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第1章  年長自閉性障害児の表情理解・表出に関する研究(研究1)

第2節  方法

1.対象

自閉症児群はDSM‑mの診断基準に該当する年長自閉症児計22名(男子17 名女子5名)である。年齢範囲は12歳から18歳で、中学校特殊学級に14名、

養護学校高等部に6名、養護学校中等部及び普通中学校に各1名が在籍して いる。一方、対照群は年齢をマッチしたダウン症児計20名(男子14名女子6 名)で年齢は11歳から18歳までであり、養護学校小、中、高等部にそれぞ れ3名、 12名、 5名が在籍している。両群の堆定MA (WISCまたはビネ一式検 査による)に差が見られるので、 MA分布が4歳2カ月〜6歳8カ月の自閉症 児11名、ダウン症児12名でCA、 MAをマッチさせた群を構成し、この群をマ

ッチング群、全対象児の群を全体群と命名し各テストでの比較はマッチング 群を中心に行ったが、必要に応じて全体群その他の比較も行った。Table卜1‑1

(78頁)に両群の人数、 cA及び推定MAの平均、 sD、 rangeを示す。なお、自 閉症児群については、マッチング群以外のMAが高い残りの群(以下高MA群

と略)もTableトト1に付記している。

2.刺激材料

表情刺激は、喜び、悲しみ、怒り、中性の4感情を表出した写真、イラス ト、線画の3条件より構成されている。表情写真(白黒)のモデルは大学生7 名(男子2名女子5名)ですべて自作であるが、イラスト及び線画は川岸・

石井・小田・今野(1984)、針塚(1977)、 WaldenandField (1982)、今井(1978) 等を参考にして作成し、条件ごとに同一人物(ただし線画は任意の組合わせ) の表情刺激1組を目標刺激(Fig.ト1‑1、 70‑72頁)、 1組を練習用刺激、残

りの組を分類刺激として使用した。喜び、悲しみ、怒りの3種の表情刺激に 対する大学生の評定一致率平均値は、写真条件(評定者数24名)が各々99%、

81%、 74%、イラスト条件(同48名)が81%、 61%、 86%、線画条件(同 18名)が78%、 87%、 90%であり、写真条件では悲しみと怒りの一致率が喜 びの一致率よりも低く(pく.01, Uテスト)、イラスト条件では悲しみの一致率 が喜び、怒りよりも低かったが(pく05,同)、線画条件では有意差は認めら れなかった。

これらの表情刺激は顔面部の大きさが約7×7cmであり、 9×13cmの透明な 硬質ビニール製ケースに一枚ずつ入れて使用された。

3.手続き

各対象児に以下の3種のテストを続けて実施した。所要時間は30分から40 分程度であった。

1)テスト1 :非言語的方法(マッチング)を用いることにより、表情 理解能力を検討した。課題は写真、イラスト、線画条件の順序で行われ、一 枚ずつ渡される分類刺激を目標刺激がその底面に固定された4つの箱のどれ かに入れていくというものである。箱は約250 傾斜して固定されたトレイの 中に上下2個ずつ置かれている。先ず、喜び、悲しみ、怒り、中性の順にモ デル1名分の練習を行った。喜びの練習用刺激を渡して"仲間の顔のところ において下さい"と教示し、必要に応じて目標刺激を特定しないよう留意し つつ、身振り(指差し)による教示も行った。正答の場合には喜びの練習用 刺激を取り除き、次の悲しみの練習用刺激を渡す。誤反応は修正し、誤反応 が出た場合には再度練習試行を反復した。3回の練習試行後にも誤反応が生じ る場合には目標刺激と同一の刺激で試行し、視覚的弁別能力をチェックした 後、練習試行を再度実施した。本試行はモデル1名分を1ブロックとし、 1 ブロック終了毎に目標刺激を反時計方向に順次移動して位置偏好を相殺した。

