第 6 章 メタルール講習の実施と結果の分析
6.3 分析の方法
6.3.1
分析対象
講習会を構成するパートA、Bの前後には、学習目的「メタルールを理解すること」「医療
安全意識を高めること」の達成度を高めるために、アンケート・課題が設定されている。これ らが分析の対象である。種類とそれらの設定意図はとしては以下であり、これ以降は()内の 略記号を用いる。
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受講前アンケート(始レ): パートAの前。自らの医療安全知識を振り返り、講義に 向けて医療安全についての関心を高める。
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講義振り返りレポート(途レ):パートA・Bの間。メタルールについて学んだことを復 習させる。
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課題ア:パートB中。医療安全の信念・価値観の1つを吟味させる。※考えるのみで 提出なし。
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課題イ:パートB中。医療安全の信念・価値観のもう1つを吟味させる。※考えるの みで提出なし。
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課題ウ(課ウ):パートB中、信念・価値観の対立について自分なりに考えさせる。
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課題エ(課エ):パートB中、信念・価値観の対立について他者の意見を聞いた上で、
自分の考えをまとめさえる。
6.3.2
分析の観点
講習会の効果については、大きく2つの観点から分析を試みた。1つは、「メタルールは理解 されたか(ア)」と、もう1つは、「医療安全意識に変容が見られたか(イ)」である。さらに、医療 安全意識の変容を促進するために、本講習は、メタルールを学ぶことの意義として、それが 要請される背後にある医療安全対策についての信念・価値観の対立と解消があったこと、こ の事実を伝えることがメタルールを学ぶ意味・価値づけを促進することで、結果として医療安 全意識の向上に寄与すると考えている。そこで、「信念・価値観の葛藤を受講者が体験でき たのか(ウ)」、「葛藤の内容を適切に理解できているか(エ)」、「葛藤の体験が医療安全意 識の変容に影響をあたえたか(オ)」、「なぜ葛藤を体験させられているかその意図を理解し ているか(講習会の意図を一段上から捉えられているか)(カ)」、の観点から、分析することと した。
分析のために作成したシートを図
6-2に示す。学生のレポート・課題に対し、上述の観点 から、どのような状態にあるかを、質的に分析している。具体的には、以下の4つの軸を設け、
それぞれの分析軸の中で、どのカテゴリーに分類するかについて考察を行った(詳細につ いては、次節以降で説明する)。
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分析軸1「メタルール(ルールの真の意味を理解する)」:観点(ア)と対応
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分析軸2「医療安全についての意識変化」:観点(イ)と対応
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分析軸3「医療安全の考え方について葛藤を体験する」:観点(ウ)、
(ウ)を踏まえて(オ)
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分析軸4「葛藤を体験することの意図を理解する」:観点(カ)と対応。
観点(エ)はこの一部達成と位置づける。
この分類のための考察は、レポートに書かれた記述を証拠とした、質的な側面からの分析
(注1)である。人の意識の変容を厳密に捉えるには、観察することができる人の行動に着目 し、提案手法(本研究では講習会)の前後に行動の変化がみられるかを計量するなどが考 えられる。例えば、純粋に知識を伝えるような教育(数学や英語など一般的な学校教育)で の手法の効果測定であれば、対比群を設定して授業前後の成績変化の差異などから手法 の有効性を検証できる。しかし、医療安全意識のように極めて曖昧な対象についての効果 を測定するには、このような統制された事前、事後の比較は現実的でない。それでは、質的 な研究が、科学的な研究として成立するための要件が何かというと、それは解釈結果が研究 者(事例の解釈者)の主観であることが問題ではなく、その主観をいかに論理的に主張でき ているかにかかっている。つまり、解釈者の主観的な見解について、反証の可能性を確保 することが重要であると考えている。
(注1):ここでいう質的とは、いわゆる質的分析法に則った分析でではなく、統計に基づく 分析ではないという意味である。
図
6-2分析シートの構造図
6.3.3
分析軸1:メタルールの理解
アンケートの分析箇所:途中アンケート、最終アンケート、場合によりウ、エ
分類項目:適切に理解、一般化と誤解、その他の誤解、理解せず、不明
メタルールの理解の分析シートを図
6-3に示す。
図
6-3メタルールの理解の分析シート
それぞれの分類がどのような状態を意味するかを以下に示す。
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適切に理解とは、メタルールの内容と効果を言葉で表現できているという状態。
