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X- band EPR(電子スピン共鳴)

4.3. 結果と考察

BIPNNBNO の分子内磁気相互作用の見積もり

分子内に 3つのラジカル基を持つBIPNNBNOにおける分子内磁気相互作用の見積もり は、分子非磁性であるポリビニレンクロライドに分子を分散させた系で静磁化率の温度依 存性の測定を行った。BIPNNBNO分子の濃度が105 mol/g(PVC)程度以下の希薄固体では、

分子間の相互作用を無視でき、分子内での磁気相互作用を見積もることができる。SQUID 磁束計を用いてPVCマトリクス中に分子を分散させたBIPNNBNO孤立分子の磁気測定を 行った。静磁化率と温度の積(pT)の温度依存性を孤立3スピンモデルで解析した結果、そ の分子内磁気相互作用は、強磁性相互作用2JF/kB = 860 K, 反強磁性相互作用2JAF/kB = 26 K と見積もった。BNOユニット内には強い強磁性結合が働き、BNO ユニットとNNラジ カル間には26 Kと弱い反強磁性相互作用が働くと考えられる。これらの結果から、分子 内強磁性相互作用が分子内反強磁性相互作用に比べ、約30倍程度強いことからもBNOユ ニット内ではS = 1を形成している。よってBNOユニットとNNラジカル間にはS = 1S

= 1/2の反強磁性ダイマーを形成していると考えることができる(Fig. 89)。

Fig. 88. 静磁化率と温度の積の温度依存性

●: BIPNNBNO孤立分子による実測値、: 孤立3スピン モデル

Fig. 89. BIPNNBNO の分子内相互作用

S=1/2

S = 1 S=1/2

S=1/2 S=1/2 JF

JAF

JAF JAF1

N N

O O

N

ON O

BIPNNBNO

JF JAF JAF

JF>>JAF

2JF/kB = 860 K 2JAF/kB = -26 K BNOユニット

NNラジカル

BIPNNBNO の結晶構造

BIPNNBNOをEt2O, CH2Cl2/Hexaneの濃厚溶液から単結晶を得た。結晶構造解析の結果 から、晶系Orthorhombic、空間群Pbcn、格子定数a = 9.0126(7) Å, b = 17.578(1) Å, c = 33.924(3) Å, V = 5374.3(6) Å3, Z = 8が得られた。その結晶学的パラメータをTable 22にまとめる。

Table 22. BIPNNBNO の結晶パラメータ

Formula C27H37N4O4

M. W. 481.61

Crystal system Orthorhombic

Space Group Pbcn

a, Å 9.0126(7)

b, Å 17.578(1)

c, Å 33.924(3)

, ° 90

, ° 90

, ° 90

V, Å3 5374.3(6)

Z 8

BIPNNBNO分子はFig. 90に示すような分子構造をとっている。赤で示すのがNOラジ カル基、緑で示すのがニトロニルニトロキシドラジカル基である。BIPNNBNOの結晶構造 内では、分子内の二枚のフェニル基間に 44.04°のねじれがみられた。単位格子はFig. 91 のようになり、そのbc面投影図からも見て取れるようにc軸方向が分子長軸方向であり、

そこにはラジカル間接近は見られない。

Fig. 90. BIPNNBNO 分子

Fig. 91. BIPNNBNO の単位格子(bc 面投影図)

N N

O O

N N

O O

BIPNNBNOの結晶構造内におけるラジカル間接触を示す。まず、b軸方向に分子は整列 し、BNOユニット(S = 1)とNNラジカル(S = 1/2)との間にO···O 3.951 Åの接近がみられた。

通常、分子間ラジカル接近は弱い反強磁性相互作用をもたらすことが明かされており[3]、 このb軸方向に伸びるラジカル間接触は、それらを考慮するとフェリ磁性鎖を形成してい ると示唆される。(Fig. 92)

Fig. 92. b 軸方向に伸びるフェリ磁性鎖

Fig. 93. 結晶構造(ac 面投影図) c/2

o a

b

a軸方向にはBIPNNBNO分子のねじれの存在に起因する2種類の分子間接近[4]が観測さ れた(Fig. 93)。1つはNNラジカル基(S = 1/2)同士の間に接近(O···N 4.416 Å)がみられ、a軸 方向に最近接鎖を形成していた。もう 1つは BNO ユニット(S = 1)同士の間に接近(O···O

4.660 Å)がみられ、次近接鎖を形成していた。結晶構造からみられる分子間接近は3種類

存在し、結晶構造からab面内における二次元ネットワークを形成していると考えられる。

磁性モデルについて

結晶構造から考えられるスピンネットワークを模式的に表す。まず、BIPNNBNO分子を 模式的に描き、黒丸がS = 1ユニット、白丸がS = 1/2を担うNN部位として近似する。白 丸と黒丸を結ぶ黒の実線を分子内磁気相互作用Jとする。分子間磁気相互作用は結晶構造 内で観測された3種類のラジカル間接近とし、S = 1ユニット同士のラジカル間接近による 磁気相互作用を破線で表しこれを J1、NN ラジカル同士の接近による磁気相互作用を点線 で表しこれをJ2、b軸方向に伸びるフェリ磁性鎖内ラジカル接近をJ3とする。赤の矢印を

S = 1、緑の矢印をS = 1/2として配置し、またすべての磁気相互作用を反強磁性相互作用と

考える。全てのスピン配列を考慮したときスピン配向に矛盾を生じ、Fig. 94で表わされる ような2次元スピンフラストレーションが誘起される可能性が結晶構造におけるラジカル 間接近によって示唆された。

Fig. 94. 磁気相互作用の模式図

J: 分子内磁気相互作用、J1: 次近接相互作用 J2: 最近接相互作用、J3: フェリ磁性相互作用

b a

? ? ?