ブロック内及び各ブロックの提示順序はランダムである。写真条件20試行(4 表情×5ブロック)終了後、目標刺激を入れ替え、練習試行以下同様の手続き

でイラスト条件、線画条件を実施した。イラスト、線画条件は分類刺激には 中性がなく、またブロック数も4で各12試行ずつであり、 3条件で合計44 試行が実施された。

2)テスト2 :表情刺激について言語化させる命名法及び言語指示によ り選択させる選択法によって表情理解能力を検討した。計12個の目標刺激(4 表情×3条件)を用い、命名、選択の順序で各々写真、イラスト、線画条件の 順に実施した。条件ごとに目標刺激を横一列に並べ、命名はランダムに"こ の顔はどんな顔ですか"と尋ね反応を記録した。選択では"笑って(泣いて、

怒って)いる顔はどれですか"と同様にランダムに質問した。

3)テスト3 :中性を除く 3感情に関し、 Field and Walden (1982)を 参考に以下の各条件を設定して表情の意図的な表出能力について検討した。

①写真条件‑ "こんな顔をして下さい"と教示しながら表情写真を提示し模 倣させる。表情写真は対象児と同性のものを使用した。

②言語条件‑ "笑った(泣いた、怒った)顔をして下さい"と言語のみで指 示する。

③写真+言語条件‑条件②の言語指示を与えながら表情写真を提示する。

テストもこの順序で行われ、各条件内での表情はランダムに配置された。

表出された表情は指導者(筆者)が即時に5段階で評定した。段階1は表出 しようとする様子が全く見られない場合、段階2は要求した表情と異なる表 情をした場合、段階3は一応の表出が可能、段階4は巧みな表出が可能、段 階5は非常に巧みな表出が可能という基準であった。

4.分析の方法

1)各テスト:テスト1では分類刺激と目標刺激の感情カテゴリーが一 致した場合、一致しない場合を各々1、 0点として得点化した。また、誤反応 パターンの分析も行った。テスト2では命名、選択ともに群、表情、条件馴

の正答率を算出した。テスト3では5段階の評定値に各々1‑5点の得点を対 応させた。なお、分散分析は加藤(未発表)のプログラムを使用し、平均値 の対比較にはTukey法を用いたが、その有意水準はすべて5%である。

2)因子分析:自閉症児群22名、ダウン症児群20名の各全体群別に主 因子法による因子分析を行った。使用したプログラムは渡・岸(1981)によ る。各テストの成績、 cA、 MA、社会生活年齢(SA;S‑M社会生活能力検査によ る)以外の変量とその詳細は下記の通りである。担任の教師及び年長自閉症 児を対象とした月 2回の学習訓練に参加している対象児については、その担

当者にSA以下の評定を依頼した。

*対人関係.・・自閉児用コミュニケーション行動評価表(CLCBAC ;堤, 1980) の"対人接触要求"項目を使用。 5段階尺度。

*自閉症的行動特徴(自閉症児群のみ)一言語(即時・遅延反響語、ステレ オタイプな語句、独言・独語)、行動(接触の困難さ、他人を無視する、目 が合いにくい、強迫的こだわり)、運動(常同運動、奇妙な姿勢・運動パタ ーン)の各領域で現在認められる項目数の合計。

*周囲に対する敏感さ(ダウン症児群のみ) ‑周囲の人の態度に対して、全 く敏感でない‑とても敏感、の5段階尺度。

*日常の表情理解‑評定者の感情が対象児に、表情では全く伝わらない‑十 分に伝わる、の5段階尺度。肯定的感情と否定的感情の平均値。

*日常の表情表出‑対象児の感情が、表情に全く表れない‑とてもよく表れ る、の5段階尺度。肯定的感情と否定的感情の平均値。

*表情の豊かさ‑日常生活全般を通じての表情の豊かさ。無表情一非常に豊 か、の7段階尺度。

*言語表出能力‑上記CLCBACの"文法的出力"項目を使用。 5段階尺度。

*言語理解能力・=同"文法的入力"項目を使用。 5段階尺度。