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主要水稲品種の遺伝的純化 のための系統栽培法( Line のための系統栽培法(Line

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 46-71)

cultivation method )による 育種家種子の増殖

ミャンマーでは 1970 年代から農業灌漑省(Ministry of Agriculture and Irrigation, 当時)が世界銀行(World Bank)、国連開発計画(United Nation Development Program: UNDP)、 食 糧 農 業 機 構 (Food and Agriculture Organization: FAO)等からの支援を得て、種子増殖システムを構築して生産に 取り組んできた。しかし、2011年においても保証種子(Certified Seed: CS)が 普及しておらず、多くの農民が自家採種種子を使用していた。その結果、出穂期 や登熟が揃わず、生産性や品質が向上しないばかりか、種子およびこれらの種子 から生産された籾米には他品種や赤米の混入が著しかった。CSが農家に普及し ない原因は、CS生産農家への技術普及体制および圃場審査と種子検査等の品質 管理体制が脆弱で、品質の高い充分な量のCSが供給できないこと。種子市場が 存在せず、農家のCS認知度が低いこと。さらに、籾米の品質が売買価格に反映 されず、農家の品質に対する意識が低いこと等が挙げられる(JICA, 2010; 藤井 ら, 2014)。

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ミャンマーの種子増殖は、同国農業畜産灌漑省 (Ministry of Agriculture, Livestock and Irrigation: MOALI) 農業研究局イエジン本部(Department of Agriculture at Yezin: DAR-Yezin) が育種家種子 (Breeder Seed: BS) を維持・

増殖し、同省農業局 (Department of Agriculture: DOA) 種子課(Seed Div.)傘 下にある全国35の種子農場等が、原原種種子 (Foundation Seed: FS)および原 種種子 (Register Seed: RS) を増殖するとともに、同局普及課 (Extension Div.) 指導の下、種子生産農家が保証種子 (Certified Seed: CS) の増殖を行う体制と なっている (藤井ら, 2014)。

DAR-Yezin では長期にわたり穂系統法により BS 増殖を行ってきた。この方

法は穂系統から選抜した主穂を一旦バルクにして、翌年にこれらの穂から系統 を展開する方法である。この方法では毎年家系が混ざり、系譜情報が喪失するこ とから、家系を遡及することができず、BSの遺伝的純度が向上しなかったと考 えられる。また、1株に複数本の苗が移植されていたことが、遺伝的純度の低下 を加速させる原因となっていた(池田, 2014; 藤井ら, 2014)。さらに、品種の劣 化(退化)は人的ミスによる機会的混入、自然交雑、家系の混合、遺伝的浮動、

自然淘汰、突然変異等によって起こることが知られている(伊藤・川口, 1983;

松永, 1992; Ikeda et al., 2007; Acqaah, 2012)。ミャンマーにおいてもDOAお よび DAR 種子圃場では、BS、FS、RS および CS の増殖に際して、圃場の均 平、異株の抜取り、除草、隔離、境界に接する株の取扱い、収穫後の脱穀、乾燥、

精選等の各工程における品質管理が不十分であったことも品種劣化の原因と考 えられる。

以上の背景より、独立行政法人国際協力機構はミャンマー政府の要請を受け て、2011年から2017年までコメの生産性と品質向上を念頭に、「農民参加によ る優良種子増殖・普及システム確立計画プロジェクト」を実施し、プロジェクト 活動の柱としてBS増殖方法を改善するために、系譜情報を保持して家系が遡及 できる系統栽培法を導入した(JICA, 2014; 2016)。系統栽培法は自家受精作物 の純系選抜法を応用したものである(松尾ら, 1960; 伊藤・川口, 1983; 吉村,

2012)。日本の試験研究機関では長年にわたり、系統栽培法によりBSおよびFS

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の増殖が行われている(伊藤, 1977; 松永, 1992; 北海道, 2011)。Ikedaら(2007) はベナンにおいてNERICA(New Rice for Africa)品種のFS増殖に関する研究に 基づき、BS増殖において遺伝的純度を維持するために系統栽培法の導入を推奨 している。また、マダガスカルでもBS増殖に系統栽培法を導入した結果、異株 の出現頻度が減少したことが報告されている (Arai et al., 2015; 2017)。

筆者は上記プロジェクトのチーフアドバイザーとしてミャンマーへ赴任し、

2012年から2016年までDAR-Yezinで、水稲品種の遺伝的純化を目的にBS 増殖へ系統栽培法を導入し、ミャンマーの主要水稲9品種を対象にBS増殖指 導を行うと共に、これら品種の主要農業形質の経年変化の分析、およびSSR マーカーによるSinthukhaのDNA多型解析をつうじて遺伝的純度向上の評価 を行い、BSの遺伝的安定性と系統栽培法の効果について検証を行った。

DNA多型による生物の遺伝的特性は年次、栽培環境および生育ステージ等 の影響を受けないこと、および時間と経費が削減されることから、DNA多型 が作物や家畜の品種識別に利用されている(Roewer, 2013; Nybom et al., 2014)。また、国際的な植物の育成者権の保護に対する関心の高まりに伴い、

UPOV(International Union for the Protection of New Varieties of Plants)

は植物品種保護のため区別性、均一性、および安定性(DUS)の評価にDNA マーカーを用いた品種識別技術の確立を推進している。DNAマーカーを用い た品種識別法として、RAPD(Random amplified polymorphic DNA), CAPs

