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5月37日(火) 月   日( )

第3節 プロトコル分析の考察

 ここでは,第2節で分析した3名の抽出児のデータを総括し,検討会において,児童の 有能感,他者受容感を高めるのに有効であったと思われる手立てについて,考察したこと を述べる。

手立て①⑧より「OOができたね。』という自己愛を高める評価

rOOができたね。」という言葉かけには,3名とも共通してうなずいたり,微笑んだりし ている.蘭によると,下記のTable4−18に示したとおり,①の自己愛を高めるための言 葉かけにあたる。

Table4−18 「自尊感情」(seI f−esteem)いわゆる「自己価値」の構成要素44

①『ぼく,強い』『ぼく,できる』というような素朴な自己愛

②『OOちゃんより上手だ』という「自他の比較による虚栄心

③『以前よりうまくなった』『以前できなかったことが,できるようになった』という自己の過去と現在の 比較による自負心

有能感を高めるために最もシンプルかつ重要な声かけであるといえる。

芋立て②⑨より 認めてほめることの重要性

 嶋野(2003)は,rほめる」こととr認める」ことの微妙な違いを次のように述べている。

「ほめる」…「とてもよかった」「すごいね。」というように,子どもの言動を価値付けて        (評価して)称賛すること。

r認める」…子どもの言動の事実だけを取り上げることで,評価意識はほとんどないが,r気        に留めているよ。」というメッセージは伝わる45。

つまり,rほめる」とは事実を認めた上で,それに対する教師の想い,感想を述べることで ある。S児の(N67T)「さすがやな。」のように「地図がよめた。」という事実を認め,そ れに対するコメントを言うと,S児は嬉しそうに照れながらうなずいている。

「OOができた。」の後にひとこと称賛する言葉を付け加えることは,より効果的である考

える。

手立て⑤より 虚栄心を高める声かけ

 蘭は,「『○○ちゃんより上手だ』という他との比較による虚栄心が最も自己価値に大き

44前掲書41 p.200

45前掲書30 p.83

な影響を与える。46」と述べている。1児のユニット3で示したように比較する個人名を出 すのは,教育的配慮に欠けることであるが,自己価値の低い児童に自信をつけさせるため の手段としては,rなかなか書ける人はおらへんのやけどな。」と相手を不特定多数にする など慎重に言葉を選べば,有効な声かけではある。

手立て③⑪より 児童が答えられそうな質問をして,自分の言葉で答えさせる

 藤井(2002)は,r教師がうまくおたずねをし,うまく聞くことにより,子どもにうまく語 らせることが必要である。教師のr聞き上手・おたずね上手』とは言い換えるとr語らせ 上手』ということである。子どもの話をゆったりと共感して聞く。事実や結果を聞き出す ことを急がず,事実に出合ったとき,自分から対象に働き掛けたときなどの心の動きや気 持ちをじっくりと語らせ,そこに温かい関心を示す。そうすれば子どもたちは教師が自分 の話に関心を持ってくれた,すなわち価値を見出してくれたと実感することができる。47」

と述べている。うまく語らせようとするには,その児童の学習の進み具合をしっかりとつ かんでおかなければならない。とても答えられないようなことをたずね,子どもが全くそ れに答えられなければ,自信をなくしたりやる気をなくしたりしてかえって逆効果となる こともある。児童の情報収集状態をしっかり把握した上で,この検討会中に1度は設定し たい場面である。

手立て③より うなずきながら傾聴する

 rウンウン」などという日常会話のもっとも簡単な反応の仕方はrうなずき」である。

うまく相づちを打ってもらうと話しやすいが,つまらなそうな顔をされると話すのがいや になってしまう。カウンセリングでの「対話」においても,中西ら(1987)によると「日常 会話における『うなずき』はカウンセリングの面接ではかなり重要で,適度に行われたう なずきは,第一に『注意深く聞いている』という態度を相手に伝えることができる。第二 にうなずきをカウンセラーが統制して用いたとき,来談者のある発言の内容を承認し,強 化する結果となる。これと反対に来談者の言ったことに意識的に,また無意識的であって も『眉をひそめる』ような表情を示すと,それを拒否している意味にとられるのである。

