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第4章 研究2 r未来日記」を用いた実践授業と内発的学習意欲との関連

第1節  分析方法の概略

 言語プロトコルデータの記述については,海保・原田(1993)39を参考に次のように設定し

た。

Table 4−1 プロトコルデータの記述について

①発話単位のとり方

・話者が交代した時点を発話単位の終了とみなす。

・一 問隔以上の沈黙があった場合,そこを発話単位の終了とみなす。

・統語的な切れめ(たとえば文末)を発話単位の終了とみなす。

・被験者に与えた課題の区切れめを発話単位の終了とみなす。

②発話の記述

・発話には発話番号をつける。

・発話番号の前にN(No.の略)を,後に発話者を示すアルファベットをつける。

       (Tは教師,Sは児童)

・発話中のこみあげ笑い(こみあげてくる無声音を[h]で表す)

・発話内,発話間の沈黙長(コンマ数秒以上の沈黙:カッコ内に秒単位で示される)

・不明瞭な部分・聞き取り不能な部分(不明瞭なときにはカッコ内に発話を入れる。

 全く聞き取れない場合にはカッコ内に空白を入れる)

・発話内・発話間の沈黙長(コンマ数秒以上の沈黙:カッコ内に秒単位で示される)

・同時発話(発話が同時に始まった場合:[[で示す]

・重複発話(発話が途中で重なった場合:[]で示す)

・連続発話(Aの発話の直後にBの発話が起こっている:=で示す)

(2)分析のユニットとカテゴリーに分け考察する。

 上記の手順で検討会全体のプロトコルを起こし,発話データをユニット(意味のあるまと まり)に分け,カテゴリー化(各ユニットの内容を分類)した。

 ユニットは,教師が評価しようとした項目ごとに分ける。その中で,児童の有能感や他 者受容感が高まったと思われる発話や行動を手がかりに教師の支援を洗い出し,カテゴリ ーに分けた。

 ○手がかりとなる児童の発話,行動の選択

「検討会」は対話の場といいながら,児童にとって初めての体験,しかも新学期が始まっ たばかりということで担任ともまだそれほど個別に話をしたことがないという子が多いと 39海保博之・原田悦子編(1993)

pp.108・110(新曜社)

rプロトコル分析入門一発話データから何を読むか』

いうこともあり,教師の発話数が絶対的に多く,児童は教師の言葉にうなずいたり,短い 発話を返すような会になってしまった。

 海保・原田は,「話者問の視線の一致,うなずき,自己接触行動といった非言語的行動が 認知プロセスの指標となる場合もある。40」と述べている。

そこで児童の発話と共に,非言語的行動に着目することにした。

 堀端(1988)によると,rメーラビアンは好意一非好意の対人態度の伝達において,言語,

非言語のどちらの情報伝達がより有効であるかを調べ,好意を最もよく伝達するのは,非 言語的行動であり,話の内容自体はあまり重要ではなかったという結果を出している。41」

と述べている。このように受容感ついて考えるとき,非言語的行動が大きな意味を持って いると考えられる。

 次に堀端は,rアーガイル(1975)によれば,人間関係における対人態度は,好意一非好意,

支配一服従の2次で表され,これらの対人態度を伝達する非言語的コミュニケーションを 下表(Table4−2)にまとめている。うれしい,悲しいといった自己の感情状態もまた非 言語的コミュニケーションによって表現される。この種の感情が最もよく表現するのは,

顔の表情である。42」と続けている。

Table4−2  Argyle,M.(1975)

非言語的行動 好意 支配

身体的接触 さわったり,なでたり,抱いたりする 対人距離 (1) 普通の範囲

2) より近く

角度 (1) 見つめあって正面を向く 2) 親しい友人間は隣り合って座

  る

正面を向くことは少ない

視線 ほほえみを伴って見つめる 見つめることは少ない

姿勢 (1) 前掲

2) 腕と足が開く

(1) リラックスした姿勢 2) 頭が後ろに傾く 3)腰に手をやる 顔面表情 ほほえむ

40前掲書39 p.110

41堀端孝治・高橋 超・磯崎三喜年『人間行動論入門』(1988)pp.94・95 (北大路書房)

42前掲書41 p.95

声の調子 やわらかい 大声で断定的

 好意を表すような態度は,r相手を受け入れようとする気持ち」,つまり受容感が高まっ ているときに出るものであると考えることができる。そこで上記のアーガイルの一覧表を

もとに,教師のどのような手立てが児童の受容感を高めることにっながったかを明らかに するために,児童の発話の中のキーワードと非言語的行動の具体例のカテゴリー表を作成

した。

T&ble4−3 キーワードになる発話と非言語的行動

発話 非言語的行動

はい。 うなずく(行動)

