第3章 研究1 r未来日記」を用いた実践授業と内発的学習意欲との関連
第3節 t検定の結果
第1項プリテストとポストテスHのt検定
「自己決定感」と「他者受容感」に有意な差が認められた。
Table3−6 プリテストとポストテスト1のt検定
プリテスト ポストテストI
M SD M SD t値 有能感
自己決定感 他者受容感
16.74 15.74 16.00
3.23 2.72 2.84
17.45 16.94 16.74
3.12 2。94 2.85
1.65n.s 2.45*
3.08*
*p<.05 n=31
ポストテスト1の時点では,特に他者受容感を高めるために意図的な処遇を与えたわけ ではないが,他者受容感に有意な差が認められた。これをr教師に対するもの」とr友だ ちに対するもの」にわけてt検定を行うと,友だちに対する受容感に有意な差が認められ た。これは修学旅行という楽しみな行事を中心にすえた課題解決学習を進めていく上で,
グループの友だちと好ましい人問関係ができたり,クラスの雰囲気が盛り上がったりして 友だちに対する受容感が高まったのではないかと思われる。
Table3−7
他者受容感の項目別t検定プリテスト M SD
ポストテストI
M SD t値 友だちに対する受容感
教師に対する受容感
7.80 8.26
1.74 1.90
8.87 7.87
5 8
49
11
6.15*
1.68n.s.
*P<.05 n=31
第2項ポストテスト1とポストテスト のt検定
ポストテスト1と「検討会」後のポストテスト丑のt検定では,「他者受容感」に有意な 差が認められた。
Table3−8 ポストテスト1とポストテストHのt検定
ポストテスト1 ポストテストH
M SD M SD t{直
有能感 自己決定感 他者受容感
17.45 16.94 16.78
3.12 2。94 2.84
18.00 16。87 17。61
3.15 2.97 2.77
1.55n.s.
1.44n.s.
3。39*
*P<,05 nニ31
前回と同様に「友だちに対するもの」と「教師に対するもの」に分けてt検定を行うと 教師に対する受容感に有意な差が認められた。
Table3−9 他者受容感の項目別t検定
ポストテストI M SD M
ポストテストH
SD t値 友だちに対する受容感教師に対する受容感
8.87 7.87
1.45 1.98
9.07 8.60
1。68 1.94
0.96n.s.
3.34*
*P<.05
n=31
第3項プリテストとポストテストllのt検定から
最後に,単前に実施したプリテストと「検討会」終了後に実施したポストテストHのt 検定を行うと3つの要素すべてに有意な差が認められた。
Table3−1 0 プリテストとポストテストIIのt検定
プリテスト ポストテストH
M SD M SD t値
感感 定容 感決受 能己者 有自他
51.1616.74 16.00
6.90 3.23 2。84
52.59 18 17.61
7.01 3.15 2.77
2.95*
2.89*
4。70*
*p<.05 n=31
r有能感」の質問項目は,第3章第1節でも記したように,r学習領域」r社会領域」r自己 価値」の3項目で構成している。それぞれの項目別にt検定を行うと,「学習領域」「自己 価値」に有意な差がみられた。(Table)
Table3−11 有能感の項目別t検定
プリテスト ポストテストH
M SD M SD tイ直
学習領域 社会領域 自己価値
5.19 6.45 5.00
1.54 1.61 1.29
5.74 6.81 5.48
1.39 1.30 1.33
2.13*
1.46n.s.
2.62*
*P<.05
n=31
第4項 t検定の結果からの考察
プリテスト,ポストテスト1,1の平均値の変化について,対応のあるt検定を行った 結果(Table3−4〜3−11),「未来日記を書く」「検討会を行う」という取り組みをセ
ットで実施すると3つの要素を高めるのに効果的であるということが示唆された.
ここでは3つの要素別にさらに詳しく考察する.
○有能感について
Table3−11のように有能感を項目別にt検定を行うと,r学習領域」「自己価値」に有意 な差がみられ。「社会領域」は,プリテストの時点で平均点が6.45/8.00と高得点であった ということもあり有意な差はみられなかった。ここで筆者が着目したいのはt値が2.62と 最も高かった「自己価値」である。
櫻井は「自己価値とは,『自分についての全般的な有能感』である。自尊心と言い換えて もほぼ同じである。36」と述べている。自分に自信の持てない児童に少しでも自分の存在意 義を感じさせたい,r総合的な学習の時問」こそがその場であると信じる指導者にとっては,
注目したいデータであるといえる。
O自己決定感について
プリテストと「未来日記」を書いた直後のポストテスト1において,有意な差がみられ た。 )
前述のDeci,E.L(1985)が定義する自己決定論「自己の意志を活用する過程である。これは,自 己の限界と制約を受容し,自分に働いている諸力を認識し,選択能力を活用し,各種能力の支持 を得て,自己の要求を満たすことを意味している。」に沿って言えば,今同児童はまだ行ったことの ない奈良公園という場所で,自分のしたい活動(自己の要求を満たすこと)を,今までの自分の経験 や集めた情報を組み合わせて(各種能力の支持),自分のできそうなこと(自己の限界と制約を受容)
を決めたのではないかと考える。
また藤井(2002)は,r子どもたちに,自分自身を主人公にした『学びの物語』を,自分自 身で生み出していく学習活動に取り組ませることにより,子どもたちに学ぶことの能力と 意欲を連続的に育成することができる。37」と述べている。つまり,自分で決めたことを一 人称で物語としての文章にすることで,r自分で決めたんだ。」という決定感が高まった結 果であると推測する。
36前掲書8 p.24
37藤井千春(2002)『総合学習で育てる学力ストラテジー』pp.4・5(明治図書)
○他者受容感について
ポストテスト1の時点では,特に他者受容感を高めるために意図的な処遇を与えたわ けではないが,友だちに対する他者受容感が高まっている。これは先にも述べたように,
修学旅行という楽しみな行事を中心にすえた課題解決学習を進めていく上で,グループ の友だちと好ましい人間関係ができたり,クラスの雰囲気の盛り上がりなどで他者受容 感が高まったのではないかと思われる。
ポストテストHでは,教師に対する受容感が高まった。検討会終了後にとったアンケ ートでは,「初めて先生と一対一で話をして緊張した。」と書いている子がいたが,この クラスになって初めて担任と一対一で向かい合って話をした児童もいた。「一対一で話 す」一「その数分は担任の先生が自分だけを見てくれる。」「自分のいいところを誉めて くれる。」このことがいかに児童の他者受容感を高めるために有効な処遇であるかがうか がえるデータである。