(Cleaved amplified polymorphism sequence),SSR(Simple sequence

repeat)などのDNA多型に基づいた分析が知られている。イネでは多くの

SSR(Simple Sequence Repeat)マーカーが報告されており(McCouch et al., 2002; International rice genome sequencing project, 2005)、サーマルサイク ラーとアガロースゲル電気泳動で品種識別することは比較的容易で、多くの試 験・研究施設で用いられている (Santhy, 2000; Tabuchi, 2016)。

対象9品種はプロジェクト初期の2012/13年時点で、雨期の上位品種で、全 国作付面積の55.8%を占めていたことから、これらの品種を対象にBSの遺伝 的純化を行うことにより、効率的、かつ効果的に生産性および品質の向上を図

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ることが可能であると考えられた。各品種の概要は次のとおりである。

Theedatyinは短稈・早生品種で、乾期に南部デルタのポンプ灌漑地域で最も

栽培面積が大きい品種である。Manawthukhaの栽培面積はミャンマー最大で ある。1980年代に中央乾燥地帯の灌漑水田で普及し、1990年代に南部デルタ の天水田地域でも栽培面積を拡大した。Sinthukhaは、イネ白葉枯病抵抗性遺 伝子Xa21を持つIRBB-21およびManawthukha の交配品種である。MOALI

はManawthukhaの代替品種としてSinthukhaの普及を推進している。

Sinthwelattは長粒品種で、主に海外への輸出用に南部デルタで雨期に栽培さ

れている。KyawzeyaとShwewartunは、北部デルタで広く栽培されている。

Ayeyarminは長粒品種で、1980年代にエイヤーワディ地域のデルタ地帯に導

入され、1990年代にマンダレー、サガイン地域などの中央乾燥地帯の灌漑水 田に作付けが拡大した。Pawsanyinは香りのある短粒品種で、エイヤーワディ 地域のデルタ地帯で高品質米として広く栽培され、2000年代初期にサガイン 地域のシュウェボー県に導入された。Hnangarは在来品種でエイヤーワディ地 域南部の深水地帯で栽培されている。これらの品種は感光性のHnangarおよ び感光性の弱いPawsanyinを除いて、すべて非感光性品種と言われている。

材料および方法

1.供試品種

ミャンマーの主要水稲 9 品種を供試した (表 3-1)。DNA マーカー分析には

Sinthukhaの BS を供試した。BSの種籾サンプルは、FS 増殖用の BS から無

作為抽出した。

従来の穂系統法によるBS系統からの系統選抜と個体選抜

2011年、品種ごとに旧来の穂系統の中から圃場での観察により最も当該品種 の特性を備えていると思われる系統を10系統前後選抜し、さらにこれら系統内

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の個体のうち系統の特性を備え、加えて優秀性を示すと思われる(以下、代表的)

株を10株程度選抜して次年度のBS系統とした。各品種の系統数は次年度のFS 需要量により決定した。需要量が最も多いSinthukhaの場合、2011年に採種し た16系統×10個体/系統×4~22穂/個体=1,358穂を2012年苗床に穂播きし た。従来はこれら1,358系統をそれぞれ独立した系統として扱っていたが、2012 年から他の品種も同様に、前年の1個体に由来する複数の穂系統をグループと して扱うことにした。選抜はグループ毎に出穂の均一性、草姿の揃いなどに注目 して行い、さらにグループの中で当該品種の特性を備えていると思われる1系 統に絞り次年度の BS 増殖用系統とした。Sinthukha に関してはグループ間や グループ内の形質の差が大きいことから15系統を選抜した。

系統栽培法における系統選抜と個体選抜

前年に選抜した系統に由来する個体の苗を、当年の姉妹系統として移植した。系 統数は各品種の FS 需要量により決定した。 これら系統の選抜方法は、系統間 の差異や系統内の変異が最も把握しやすい出穂始めから穂揃い期に系統ごとに 出穂調査を行い、出穂期、草型、草丈の均一性等の生育特性の観察および異株の 有無を考慮して優良な数系統を選抜した。これらの系統からそれぞれ代表的な

20~30個体の稈長、穂長、穂数による固定度調査を行い変動係数(CV)が低い

値を示した系統を次年度のBS増殖系統とし、残りの系統はバルクにしてFS増 殖に使用した(図3-1)。

2.栽培方法

栽培はDAR-YezinのBS増殖圃場で行った。播種前にホーマイ水和剤(日本

曹達㈱製)による種子消毒の後催芽処理を行い3~4週間苗を移植した。栽植距 離は条間30.5cm、株間24.5cmで1株1本植えとし、1系統当り概ね1条70~

75株、6~8条植えとした。育苗管理、圃場での肥培管理は DAR-Yezinの慣行 法で行った。各年次の播種日と移植日は表3-2に示した。

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3.農業形質の調査方法

農業形質の調査は作物調査基準(日本作物学会九州支部会編, 2013)に準じて 行った。出穂は止葉の葉鞘から穂の先端が抽出した時とし、出穂始期(全茎数の

10~20%が出穂)、出穂期(全茎数の40~50%が出穂)および穂揃期(全茎数の

90%以上が出穂)を圃場の観察により判定した。稈長は株内の最長稈を地際から 穂首までの長さを、穂長は最長稈の穂首から穂先(芒は含まない)までの長さを、

穂数は遅れ穂を除く穂の数とし、それぞれ20個体測定してその平均値および標 準偏差値を計算した。ただし、2012年の農業形質の計測は系統間の農業形質の 差が著しいSinthukhaのみ29グループ各10個体ずつ行い、他の品種は圃場観 察のみで計測は行わなかった。

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