都内水上交通事業の魅力向上を図るためには,利用者(乗船者)が興味関心を向ける魅力的な 景観情報をパンフレットやホームページ,SNSなどで情報発信していくことが重要となると考え られる.
そこで本章では,前章および前々章より得られた「景観体験」の重要性と,東京港における魅 力的な海上景観の現状を考慮した「水上交通の魅力を伝えるメディア画像」に着目して,水上交 通事業者が発行するパンフレットやホームページ,SNS などの広報媒体への掲載に望ましい景観 写真とその構図的特徴を明らかにするとともに,都内水上交通の魅力向上に資する海上景観の構 図特性とその構図タイプを導出する.
5-1 研究方法
「東京臨海部」における水上交通事業者およびその利用者の双方が魅力的と感じる海上景観の 構図特性を把握するため,表 5-1に示す調査・分析を実施した.以下にその具体的方法を述べる.
表 5-1 調査概要 (1) 水上交通事業者からみた魅力的な海上景観の把握
1)景観写真の分類調査
調査期間 2019年10月4日(金)~10月18(金) 約2週間
調査対象 10年以上継続運航している水上交通事業者のうち調査協力の得られた4社が2017年に発行したパンフレッ トの掲載写真(全37枚)を対象とした(表 5-2).
調査内容 手順❶:パンフレットの表題や説明文の記載事項から「主対象」を選出.
手順❷:「主対象」をもとに都市・橋梁・港湾等の景観分類別に区分.なお,「主対象」を基準に視点場側にある構造 物・緑地等を「副対象」,奥側にある構造物・緑地等を「背景」として分類した.
手順❸:「主対象」となる景観要素と構図を捉え,KJ法で構図タイプを分類.
(2) 水上交通利用者からみた好ましい海上景観の把握 1) 東京港クルーズ調査
調査期間 2019年8月19日(月)12:00~14:30(所要時間:2.5時間)
調査対象 日大理工の学生被験者19名(引率者を除いた推奨乗船人数).なお,本研究では一般的な観光客目線で の景観評価が可能であり,視覚で認知した景観を言葉として表現することができること,景観評価の 内容を繰り返し追跡してヒアリングが可能であり,調査成果の確度を高めることができる「日本大学 理工学部の学生被験者注2~3)」とした.また,被験者(サンプル)数は実空間(現地調査)を対象とし た景観評価(写真投影法の室内実験などは除外)を実施した既往研究1)~5)を基に15~20名程度と設定 し,調査船の研究者やガイドを除く最大乗船人数である19名とした.
気象条件 天候:晴れ/気温:30.5度/風速:3.8㎧/風向:北東/視程:10.0㎞/波高:0.5m6)
調査内容 東京港全域を概ね網羅することが可能なルート(図 5-2)を設定した.被験者には 27 枚撮りの使い捨てカメラを配布 し,構図を意識させ好ましい海上景観の写真を撮影させた.(船舶:(株)ジール)
2) 景観アンケート調査およびヒアリング調査
調査期間 2019年8月20日(火)~30日(金)(回答期間:10日間)
調査対象 日大理工の学生被験者19名(引率者を除いた推奨乗船人数)
調査内容 東京港クルーズ調査と同一被験者に対し,自身が撮影した景観写真について以下に示すアンケート調査を 行った.さらに,評価理由などで不明点が出てきた際には,対面式のヒアリング調査を実施した.
アンケート 調査項目
・好ましい海上景観写真(10枚)を選出させ,景観写真に〇印を記入させ,「主対象」と「副対象」を明確にした.
・評価理由を記載させた.なお,写真と好ましい構図が異なる場合は好ましいと感じる構図枠を追記させた.
3) 景観写真の分類調査
調査期間 2019年9月1日(日)~10月4日(金) 約1ヶ月 調査対象 アンケート調査で選出された景観写真(全190枚)
調査内容 手順❶:アンケート,ヒアリング調査結果から「主対象」「副対象」「背景」を選出.
手順❷:「主対象」をもとに都市・橋梁・港湾等の景観分類を実施.
手順❸:「主対象」となる景観要素と全体構図を捉え,KJ法で構図タイプを分類 (3) 魅力的な海上景観の構図タイプの定量分析
調査期間 2019年10月4日(金)~12月31日(火) 約3ヶ月
調査対象 調査(1)および調査(2)より水上交通事業者と利用者が共通して評価した構図タイプ(表 5-4 に示す全 7 タイ プ)
調査内容 各型の構図的特徴と成立要件を捉えるため以下のメッシュ分析を行った.
手順❶:景観写真を600メッシュ(20×30マス)に分割し,景観構成要素ごとの面積を抽出し,その占有割合を 把握.なお,本研究では海上景観の景観構成要素が抽出可能なメッシュサイズ(600メッシュ)とした.
手順❷:タイプ別の代表値を選出するにあたり,極値の影響を受けにくい中央値(代表値)を算出後,面積割 合をレーダーチャートとして整理した.
5-1-2 水上交通利用者からみた好ましい海上景観の把握
水上交通利用者が好ましいと感じる海上景観を捉えるために,図 5-2 に示すように,3 章でと らえた重要航路である「東京港・内港エリア」を含むオリジナルルートで表 5-1 (2)1)に示す東京 港クルーズ調査を実施した(写真 5-1).被験者は,一般的な観光客目線での評価が可能であり,
視覚で認知した景観を言葉として表現することができること.また,景観評価を繰り返し追跡し てヒアリングが可能であり,調査成果の確度が高めることができる日本大学理工学部の学生被験 者(19名)とした.なお,被験者数は,研究者およびガイドを除いた本船の推奨乗船人数の上限 人数とした.景観アンケートでは,表 5-1 (2)2)に示すとおり被験者が好ましいと感じた撮影対象 や評価理由を調査票へ記入させるとともに,不明点を補うためのヒアリングを実施した(写真 5-2).こうして抽出した景観写真全190枚と評価理由をもとに,表 5-1 (2) 3)に示す手順で海上景観 の構図タイプを分類した.
