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第5章 成層自着火燃焼を適用した二行程ガソリン機関

5.2 供試機関と機関コンセプト

図5-1は供試機関とその制御系を示し,表5-1は供試機関の主要諸元を示す.本機関は第4章で 述べたとおり,従来のクランクケース与圧式250 cm3ガソリン二行程機関に,

1)成層混合気形成のための燃料直接噴射機構,

2)筒内の残留ガス割合を制御するために排気口の開口面積を可変する排気弁機構,

3)燃焼室内ガス温度分布を形成するためにボア中心に対し排気側にオフセットした形状のスキッ シュドーム型燃焼室,

を備える.

排気弁は排気始め時期を可変にする機能を同時にあわせ持つ.これらの機構はおもに機関速度 と吸気スロットル弁開度で決定される機関運転条件にしたがい制御されるが,制御装置は実験用 に自在に調整可能となっている.この制御装置は,前述の第2章 2.2に示したように,市販の機 関制御装置を改良し,操作室から動作モニタと遠隔制御が可能な装置となっている.

燃料直接噴射機構は,スプレーガイド方式のエアーアシスト式筒内直噴弁 (5-6) を採用した.こ れには,筒内流動や燃焼室壁面形状によらず成層混合気形成が可能で,燃焼室やピストン頭部の 形状の影響を受けにくい特徴があり,成層自着火燃焼コンセプトに適している.この直噴弁は市 販品で,図 5-1 に示すように上下二段構造からなり,上段の燃料計量用の燃料噴射弁と下段の筒 内直噴用の空気噴射弁で構成される.おもな仕様を表5-2に示す (5-7).制御装置は,前述の制御装 置に組み込まれている.それは,機関のクランク軸に固定されたクランクパルス信号をもとに噴 射時期と噴射時間が,燃料計量用の燃料噴射弁,直噴用のエアー噴射弁,それぞれ制御可能にな っている.これも排気弁同様に,操作室から動作モニタと遠隔制御が可能な装置となっている.

燃料直接噴射機構を動作させるための圧縮空気は,機関とは別体のレシプロ式小型エアーコンプ レッサーにより供給した.したがって,機関の正味燃費は,エアーコンプレッサーによる機械摩 擦損失の増分を従来の二行程ガソリン機関のそれに加え,評価した.

火花点火時期の制御も,他と同様に機関制御装置で行った.

燃焼室形状と燃料噴射弁位置は,第4章 4.2に述べたように,成層自着火燃焼の研究における 事前検討に基づいて設計した.三次元の計算流体力学による掃気流動シミュレーションを試み筒 内のガス温度分布を解析した.さらに圧力容器内への燃料噴射実験により混合気形成も可視化し た.これらをもとに,圧縮上死点において筒内ガスの高温部分が集中する空間に成層混合気が形 成されるように燃焼室形状と燃料噴射弁位置を設計した (5-5)

供試機関は動力計(明電舎製 80kW 直流ダイナモメーター)に直結され,機関速度および負荷

一定のもとに運転される.シリンダーヘッドには,筒内圧力計測用に水冷の圧電式圧力変換器(キ スラー6061A)が取付けられている.吸気管上流には,吸入空気流量計測用に層流式空気流量計(山 田製作所製ラミナーフローメーター)を備える.排気分析計は堀場製作所製のMEXA9100で,CO,

CO2, HC, NOx, O2分析計を備える.排出質量は,分析濃度と吸入空気質量から求めた.空燃比は,

吸入空気質量と燃料消費質量から求めた.この時,燃料消費質量はマスビューレット式燃料消費 計(小野測器製FX202P)で計測した.機関の冷却には循環式熱交換器を用い,本機関実験はヘッ ド近傍の冷却水温=85~90℃の条件で行った.吸入空気温度は,20~25℃で行った.

機関コンセプトにもとづいた燃焼モード分布を図 5-2 に示す.高負荷域は均一給気火花点火

(Homogeneous-charge spark-ignition: HCSI),低中負荷域は均一給気自着火(HCAI),アイドリン グおよび低速極低負荷域は成層給気火花点火(SCSI),HCAI と SCSI の中間領域は成層自着火

(SCAI)となるように,機関速度と機関負荷に応じて燃焼は制御される.これにより,均一給気 自着火(HCAI)と成層給気火花点火(SCSI)との間の燃焼をスムーズに移行できると考えた.

この機関コンセプトは,あらゆる運転域で不整燃焼のない二行程ガソリン機関を実現する可能 性がある.常用運転域は自着火燃焼でカバーし,アイドリング運転域のみ,成層給気火花点火

(SCSI)燃焼とする事で,より低NOxがはかられる.さらに,従来の二行程ガソリン機関の利点 である高トルク,高出力が維持された場合,四行程ガソリン機関に対し小排気量化,いわゆるダ ウンサイジングが可能となり,大幅な車両燃費の改善が期待できる.

図5-1 供試機関の制御系

Exhaust valve

Servo motor

Exhaust system Crank revolution

Intake throttle open degree Exhaust valve open degree Idle valve open degree Air temperature Atmospheric pressure Coolant temperature

Exhaust valve system

Fuel pump Fuel injector Air injector

Ignition

Oil pump Servo motor

Idle valve ECU

Input Output

Drive signals

Sensor signals

Intake throttle valve

Modified combustion chamber

Idle valve

Fuel injector

Fuel regulator Fuel pump

Direct Injection system

0.65MPa

Compressed air (0.5MPa)

Spark plug Air injector

表5-1 供試機関の主要諸元

Engine type Water cooled single-cylinder two-stroke

Displacement, cm3 250

Bore × Stroke, mm 68.0 × 68.8

Geometric compression ratio 14.2

Exhaust port opening period with exhaust valve, deg C.A. 0~186, variable Scavenging port opening period, deg C.A. 118

Fuel Gasoline (RON91)

表5-2 直噴機構の主要諸元

Air-assisted direct-injection

Air injector TOHATSU GENUINE PARTS 3T5-10310-1 Fuel metering injector TOHATSU GENUINE PARTS 3T5-10300-0

Fuel pressure 0.65 MPa (gauge)

Air pressure 0.5 MPa (gauge)

図5-2 コンセプト機関の燃焼モード分布

Engine speed

To rq ue HCS I

WOT

SCSI S CAI

HCSI: Homogeneous-charge spark-ignition HCAI: Homogeneous-charge auto-ignition SCAI: Stratified-charge auto-ignition SCSI: Stratified-charge spark-ignition

HCAI