Frustration

J

1

J

2

J

3

J

J, J

1

, J

2

, J

3

0

ここで結晶内における3種類の分子間磁気相互作用のうち、1 つの磁気相互作用が弱い 場合の磁性モデルを考えることにする。一般にNOラジカル基同士の接近はNNラジカル による接近より、大きな磁気相互作用がもたらされることが知られている。これを考慮す ると2種類のモデルが考えられる。1つはJ1, J3J2に比べて相互作用が遥かに強いとき J2、つまり最近接相互作用を無視でき、モデル1(Fig. 95)で描かれるような正方格子として 表すことができる。もう一方はJ1, J2J3に比べて相互作用が遥かに強いとき、フェリ磁 性鎖内磁気相互作用J3を無視でき、モデル2のように表すことができ、この場合スピンフ ラストレーションが誘起される(Fig. 96)。

①J1, J3J2のとき

Fig. 95. 磁性モデル 1

②J

1

, J

2

J

3

Fig. 96. 磁性モデル 2

b a

? ? ?

Frustration J1

J2

J3

J, J1, J2, J30

J1, J2J3 J1

J J2

J

?

?

? J1

J J2

JJ1, J2 S = 1 S = 1/2

S = 1/2

J1, J3J2

b a

? ? ?

Frustration J1

J2

J3

J, J1, J2, J30

J1 J3 J

結晶構造から考えられる2種類の磁性モデルについて、両者のうちどちらのモデルが妥 当であるか検証するため、BIPNNBNOにおける磁気測定を行い、詳細に検討することにし た。

BIPNNBNO の静磁場中での磁化測定

静磁化率はQuantum Design社MPMS SQUID磁束計を用いて行った。まず、BIPNNBNO の結晶とPVCマトリクス中に分子を分散させた孤立分子によるpT値の温度依存性をFig.

97に示す。赤丸で示すのがBIPNNBNOの結晶による測定、青の実線が孤立分子による曲 線である。両者を比較すると、温度低下に伴い40 K以下で結晶と孤立分子に差が生じた。

この結果から結晶によるpT 値の温度依存性には分子間磁気相互作用が存在していること が示された。これをキュリーワイス則で解析した結果、高温側(100 K)ではキュリー定数C

= 1.356 emu K mol1、ワイス温度 = 11.65 Kとなり、反強磁性相互作用が働いていると見 積もった。次にBIPNNBNO結晶の静磁化率の温度依存性をFig. 98に示す。赤丸で示した

ものがBIPNNBNO結晶による静磁化率測定、緑の点線がPVCマトリクス中に分子を分散

させた孤立分子での結果を表わす。40 K以上ではBIPNNBNO結晶とPVCフィルムにおけ る磁化率は一致する。40 K以下では温度低下に伴い両者に差が生じ、分子間磁気相互作用 が低温で支配的になることがこの結果からも分かる。静磁化率の温度依存性から、20 K付 近にはなだらかなピークを示す。また、4.5 K付近には鋭いピークを示し、この2つのピー クの存在から、少なくとも2種類の反強磁性相互作用の存在が示唆される。その後、磁化 率は急激にゼロに向って減少するため、基底状態は非磁性である。

0.4 K における磁化の磁場依存性を Fig. 99 に示す。測定磁場範囲は 040 T であり、

BIPNNBNO結晶における無配向試料を用いて行った。まず、4.5 T以下では磁場中で磁化

がゼロであり、基底状態は非磁性であった。その後4.5 T以上で磁化を生じ、この系はス ピンギャップを有していた。6 Tで飽和磁化の1/3の値である1Bに達した。その後、23 T まで一定値をとり、この観測された1/3磁化プラトーはb軸方向へと伸びるBIPNNBNOの フェリ磁性配列に対応するものと考えられる。23 T以上で磁化は再び増加し、29 Tで飽和 磁化3Bに達した。Fig. 99内に示される青の点線は微分曲線を表し、その微分曲線から26 T付近に幅の狭い2/3磁化プラトーの存在が示唆された。この非自明な2/3磁化プラトーの 存在はスピンフラストレーションが誘起される可能性があることを示唆している[5]

Fig. 98. BIPNNBNO における静磁化率の温度依存性

●: BIPNNBNO実測値、···: PVCマトリクス中に分子を分散させた

15K 4.3K

Fig. 97. BIPNNBNO の

p

T の温度依存性

●: BIPNNBNO結晶の実測値、: BIPNNBNO孤立分子

挿入図: キュリーワイスプロット(●: 実測値、: キュリーワイス則)

Fig. 99. 0.4 K における磁化過程

: BIPNNBNOの実測値、---: 微分曲線

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