図 5-2 東京港クルーズ調査の調査航路
写真5-1 東京港クルーズ調査実施状況(筆者撮影) 写真5-2 調査船舶(筆者撮影)
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本現地調査では,被験者が好ましいと感じる海上景観の構図的特徴とその成立条件を定量的に 捉えることを目的としたことから,➊被験者が実際に眺めた風景をできる限り再現した写真を撮 影すること(実写に近い画角で撮影可能なカメラを用いること),❷乗船被験者が同一条件下で調 査可能なカメラであること(被験者ごとに画角にズレが出ないこと)の2点を考慮して,以下に 示す「使い捨てカメラ(富士フィルム株式会社:写ルンですシンプルエース(写真 5-3)」を用い るものとした.
なお,人間の視覚構造より,被験者が見たままを撮影するためには,水平見込角60°程度,水 力見込角 45°程度の視野角が必要 7)~9)とされており,「写ルンですシンプルエース(水平見込角 58.7°/垂直見込角41.1°)」は,この基準に近似していることから,同カメラを使用することで 人間の視覚に近い画像が撮影できるものとして本調査で使用するものとした.
<カメラの仕様10)>
・フィルム:ISO400 135フィルム
・撮影枚数:27枚
・レンズ:f=32mm,F=10 プラスチックレンズ1枚
・シャッタースピード:1/140秒
・撮影距離範囲:1m~無限遠
・フラッシュ:内蔵(有効撮影距離:1m~3m)
写真5-3 本調査で使用した使い捨てカメラ(筆者撮影)
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5-2 水上交通事業者および利用者が共通して注目した海上景観特性と構図的特徴
表 5-3は構図タイプ別の水上交通利用者の評価理由を,また,表 5-4水上交通事業者および利 用者が共通して注目した海上景観の 7つの構図タイプとその特徴や代表写真,構図バランス等を それぞれ示したものである.
以降は,これらをもとに全ての景観写真に共通して見られた主要な要素である「主対象」,「空」,
「水面」という3つの景観構成要素に着目し,各タイプの構図的特徴と調査対象写真に占める景 観構成要素の面積割合との関係性について論述する.
表 5-3 構図タイプ別の水上交通利用者の主な評価理由とその評価数・割合
分類 構図タイプ
(評価人数)
主対象
(評価人数/割合) 主な評価理由 評価数
(名)
割合
(%)
都 市 景 観
(1)建築物主対象型
(14名/19名)
国際展示場
(9名,64.3%)
国際展示場の近未来的なデザインが周辺より興味深く見えた 8名 88.9%
海や建築物の色彩に引かれた 1名 11.1%
フジテレビ本社ビル
(8名/57.1%)
フジテレビの特徴的な建築形態が周辺より際立って見えた 5名 62.5%
船に乗って海側からでしか鑑賞できない非日常的な景観が新 鮮だったから
2名 25.0%
(2)都市群バランス型
(10名/19名)
都市群
(10名,52.6%)
都市群を海上から眺めることで非日常性を感じることができた 7名 70.0%
海上から眺める都市群のスカイラインが美しい 3名 30.0%
橋 梁 景 観
(3)大橋梁主対象型
(12名/19名)
東京ゲートブリッジ
(10名,68.4%)
東京ゲートブリッジの存在感や特徴的な構造形態に惹かれた 7名 70.0%
東京ゲートブリッジを見上げる迫力に圧倒された 3名 30.0%
レインボーブリッジ
(6名,50.0%)
船上から見上げたレインボーブリッジの迫力や存在感に圧倒さ れた
5名 83.3%
船でしか味わえない素晴らしい景観に魅了された 2名 33.3%
(4)大橋梁バランス型
(11名/19名)
レインボーブリッジ
(7名,63.6%)
レインボーブリッジと背景の都市群との一体的景観に魅力を感 じた
4名 57.1%
海にたたずむレインボーブリッジが東京を象徴する景観と感じた ため
3名 42.9%
東京ゲートブリッジ
(4名,36.4%)
船上から眺めた東京ゲートブリッジと水平線と空の三者が美しい 3名 75.0%
特徴的な構造形態が面白かったため 1名 25.0%
(5)小橋梁主対象型
(2名/19名)
小橋梁
(2名,100%)
低層橋梁が運河に沿って水平方向に連続する様子が美しい 2名 100%
橋のバリエーションが豊富で東京らしさを感じた 1名 50.0%
港湾 景観
(6)港湾施設主対象型
(12名/19名)
港湾施設
(12名,100%)
近距離で見上げたガントリークレーンやコンテナ船の迫力に圧 倒された
8名 66.7%
船上からでしか眺められない非日常的な景観に魅了された 5名 41.7%
航空 景観
(7)航空機遠景型
(7名/19名)
航空機
(7名,100%)
海上から眺めた航空機の離発着の様子が魅力的だった 7名 100%
滑走路を経て大空に飛び立つ航空機に惹かれた 3名 42.9%
【注意】 :本文記載事項