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第1章  年長自閉性障害児の表情理解・表出に関する研究(研究1)

第3節  結果

み、中性は正答しているが怒りのみを誤答した場合を"怒り単独エラー"と 名付け、群別に算出した。これを示したのが、 Table卜1‑2 (79頁)である。

Table卜1‑2より明らかなように、全体群での比較では怒り単独エラーは自閉 症児群に有意に多く(%2(1)=7.55,pく.01)、さらに3つの誤反応パターンの中 で怒りを喜びに分類するエラーのみに有意差が認められ(%2(1)‑4.51,pく.05)、

自閉症児群により多くこのエラーが生起していた。

2.テスト2

1)群、表情、条件別の正答率を角変換後、分散分析を行ったところ、

命名、選択共に群(各々、 %z(1)‑7.34;43.4,ともにpく.01)及び条件(各々、

%¥2)‑7.68, pく.05 %2(2)‑16.48, pく.01)の主効果が有意であり、自閉症児 群の方がダウン症児群よりも成績が低かった。

2)自閉症児群では、命名の写真、イラスト条件及び選択のイラスト条 件で悲しみの正答率が喜び、怒りの正答率よりも有意に高かったが、選択の 写真条件では各表情の正答率に有意差が見られず(喜び、悲しみ、怒り各々 82%、 91%、 82%)、写真条件では各表情の言語指示による選択がほぼ可能で あることが示された。一方、線画条件での悲しみの正答率は命名、選択共に 写真、イラスト条件での正答率よりも有意に低く、また、これは高MA群にも 共通して見られたが(Fig.トト5、 76頁)、ダウン症児群ではこのような結果 は認められなかった。

3.テスト3

1)群、表情、条件別の平均表出得点を示したものが、 Fig. 1‑卜6 (77 頁)である。分散分析の結果、群(F(1,21)‑10.81,pく.01)、表情 (F(,42)‑13.16,pく.01)、条件(F(,42)‑7.83,pく.01)の主効果及び群×条件 (F(2.42)‑3‑25>Pく.05)、表情×条件(F(4,84)‑3.02,pく.05)の交互作用が有意で

あり、また、 2次の交互作用の効果に傾向が認められた(F(4,84)‑2.04,pく.10)。

下位検定の結果、 ①写真、言語条件では自閉症児群の方が有意に成績が低く (各々、 (1,63)‑16.80, pく01 ;F(i,63)‑5‑85> pく.05)、写真条件での群差が最も 大きい。 ②自閉症児群では言語条件のみで表情差が有意であり、 "笑う"が"泣

く"、 "怒る"よりも成績が高い。また、 "笑う"のみで条件差が有意であり、

写真条件での成績が他条件よりも低い。 ③ダウン症児群では表情差のみが有 意であり、 "泣く"、 "怒る"、 "笑う"の順に成績が高くなっていた。

2)写真条件だけで表情表出が不可能な一群が自閉症児群のみに6名認 められた。彼らは全員マッチング群に属しており、マッチング群内でこの6 名と残り5名の比較を行うと、テスト1の総得点及び写真条件得点において 前者の方が低い傾向が認められ(各々、 t(9)‑l.66;1.54,ともにpく.10)、ま た、テスト3の言語条件、写真+言語条件の合計得点でも前者が有意に低か ったが(t(64)‑l.71,pく.05)、 MA、言語能力等その他の特性の差は有意ではなか った。一方、ダウン症児群で写真条件での表出が不可能な対象児4名は他条 件での表出もできなかった。彼らはマッチング群よりもMAが低い群に属して おり、 MAは3歳8カ月以下でテスト1の総得点も16以下と低かった。

4.因子分析

Table卜1‑3 (80頁)、 Table 1‑1‑4 (81頁)にそれぞれ自閉症児群とダウ ン症児群の因子分析結果であるバリマックス回転後の因子負荷量を示す。因 子負荷量0.5以上は*、0.7以上は**で示している。因子数は自閉症児群、

ダウン症児群とも5と推定された。因子の解釈も含めた主な結果は以下の通 りである。

1)ダウン症児群では第I、 Ⅲ、 Ⅴ因子で各テストの負荷が高い(Table トト4)。第I因子はテスト1総得点、同喜び、怒り、写真条件、イラスト条 件、テスト2選択得点、 cA、 MA、第Ⅲ因子はテスト2命名・選択、テスト3

得点、 MA、言語表出能力、言語理解能力、第Ⅴ因子はテスト1総得点、同悲 しみ、怒り、線画条件得点の負荷が高く、それぞれ一般的な適応能力、言語 能力、抽象能力の因子と解釈できるであろう。一方、自閉症児群では第I、

Ⅱ、 Ⅳ因子で各テストの負荷が高く(Table 1‑1‑3)、第I因子はテスト1総 得点、同悲しみ、イラスト条件、線画条件、テスト2命名・選択得点、表情 の豊かさ、第Ⅱ因子はテスト1喜び、写真条件、テスト2命名、テスト3得 点、言語表出能力、言語理解能力、 SA、第Ⅳ因子はテスト1総得点、同怒り、

写真条件、イラスト条件得点、対人関係、自閉症的行動特徴の負荷が高い。

この結果より第I因子は抽象能力、第Ⅱ因子は言語能力も含めた一般的な適 応能力の因子と解釈され、第Ⅱ因子がダウン症児群の第I、 Ⅲ因子に対応し

ていると考えられる。

2)ダウン症児群では各テストの成績とMAはよく対応しているが、自閉 症児群ではMAよりもSAが第Ⅱ因子での負荷が高く、表情理解・表出能力と SAとの対応関係が示された。

3)自閉症児群の第Ⅳ因子はダウン症児群には見られない特徴的な因子 であり、自閉症的行動特徴と他の変量とは負荷の方向が逆になっている。こ の第Ⅳ因子の因子得点がプラスの対象児群はマイナスの対象児群よりも写真、

イラスト条件における怒りの理解成績が低く、さらに誤反応パターンの中で は怒りを喜びに分類するエラーのみが有意に多いことが明らかになった(す べてpく.05, Uテスト)。これはテスト1の結果4)と関連するものであり、

"怒り‑喜び"というェラーは自閉症児群の中でも自閉症的行動特徴をより 示す群に多く、また彼らはイラスト条件でもこのエラーを一貫して起こして

いることが示された。

4) wISCのVIQは表情理解・表出の全変量と有意な正の相関を示したが (r=0.52‑0.90,すべて pく.05)、 PIQ は有意な相関を全く示さなかった (r=‑0.03‑0.37,すべてp>.05)。