第 5 章 業務の中で文書を 1 人で読む場合:複数の文書を相互に参照する読み
5.4 実験 2-3:文書の配置効率の比較
5.4.2 結果と考察
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表5-4. 文書配置課題での作業条件の整理
さらに,配置する文書の数をパラメータとして制御した.文書数として,1,2,4の 3 水準を設定した.
手続き 最初に練習を 10 分間行った.練習では,特に普段行うことのない,片手で の紙の操作,触る領域を制限した場合の紙の操作に慣れてもらうことを重視した.
作業条件が5水準,文書数が3水準であり,条件は全体で15ある.各参加者が各条 件で3回ずつを試行し,全体で45回の文書配置を行った.作業条件と文書数の組み合 わせ,またこれらが各参加者内で何回目に行われるかについては,振り分けが全体で均 等になるように計画的に配置し,作業条件と文書数の試行順の影響が実験全体で相殺さ れるよう配慮した.
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図5-12 配置課題での作業時間
(グラフの視認性の低下を避けるため,このグラフのみ有意差を記載していないが,
作業条件と文書数のいずれにおいても有意差が認められた)
作業条件 (Free,Single,Area,Single & Area,PC),文書数 (1 つ,2 つ,4 つ) の 要因に関して2 要因分散分析を行った.その結果,作業条件,文書数のいずれにおいて も主効果が認められた [それぞれ,F(4, 92)= 41.6, p<.001; F(2, 46)= 457.7, p<.001].2 要因 の交互作用も有意であったため [F(8, 184)=29.9, p<.001],文書数ごとに作業条件の要因 の単純主効果を検討した.単純主効果はいずれも有意であり [文書数1,2,3の各々に ついて,F(4, 92)=32.6, p<.001; F(4, 92)=15.0, p<.001; F(4, 92)=38.1, p<.001],LSD 法によ る下位検定の結果,以下の順に作業時間が短いことがわかった [いずれも p<.05].
文書数 1 の場合
Free ≒ Single < Area ≒ Single & Area < PC
文書数2の場合
Free < Single ≒ Area < Single & Area ≒ PC
文書数4の場合
Free < Single ≒ PC < Area < Single & Area 0.0
5.0 10.0 15.0 20.0 25.0
Free Single-hand Area-restricted Single-hand &
Area-restricted
PC 時
間( 秒)
文書数1 文書数2 文書数4
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さらに,作業条件ごとに文書数の要因の単純主効果を検討した.全てに主効果が認め られ [Free, Single, Area, Single & Area, PC の各々について,F(2, 46)=308.7; F(2, 46)=261.0; F(2, 46)=258.9; F(2, 46)=213.7; F(2, 46)=289.0 であり,いずれも p<.001],LSD 法による下位検定の結果,全作業条件において,文書数 1,文書数 2,文書数4の順番 で作業時間が短いことがわかった [いずれも p<.001].
配置課題における各条件での作業時間の結果から,以下のことがわかる.第 1 に,
PCに比べて紙での作業時間が短い.Free条件とPC条件の比較において,1,2,4のい ずれの文書数の場合においても,Free条件はPC条件よりも速くなっている.Free条 件はPC条件に比べて,文書数1の場合は62.9%,文書数2の場合は40.6%,文書数4
の場合は23.3%作業時間が短い.PCに比べて紙での文書配置効率が高いという第1の
仮説が支持された.
第2に,複数枚の文書を配置する必要がある状況では,紙に対する操作可能な手を利 き手のみに制限すると,制限しない場合に比べて作業時間が長くなる.文書数1の場合 において,Free条件とSingle条件の間,さらにはArea条件とSingle & Area条件の間 に有意差がない.一方,それ以外においては全て,Free条件よりもSingle条件の方が作 業時間が長く, Area条件よりもSingle & Area条件の方が作業時間が長くなっている.
これらの条件の違いは,両手を使って複数の文書に対して同時に操作できるか否かであ り,これが作業時間の違いをもたらしている.両手を使って複数の文書を同時に移動可 能なことが紙での文書配置効率に寄与しているという第2の仮説が支持された.
第3に,紙文書に対する接触領域を限定すると,限定しない場合に比べて作業時間が 長くなる.Free条件よりもArea条件の方が作業時間が長く,Single条件よりもSingle
& Area条件の方が作業時間が長くなっている.これらの条件の違いは,操作位置が限
定されているか否かである.文書の接触位置の自由度が高いことが,紙での文書配置効 率に寄与しているという第3の仮説が支持された.
第4に,操作可能な手を利き手に制限し,さらに接触領域を限定しても,PCに比べ て紙で文書を1枚配置する時間が短い.PCでのウィンドウの移動操作はマウスを使っ た片手での操作であり,これは紙でのSingle & Area条件での操作に対応する.文書数 が1の場合,Single & Area 条件は PC 条件に比べて 20.1%作業時間が短い.これは 文書を手で直接移動する方が,マウスを介して間接的に移動するよりも高速であること を示している.マウスを介した間接的な文書移動より手による直接的な文書移動が速い
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という第4の仮説が支持された.実験2-2では1回あたりの文書移動時間はPCに比べ て紙が短いことが示されたが,その理由が紙では手で直接的に文書を移動できるためで あることが示唆された.
最後に,PC条件とSingle & Area条件の処理時間の関係においては一貫した結果が 得られていない.具体的には,文書数1ではSingle & Area条件の方がPC条件よりも 作業時間が短く,文書数2では両者は同程度であり, 文書数4では逆にSingle & Area 条件の方がPC条件よりも作業時間が長くなっている.この理由について以下のように 推察する.
文書数が2以上の場合,文書に重なりが生じることがある.紙の条件で重なっている 下の文書を移動する際, 以下で示すような厄介な問題が生じることがある (これを「重 なり除去問題」と呼ぶことにする).すなわち,片手での操作の場合 (Single 条件),重 なっている下の文書を移動すると,意図せずに上の文書も一緒に移動してしまうことが ある.この場合,既に配置を終えたはずの文書の位置を再び調整しなくてはならない.
また,操作位置が限定されている場合 (Area 条件),下の文書の操作位置が上の文書に 隠れてしまって見えないことがある.この場合,一旦,上の文書を移動して,下の文書 の操作位置を見えるようにしてから移動操作を行う必要がある. これに対して PC で ウィンドウを移動する際には,常に単一のウィンドウのみが移動対象であり,それに応 じて他のウィンドウまでが移動してしまうことはない.また,操作対象のウィンドウが 別のウィンドウに隠れている場合でも,下のウィンドウの任意のエリアあるいはタスク バーでアイコンのクリックにより,操作対象のウィンドウを簡単に前面化することがで きる.
重なり除去問題が頻繁に生じる文書数4の場合に,Single & Area条件における配置 は PC 条件よりも遅い.逆に,先に述べたように重なり除去問題が全く生じない文書 数1 の場合には,Single & Area 条件はPC条件よりも高速である.文書数2の場合に も重なり除去問題が生じるが,その頻度は文書数4の場合ほどではなく,Single & Area 条件と PC条件の作業時間は同程度である.重なり除去問題が生じない限りにおいて,
Single & Area条件においても紙に対する操作はPCでの操作よりも高速だと考えられ
る.