第4章 新しい自着火燃焼:成層自着火燃焼
4.2 事前検討
4.2.2 燃焼室内ガス温度分布解析
表4-3 3D-CFD(Computational fluid dynamics)計算条件 使用アプリケーション RICARDO製 VECTIS
基礎方程式
質量保存の式
運動量保存の式(Navier-Stokesの式)
エネルギー保存式 気体の状態方程式 乱流モデル 標準k-εモデル
壁面境界条件 壁関数(対数則)
計算格子 非構造格子(内部空間6面体,境界面付近カットセル)
総格子数= 640,000(下死点時)
空間変化きざみ クランク角度 約5 degree 計算期間(開始~終了) 排気始め直前~上死点
境界条件
均一給気自着火燃焼機関実験の実測値
排気口開き直前の筒内圧力,温度,他各部圧力,温度
(運転条件:自着火負荷下限相当,3,000 r/min, IMEP=200 kPa)
図4-8 CFD計算に用いた計算格子(下死点)
Scavenging port Exhaust port
Cylinder Combustion chamber
CFDでは,燃焼室形状の異なる2種類の燃焼室,スキッシュドーム型で燃焼室中心が排気側に オフセットしているType-Aと一般的な半球形型燃焼室のType-Bを比較した.図4-9は,CFDに よる燃焼室形状違いの燃焼室内ガス温度分布を比較している.ガス温度分布には両燃焼室ともに 不均一性が見られ,高温部と低温部で120 Kの差が見られる.Type-Aでは燃焼室頂点から下方約
10 mmの点を中心に高温部が分布している.一方Type-Bでは排気側下方に高温部が分布している.
この分布の違いは排気行程から圧縮行程にいたる一連のCFD解析によると,掃気流動の違いによ る.Type-Aの場合,筒内に流入した新気は燃焼室上部で排気側へまわりこむ大きな縦渦を形成す る.この時,一部の残留ガスはこの渦の中に取り込まれ,圧縮行程終わりには図 4-9 のような燃 焼室中心に高温部が集中する分布となっている.Type-Bの場合,顕著な渦が形成されないため排 気側に高温部が集中する分布となっている.この縦渦形成に燃焼室形状が大きく影響していると 考察される.
Type-Aの燃焼室ならば,可視化実験で確認された噴射弁下方約10 mmを中心とする混合気形成
場と筒内ガス温度分布における高温部が一致する.実際の機関運転においては,噴霧形状は筒内 流動の影響を受けるが,上死点近傍における混合気形成の場合,その影響は小さいと考えられる.
なお,図4-9のCFD結果を可視化したガス温度分布では燃焼室壁面およびピストン上壁面にお けるクェンチングの影響を確認しにくいが,これは壁面付近の温度勾配が大きいため可視化処理 した図では見出しがたいことによる.
(a) Combustion chamber, type-A
(b) Combustion chamber, type-B
図4-9 CFDによる燃焼室形状違いの燃焼室内ガス温度分布比較