本研究の目的は第 1 章に示したとおり、ミャンマーのコメ生産の現状と課題 の分析を踏まえ、主要水稲品種の遺伝的純度向上のためBreeder Seed(BS)増 殖に導入した系統栽培法の効果の検証、および適地適作を念頭に、これら水稲品 種の異なる環境における農業形質の変異の解明をつうじて、ミャンマー政府と JICAが実施する種子品質向上の取り組み効果を科学的に実証するとともに、同 国のコメ生産性と品質向上の可能性を検討することである。
この目的を達成するために、第 2 章において、ミャンマーにおける品種の育 成、栽培および普及に関する調査・分析をつうじて、コメ生産の現状を検証し、
①不適切な品質管理により種子が劣化し、本来の品種特性を備えた種子が普及 していない。②情報不足、種子市場の未発達および籾米の品質が価格に反映され ないことから、多くの農家が自家採種種子を使用している。③品種特性と栽培環 境に関する知識・情報の不足から、適正品種が適地に栽培されていない。および
④農業研究局(DAR)と農業局(DOA)で情報共有が行われず、新品種が農家 へ普及していないこと等が生産性と品質の向上を阻む課題であることを明確に した。第 3 章では、第 2 章で明らかにした課題のうち種子生産に焦点を当て、
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種子増殖工程の最上位に位置するBSの遺伝的純度向上のため、JICA技術協力 プロジェクトが同国の主要水稲 9 品種を対象に、従来のバルクにした穂系統に より家系が混ざり品種劣化をまねいていたBS増殖方法を改め、新たに導入した 系譜情報を付与した系統栽培法の効果を検証した。その結果、BS増殖過程にお ける農業形質の遺伝的固定度の経年的な評価では標準偏差の低下および分散比 の増加が確認され、SSRマーカーによるDNA多型解析では2016年に増殖した BSにDNA多型が見られなかった。以上より、系統栽培法がBS の遺伝的純度 の向上に効果的であることが実証された。
さらに、第 4 章では、第 2 章で明らかにした課題のうち、奨励品種の決定に 際して重要な、異なる環境における農業形質の変異の解明に焦点を当て、第3章 の実証試験で遺伝的に純化され、本来の品種特性を備えた 8 品種(非・弱感光 性)を対象に、雨期と乾期にそれぞれ異なる場所で栽培試験を行った。その結果、
異なる作期あるいは場所の昼夜の温度の違いにより全品種の出穂期が変動し、
早晩性によっても変動の幅が異なること、乾期の水田土壌における乾土効果に より、雨期に全品種の稈長の伸長が促進される可能性があること、および出穂期、
稈長、収量で品種と作期(G×S)、および品種と場所(G×L)の交互作用が認め られ、作期および場所の違いによって、これら農業形質の品種間差が異なった。
特に、収量については G×S および G×L の交互作用が著しく、温度、日射量に より収量が著しく変異することが明らかになった。以上より、農業立地環境が多 様なミャンマーで品種特性を活かして生産性を向上するには、作期や場所に応 じた奨励品種を選定することが重要であることが示唆された。
ミャンマーにおいてコメの生産性と品質を向上させるうえで効果的、かつ効 率的な方策は、①系統栽培法によるBSの遺伝的純度の維持・向上を柱とした種 子増殖・普及システムを強化すること。②品種特性が充分に発揮できるように、
奨励品種の選定試験を行う必要があること。および、③DAR とDOA が緊密に 連携して、奨励品種の増殖と農家への普及を行うことである。
DAR-Yezin では2016 年から本実証試験で供試した 9 品種以外、全ての品種
に系譜情報を維持した系統栽培法を導入してBS増殖を行っていることから、今
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後ミャンマー農業畜産灌漑省が増殖する 18 品種全ての BS、Foundation Seed
(FS)、Register Seed(RS)およびCertified Seed(CS)の遺伝的純度の向上 が期待できる。また、遺伝的純度の高い品種を使用して、適確な農業形質の評価 の下、適正な品種が選定されることが期待される。
一般農家へ配布する CS は、BS、FS、RS および CS と段階的に増殖を重ね て、十分な種子量を確保する仕組みであることから、最上流にあるBSの遺伝的 純度を維持することは極めて重要である。そのためには、今後もBS増殖におい て系統栽培法を継続していく必要がある。しかし、全品種のBSを毎年増殖する ことは、種子や苗の取り違え、漏生苗の混入、自然交雑、収穫・調整工程におけ る機械的混入等、異種混入の機会が多くなり、かえって遺伝的純度を低下させて しまう可能性もある。したがって、品種ごとにCS需要量に応じて、低温種子庫 を利用して、3~5 年サイクルでBS 増殖していくことが、長期にわたって遺伝 的純度を維持していく観点から重要である。
2011 年から2017年まで実施されたJICA 技術協力は、第5 章の試算からも 推察されるとおり、遺伝的純度の高いBSが質の高いFS、RSおよびCSの増殖 を可能とし、コメの生産性と品質の向上に道筋をつけたと考えられる。
以上より、ミャンマー政府と JICA が実施する種子品質向上の取り組みは効 果的であり、生産性および品質向上の可能性は極めて高いと結論することがで きる。
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