7-1 各章における研究結果の総括
第2章では,本研究対象地である東京臨海部が,関東大震災を契機に港湾整備の重要性が認識 されて以降,これまでの世界的なコンテナ輸送革命の進展や旧港湾地区の海洋レクリエーション 需要への対応などが進む中で,東京臨海部ではWATERS takeshiba(JR東日本)や東京ミズマチ(東 武鉄道)等の民間の水辺再開発や東京五輪2020に向けた選手村や競技会場整備,それに伴う社会 基盤整備,水際空間の視点場整備(東京都海上公園等)などが水辺空間の整備状況やその周辺の 景観変化に大きく寄与してきた経緯を捉えた.さらに,東京臨海部は,日本一の物流港湾である
「東京港」を中心としながらもその魅力を十分に生かした水辺空間整備がなされていない実態を 課題として捉え,水辺空間を活用した都内水上交通やその交通ターミナルとなる船着場周辺(港 湾・河岸)の魅力形成の必要性を示唆した.
第3章では,まず東京臨海部における水上交通事業の魅力向上に資する「主要航路」や「集客 コンセプト」について論考するため,都内水上交通事業者全 27 社のうち調査協力の得られた 10 社の各事業者が発行するパンフレット42冊(全 75コース)を分析対象として,現在運航される クルーズツアーの「運航航路」や「事業概要」に関する共通的特徴を把握した.次に,各クルーズ ツアーを運航開始年度の順に並び変え,時代ごとの都内水上交通の運航航路の集積状況と集客の ためのコンセプト等について論考した結果,都内水上交通の魅力向上を目指すためには,約50年・
3期にわたり共通して航路の中心を担ってきた「東京港・内港エリア」と一貫した集客コンセプト であった「景観体験」の2つの重要性を示唆した.
第4章では,第3章で得られた「景観体験」の重要性に着目し,近年大きく変貌する東京港を 対象に,昼と夜の好ましい「海上景観要素」とそれらの視距離を導出し,その結果を用いて,魅 力的な海上景観要素が適切な距離で視認できる指標値を明確化した.その結果,①昼夜共通して 評価された景観要素は「港湾景観」,「橋梁景観」,「都市景観」等のヒューマンスケールを超過し た海上ならではの 3つの景観要素が評価されたこと.②昼・夜共通して抽出された海上景観には
「近望性」・「連続性」・「近接性」・「誘目性」・「一体性」の5つの景観特性が存在し,それぞれの 景観特性によって評価の距離帯が異なること.③昼夜共通して好ましいと評価された海上景観は,
景観特性ごとに視距離や視野角に共通・相違範囲が存在し,それら魅力的な海上景観が望める視 距離帯を考慮した航路選定が重要となること.以上3つの特徴を明らかにした.
第5章では,水上交通事業の利用促進に資するメディア向けの画像(広報媒体)としての海上 景観の構図特性に着目し,水上交通事業者と利用者(乗船者)の双方の視点から注目すべき海上 景観写真の構図的特徴を比較・分析した.その結果,①都内水上交通では,「都市施設」「港湾施設」
「橋梁施設」「航空機」の4つが評価の高い景観要素であり,海越しの都市群や大型港湾施設など の海上ならではの非日常的景観が評価されたこと.②水上交通事業者と乗船者の両者が共通して
注目した構図タイプとしては,主対象と広大な海や空で構成された「建築物主対象型」「都市群バ ランス型」「大橋梁主対象型」「大橋梁バランス型」「小橋梁主対象型」「港湾施設主対象型」「航空 機遠景型」の7つの構図タイプが存在すること.③これら7つの構図タイプの魅力的な海上景観 を成立させるには,主対象や副対象に加えて,広大な水面や空などの背景(地)となる景観要素 の配置バランスが重要となること.以上3つの特徴を捉えた.
第6章では,現在の東京港周辺の船着場の大部分が単なる乗降のための通過点にとどまってお り,文化形成の拠点に至っていない点を課題と捉え,船着場の望ましいあり方について論考して いる.研究対象事例は,都内周辺には適当な事例が存在しないため,17年間にわたり水辺空間の 賑わいを創出してきた「水都大阪(水の回廊)」に着目した.ここでは,「水の回廊エリア」に関す る関連計画の変遷や水辺空間の段階的な整備状況を整理し,その空間的な波及状況とその波及を 促す管理運営者の戦略プロセスについて考察している.
その結果,「水都大阪(水の回廊)」における「水辺を意識した建築物」の立地的特徴としては,
①「船着場」と「水辺を意識した建物」の整備時期に関わらず「水辺を意識した建物」が「船着 場」の近傍に集中して立地していること.②「水辺を意識した建物」は「船着場」を中心に水辺遊 歩道の延伸方向に自然発生的に広がりをもつこと.③「水辺を意識した建物」は,船着場と「水 辺を意識した建物」の整備時期が異なるケースの方が,同時期に一体整備されたケースよりも空 間的波及効果が高いこと.これら3 つの特徴を明らかにしている.以上を通じて,水辺の船着場 周辺の魅力形成のためには,「船着場」と「水辺遊歩道」と「水辺を意識した建物」の3者を一体 的に整備することの重要性を示唆した.