このようになにげなく行う動作も大きな影響を相手に与えているのである。48」と述べてい

る。

 特に教師に対する受容感の低い児童は,教師のさりげない一言,表情がすごく気になる ものである。児童に「注意深く聞いているよ。」「あなたの言うことを承認しているよ。」と

46前掲書41 p.200 47前掲書37 p.128

48中西信男・那須光章・古市祐一・佐方哲彦(1987)『カウンセリングのすすめ方』pp.34・35

(有斐閣新書)

いうメッセージを伝えるために,「うなずく」という行動は必要不可欠な手立てといえる。

手立て⑤より その児童の課題にあった資料を手渡す  検討会終了後,児童から記述式のアンケートをとった。

「検討会をしてよかったこと」という問いに,1児は「先生が,僕が調べていることの本を かしてくれてうれしかった。」と記している。一斉授業でクラス全員に同じプリントを配る のとは意味合いが違う。r自分の課題に関する資料を手渡しでもらった。」という気持ちは 受容感を高めるのに大きな効果を持つと思われる。

芋立て⑦⑫より 評価規準表でその能力を説明しながら評価

 児童に「自分にはこんな能力が身に付いた。」あるいは「未来日記に書いていることを実 行すれば,こんな能力が身に付くんだ。」ということを理解させるには,評価規準表を教師

と共有することが効果的であった。

 そして自分の学びを自分で測るために重要な自己評価能力について,杉本(2003)は,「子 どもの学びを充実,促進させる評価として,自分の学習を自分の力で評価する自己評価が ある.この自己評価能力を伸ばすのは,教師が意図的に子どもに評価させていく必要があ る。つまり,評価規準表を子どもと共有する場面をつくらなければならない。49」と主張し ている。

 評価されるとき,教師という個人に認められるのは嬉しいことである。しかしそこに,

評価規準表という客観性のあるものさしが加われば,そこから得られる有能感はより確か なものになると考えられる。

手立て⑩より 文章中の言葉を糸口に助言

 第2節,第2項で述べたように,担任はS児が「未来日記」の文中に,1児のことを書い ている文節を取り上げ,課題解決場面での協力を要請し,その能力「人間関係力」につい

て話をした。Table4−19,4−20はフィールドワークを終えた時の1児,S児のふり

返りメモである。

Table4−19

1児のふり返りメモ

 フィールドワークの時,二月堂でS君やG君が写真をとってくれたり,インタビュ ーする時,きんちょうしていたら,うしろからせなかをたたいてくれて,思いきって 言えた。うれしかった。むこうの人もわかりやすくおしえてくれた。

49杉本恵津子(2003)「小学校・総合的な学習の絶対評価の実践テクニック」教職研修2003/5 月増刊 p.175 (教育開発研究所)

Table4−20

S児のふり返りメモ

 奈良でのフィールドワークで,1君がインタビューをしようとしているとき,気合い を入れてあげた。

 当日は,二月堂で住職さんが見つからず,インタビューを断念しかけていた1児に,S児 らが,「二月堂の社務所でおみやげを売っているおじさんに聞いたら?」というアドバイス を与え,フィールドワークの最大の山場であるインタビューに成功した。担任の助言どお りS児は,1児の課題解決場面をアシストすることで,自らの「人間関係力」も高めたこと

になる。

 特に高学年になると,それが良いことだとはわかっていても照れもあり,素直に友だち を支えたり,励ましたりすることができにくくなる児童も少なくない。そんなときに,教 師のひとことがあるとその一歩が踏み出せるという事例である。それも全く何もないとこ ろからではなく,些細なきっかけではあるが,自分が書いた文章の一節から,先生にその 話を切り出されるというのは児童にとっても担任からの押しつけではなく,少なからず自 己決定した行動ということになると思われる。

 藤井は「総合学習での学習活動への取り組みでは,子どもたちに,自分たちは社会的に 価値のあることに取り組んでいるんだという意識,そして,その課題をやり遂げることに よって自分の有能感と成長を実感できそうだという予感をもてるようにすることが必要で ある。50」と述べている。これはS児との検討会でいうと,N84Tのように友だちをアシス

トすることの社会的価値を話し,子どもを前向きな気持ちにする支援であると考える。

50前掲書37 p.97

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