「学びのよさや 伸び」を教師と児童が共有でき,検討会のねらい(第2章 第2節)を達成できるものと 考える。今回の実践授業では,児童は最終学年でありながら一対一の対話は,初めての経 験であり,なかなか自分から発言することは少なかった。そこでできるだけ早いうちから 担任と対話するということに慣れさせるため,学年に応じた時間設定で,3年生から始め

ることを提言する。      )

③学年に応じた評価規準表を作成し,単元のはじめに配布する。

 第4章で示唆したように,検討会で評価規準表を基にして評価することは有効である.

この評価規準表を「総合的な学習の時間」の学習の「ものさし」として活用できるように なれば,自己評価能力向上にもつながる。そこで,これも検討会と同様に3年生から,そ       つの学年に応じた文章で書かれた規準表を作成し,単元はじめのオリエンテーションで配布

し,説明することを提言する。

第2項今後の課題

①一対一の検討会を実施するための体制作りについて

 一対一での検討会が児童の教師に対する受容感を高め,自分の有能感が高まることが示 唆された。それをすることがよいことだとわかっていても,実施する上で最も大きな問題

として時間の確保ということがあげられる。

 西岡は,「日本において,このような検討会を行う上で一番問題となるのは時問の確保で あろう。アメリカに比べ学級サイズが大きいので,今回紹介した事例のように一対一で教 師と子どもが対話する時間を確保するのは困難であろう。充実した検討会を行うことがで

51金子晴勇(1976)『対話的思考』pp.68・85 (創元社)

きる条件整備が課題となる。52」と述べている。これは現場段階では本当にその通りである。

本研究を実施した兵庫県公立0小学校では,6学年部として4クラスの担任4名に理科専 科教諭の計5名の職員がいる。この理科専科教諭が各クラスの「総合的な学習の時問」に 毎週1〜2時間,関わるようにしている。今回の検討会は,担任が一対一で話し合ってい るとき,専科教諭が他の児童の指導をしていた。内部事情としては,その間専科教諭の空 き時間はなく,次時の準備が非常にできにくいという難点がある。

 第3章,第2節の指導計画でも記したように,「未来日記」に対して「ふり返り日記」を 書かせることを計画している。巻末資料にも掲載している通り,ワークシートは1枚のプリ

ントの左に「未来日記」,右に「ふり返り日記」を書くようにしている。現に実験クラスの 児童には,活動後にふり返り日記を書かせた。ただ時間的にどうしても一対一の検討会の 時間がとれずに,ノート指導だけになってしまった。

 西岡のいう3つの検討会(単元はじめ,単元の途中,単元の終わり)をすべて行うのが 児童にとっても,教師にとってもよいのは言うまでもない。しかし,実態として一対一の 検討会は,1回実施するのがやっとである。

 児童一人ひとりにきめ細かな指導ができるためには,一日も早く30人学級や加配教師 の増加などの実現を心から期待するものである。

②保護者との検討会(説明会)の実施

 今回の研究は「総合的な学習の時問」があってはじめて実現可能な実践である。「はじめ に」で述べたように,「学力低下論争」から「総合的な学習の時間」への批判があるのも事 実である。

 平野は,「総合的な学習の時問」への批判の検討というテーマで次のように述べている。

rなぜ,r総合的な学習の時問』が増えれば,学力が低下すると言われるのであろうか。そ れは取り組んでいる子どもたちを見た印象から判断されるらしい。そのように批判する人 たちは,常識的な授業あるいは勉強(学習)のイメージを強く持っている。53」

 現在の保護者の一般的な意識として,白分たちがそうやって育ってきたように「一斉授 業で,教師は板書し,児童は教科書を開いて鉛筆を持ってノートに向かうのが学習」とい うイメージが強い。

 本研究で行った取り組み,特に教師と児童が一対一で行う検討会などは,「上記の一斉授 業こそが授業」という感覚の保護者には,理解しにくいものであろう。

52前掲書28 p.84

53前掲書32 pp.15・16

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