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7-2 本研究の結論
本研究では,東京臨海部における都市観光の促進を目指した「都内水上交通事業者」に向けた
「水上交通の魅力向上」に資する4 つの研究項目を設定し,事業段階(事業計画/航路計画/情 報発信/事業更新など)別に,①東京臨海部における水上交通の事業継続要件(主要航路や集客 コンセプト),②東京港における昼夜間の魅力的な海上景観が望める視距離(指標値)とモデルル ート,③水上交通事業者と利用者(乗船者)の両社の視点から捉えた水上交通の魅力を伝えるメ ディア画像の構図的特徴および構図特性,④船着場を中心とする地域活性化方策に資する船着場 とその周辺施設の立地的特徴をそれぞれ捉えるとともに,その成果や活用方法について考察を進 めてきた.そこで,ここでは本研究成果として得られた知見(表 7-1)をもとに,都内水上交通事 業者にむけた水上交通の魅力向上に資する活用方策のあり方について述べる.
表 7-1 本研究成果とその活用方策の枠組み
事業段階 水上交通事業者に向けた研究成果の活用方策 各章との 関係性
計画 段階
事業計画
・事業開始当初から現在まで50年にわたり継続利用されてきた「主要航路(東京港内
港エリア)」と「集客コンセプト(景観体験)」を「事業計画」へ反映 第3章
・東京臨海部における昼夜間における魅力的な海上景観と景観特性(評価理由)を考慮 した「航路計画(見学ポイントの提示など)」の立案
第4章 航路計画 ・昼夜間における魅力的な海上景観が望める視距離帯(指標値)を勘案した「航路計画
(魅力的な海上景観が眺められるルート選定など)」の立案
船着場
(発着点 の選定)
・発着点となる船着場の再選定(既存船着場)や新規整備(開発事業)にあたっては「船 着場」と「水辺遊歩道」,「水辺を意識した建物」の3者の一体性や連続性を考慮した 都内水上交通の魅力向上に資する「船着場の選定」の実施
第6章
運用 段階
情報発信
・水上交通事業者と利用者が共通して評価した魅力的な海上景観写真とその構図特性 を考慮した「クルーズ事業の広報活動(パンフレットやホームページ,SNS等へ掲載 すべきメディア画像の提示など)」の実施
第5章
7-2-1 計画段階(事業計画/航路計画)
「計画段階」における本研究成果の活用方策としては,第3章で述べたとおり,水上交通事業 開始当初から現在に至るまでの約 50 年にわたり実施されてきた水上交通事業の変遷と事業形態 の変容状況について明らかにした.その結果,水上交通事業の初動期から現在までに一貫して共 通した重要事項として,主要航路は「東京港・内港エリア」であること,集客コンセプトは「景観 体験」が中心であることを明示した.これらより,都内水上交通を活用した観光事業としての持 続的運営を図るためには,50年にわたり継続利用がされてきた「東京港・内港エリア」と集客コ ンセプト(景観体験)を「基本軸(主軸)」として,各時代の社会ニーズに併せて「基本軸」から 拡張した「都市河川エリア航路(歴史文化体験)」や「内港・外港エリア航路(飲食クルーズ)」な ど,これらを広域的につなぐ移動周遊航路を「支線(櫛)」として位置付けた.これにより,今後 さらに社会情勢により新たに整備される観光名所や変化する社会ニーズ(新型コロナ対策等)に 応じて,その「支線(櫛)」としての航路を拡張していくとともに,その航路に併せて船舶規模や 所要時間などを多様に変化させることで利用者に寄り添った乗船スタイルを確立していくことの 重要性が示唆される.
また,第4章で述べたとおり,東京港を対象として昼夜における好ましい海上景観とその評価 理由からみた海上景観特性とその空間要件(視距離や視野角)を導出し,その結果を用いて,魅 力的な海上景観要素が適切な距離で視認することが可能な視距離帯(指標値)とそのモデルルー トを提示した.具体的には,第 1段階として本調査で得られた好ましい景観構成要素やそれらに 類似する景観構成要素を確認した上で,その位置関係を地図上へ記載(表 7-2・第1段階)すると ともに,第2段階として各地点を中心として各主対象(景観構成要素)を眺めるにふさわしい「視 距離帯(表 7-3)」を半径としてエリア表示する(表 7-2・第2段階).この際,円の重なりが多け れば多いほど,多様な好ましい景観要素が魅力的な視距離で眺められるということを意味するも のである.さらに,後述する「船着場」の選定を行った後に,第 3段階として,水辺空間の魅力 を発信する船着場を発着点として,多様な海上景観の構成要素群が魅力的な視距離で視認できる エリアを航路としてつなぎ合わせる(表 7-2・第3段階)ことで,魅力的な海上景観が視体験でき る新たな運航航路の一例が提案できることになる.
なお,この航路のつなぎ方は,航路設定を行う事業者やその事業コンセプト等に併せて設定す るものであり,運航時間や料金設定に応じて距離の調整が可能となる.また,昼夜で重複するコ ースを選択することで事業ルートを一定に保つ合理的な事業運営が可能となる一方,昼夜で異な るコースを選択することで昼夜で異なる多様な景観要素が楽しめる事業運営が可能となる.