そうです。 微笑む(笑う)(顔面表情)

OOができました。 微笑みを伴い見つめる(視線)

△△を調べました。 前掲,腕と足が開く(姿勢)

××がわかりました。 やわらかい(声の調子)

うん。 見つめ合って正面を向く(角度)

第2節 分析の結果と考察

 「検討会」は,担任と児童との人間関係の構築を目的のひとつにしている。そこでプ リテストでの他者受容感のデータに着目し,低い児童,平均値の児童,そして高い児童 を一人ずつ抽出することにした。

 第1項1児について

Table4−4  1児のプリテストの結果

有能感 自己決定感 他者受容感

1児 !5

17 12

クラス平均

16.7 15.7 16

O I児抽出の理由

 丁&ble4−4に示すように1児は,他者受容感が12点と最低レベルであり,友だちに 対する受容感,教師に対する受容感とも平均値2点と低い児童である.

 学校生活では,友だちも少なく休憩時問はひとりで本を読んで過ごすことが多い。担 任の先生に自分から話しかけることはほとんどなく,授業中は進んで発表することも少 ない。週初めの月曜日は,やや欠席が目立つ。

 今までの「総合的な学習の時問」における課題解決学習では,特にインターネットを 活用した情報収集を中心にひとりで活動することが多く,グループで活動すると孤立す ることが多い。

 特にこの検討会は,1児のように他者受容感の低い児童のそれを高めることを目指した 実践である。教師のどのような手立てが,1児の受容感を高めるのに有効であるかを考察 するために,対話の内容をプロトコル分析した。

○分析

Table4−5

1児の書いた未来日記

       「未来日記」と「ふり返り日記」

      組(

ィールドワークの中心活動

住職εんにインタビューする。

中心活動場面をクライマックスにして 未采日記」を書こう。

実際に活動したことを思い出し ふり返り日記」を書こう。

題 奈良公園τフィールド『7一ウ

5月 37日(火) 月 日()

6月 9日,春日野τ昼食をごっτから,二月堂 6月 9臼,

に向かっτスタートしました。途中,手向山神社に行 きました。もっと由くにiさ,若草山か見えました。次に 一番楽し∂盛にしτいた二月堂τす。階段の数か二月 堂石す。階段の数か多くて息切れしました。τも,二 月堂の中から見た景色1さすごくきれい石した。「三月 は,ここτお水取qをするんだなあ。』こ思いました。

「また今度見られたらいいなあ。』ご思いました。若ε 石住職さんにインタビューし皆した。;側さ東六寺の南 六門に行きました。「阿形像」こ「畔形像」のはくりょく はすごかったτす。次に国立博物館に行きましたi。

中も外もすごくζ¢から見τも立派な建物τした.

「けっCうすごいなあ。』ご思いました。ろく苑にも行っ たし,:もうすぐ本τ見τも,しお乙1石見τもすごくはく ら1よくのある六仏様をみれると思うとすごくわくわくし ました。2:30に集合鳩所につきました。

ユニット1

Table4−6

:1児が地図を正確に読め,活動計画,行動順序をしっかりとたてられたことを 評価する場面。(Nl T〜N10S)

  課題設定能力・情報活用能力を評価する場面

発話NO

教師の発話・行動(表情) 児童の発話・行動(表情)

NIT

1君の日記のいいところはね,メイ ンのr二月堂」へ行くまでにr手向 山神社に行きました。」とかrもっと おくには若草山が見えました.」と書 いとうやろ。これ自分で地図見て調 べたん?

N2S

(間髪入れず)うん。

N3T

地図の見方,わかったん?

N4S

(1)「後ろの方に若草山があるんやな

あ。」と思ったから。

N5T

前や後ろの関係もちゃんと見とった んやな。地図が読みとれたんやな。

N6S

(2度うなずく)

N7T

それから,1君が1番楽しみにして るのは,「二月堂」?

N8S

(うなずく)

N9T

そうやな,「二月堂について知りた い。調べたい。」という気持ちが文章 によく出てるね。いい課題やな。大 事にしてかんばろな。

N10S

(弾むように)うん。

①(N2S)で児童がr待ってました。」とばかりに間髪入れず,「うん。」と得意げに答えて いる。教師の「地図で調べたん?」という発話(NIT)に対する反応であるが,自分で地 図を見て計画を立てたという「情報処理能力」をアピールしている行動,並びに発話であ ると考えられる。次に(N4S)のように,自分が地図を読み取る手順,方法を児童に自分の 言葉で表現させ,それを教師がうなずきながら傾聴している。それを受けて教師が言った

「地図が読み取れたんやな。」(N5T)の「○○ができたね。』という発話にうれしそうに2 度うなずいている。

手立て①「OOができたね。」という声かけ

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