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一般化知識と誤解とは、安全ルールを作るための知識を区別していないという状態。
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その他の誤解とは、メタルールを中心にしていなく、安全ルールを守るための行動に 焦点を当たっているという状態。
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理解せずとは、講習会で教えたメタルールの表面上の意味しか捉えていない、講義 の内容から逸脱していたという状態。
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不明とは、講義で聞いたことを、そのまま書き写しているという状態。
6.3.4
分析軸2:医療安全意識への影響
アンケートの分析箇所:事前レポート、途中レポート、ウ、エ、最終レポート
分類項目:変化した、変化しなかった、の2つに大きく分類し、変化しなかったについて、
最初から意識していた可能性あり、していない可能性が高い、読み取れな いと分類した。
医療安全意識への影響の分析シートを図
6-4に示す。
図
6-4医療安全意識への影響の分析シート
それぞれの分類がどのような状態を意味するかを以下に示す。
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変化したとは、医療安全に対する講習会前後の意識変化を自ら比較できている、また は、今後どう行動するかを表明しているという状態。
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最初から意識していた可能性ありとは、講習前からメタルールに相当する知識の存在 を知っていたため、結果として講習会で安全意識が変わったといえないケース。
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読み取れないとは、メタルールの習得による今後の自らの行動について表していない、
または、一般化知識などと誤解していたまま、感想を書いているという状態
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していない可能性大とは、変化していないことを示す明確な証拠があるケース。医療 安全は人の問題ではなくシステムとするなどの記述がそれに相当。
6.3.5
分析軸3:葛藤を体験させられたか
アンケートの分析箇所:ウ、エ、最終レポート
分類項目:体験できた、体験できなかったの2つに大きく分類し、体験できたについて、
葛藤した、葛藤がメタルールの理解に影響している。体験できなかったにつ いては、K さんに共感、J さんに共感、解決策に焦点、ケースを転記したのみ、
と分類した。
葛藤を体験する分析シートを図
6-5に示す。
図
6-5葛藤体験の分析シート
それぞれの分類がどのような状態を意味するかを以下に示す。
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葛藤したとは、K さんと
Jさんの対策を自分の言葉で評価して、選択することが難しい こと表明している。または、
Kさんと
Jさんそれぞれの意見を分析していたうえで、両方 とも大切だという意見を表しているという状態。
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葛藤が安全意識に影響しているとは、
Kさんと
Jさんそれぞれの意見について葛藤す ることに通じて、メタルールの理解、安全意識に影響が確認できるケース
l K
さんに共感とは、
Jさんの意見を判断しない、あるいはそれぞれの意見をまとめたう えで、K さんの意見に偏っているという状態。
l J
さんに共感とは、K さんの意見を判断しない、あるいはそれぞれの意見をまとめたう えで、J さんの意見に偏っているという状態。
l
解決策に焦点とは、K さんと
Jさんの対策のほかに、個人の意見を書いているという状 態。
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内容(対策案)を整理したのみとは、記述したことがほとんど教材の中身から引用して いる内容という状態。
6.3.6
分析軸4:葛藤の意図が認識されたか
アンケートの分析箇所:ウ、エ、最終レポート
分 類 項 目 : 葛藤の一般的な理解、葛藤を体験することの意義の理解、理解していな い、と分類した。
葛藤意図の認識の分析シートを図
6-6に示す。
図
6-6葛藤意図の認識の分析シート
それぞれの分類がどのような状態を意味するかを以下に示す。
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葛藤の一般的な理解とは、現実問題背後の思考方法の良さを意識しているという状 態。
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葛藤を体験することの意義(メタルールの理解深化を意図していることを理解)の理解 とは、問題の背後にある価値観と葛藤を無自覚的に体験できているだけでなく、その 意義を自覚できている状態。
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理解していないとは、問題解決の方法ではなく、現実的な対策に対する感想に焦点
を当たっているという状態。
ドキュメント内
JAIST Repository: 医療安全意識を涵養する教育プログラムの構成
(ページ 65-71)