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第 4 章 中国の大学における日本語学習者の情意要因の実態

4.3.3 結果

4.3.3.1 心理的欲求 (1) 性差

日本語学習における心理的欲求尺度の全項目内容については表 4-10 に示す。

性差を 図 4-7 に示す。独立したサンプルのt検定の結果は、すべての項目において有 意差がないことがわかった。つまり、男女の心理的欲求について、大差がなかった。

図 4-7 から見ると、男女とも数値が低い項目は C1「日本語の授業で勉強することは、す べて教師が決めている」、C5「日本語の授業での自分の頑張りに満足している」、C12「授業 でのグループ活動には、協力的に取り組めていると思う」である。

男女とも数値が高い項目は C4「日本語の授業でどんなことを勉強したいか、述べる機会

C1 C2 C3 C4 C5 C6 C7 C8 C9 C10 C11 C12

1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5

女性 男性

2.5 3.0 3.5 4.0 4.5

女性 男性

図 4-7 心理的欲求尺度の性差

01. 日本語の授業で勉強することは、すべて教師が決めている。(反転項目)

02. 日本語の授業の課題内容には、選択の自由が与えられている。

03. 教師は日本語の授業の進め方などを相談してくれる。

04. 日本語の授業でどんなことを勉強したいか、述べる機会がある。

05. 日本語の授業での自分の頑張りに満足している。

06. 日本語の授業では、よい成績が取れると思う。

07. 日本語はできないと思うことがよくある。

08. 日本語の勉強はやれば出来ると感じている。

09. 日本語の授業を一緒に受けている友達とは、仲がよいと思う。

10. 日本語の授業では、友達と協力して勉強できていると思う。

11. 日本語の授業では、友達同士で学びあう雰囲気があると思う。

12. 授業でのグループ活動には、協力的に取り組めていると思う。

表 4-10 日本語学習における心理的欲求尺度の全項目内容

68

がある」、C9「日本語の授業を一緒に受けている友達とは、仲がよいと思う」である。

(2) 学年差

各学年の差は図 4-8 に示す。

全体的に見ると、心理的欲求の平均数値は 4 年生<2 年生<3 年生であるが、数値はほぼ同 じの項目が C2「日本語の授業の課題内容には、選択の自由が与えられている」、C4「日本語 の授業でどんなことを勉強したいか、述べる機会がある」、C7「日本語はできないと思うこ とがよくある」である。3 つの学年とも数値が低い項目は C1「日本語の授業で勉強するこ とは、すべて教師が決めている」であり、3 つの学年とも数値が高い項目は男女差の結果と 同様、C4、C9 である。

(3) 信頼性の検討と下位尺度間の関連

心理的欲求尺度の信頼性については、α係数を算出し、尺度の内的整合性によって検討 した。心理的欲求尺度のα係数は.64 であった。心理的欲求尺度は自律性の欲求、有能性の 欲求、関係性の欲求という 3 つの下位尺度に分かれている(廣森 2006)。筆者は 3 つの下位 尺度に相当する項目の平均値を算出し、<自律性>下位得点(平均 3.45、標準偏差 0.50)、<

有能性>下位得点(平均 3.32、標準偏差 0.52)、<関係性>(平均 3.47、標準偏差 0.71)と して、内的整合性を検討するために各下位尺度のα係数を算出したところ、<自律性>でα

=.72、<有能性>でα=.75、<関係性>でα=.67 と十分な値が得られた。各下位尺度間相関 を表 4-11 に示す。3 つの下位尺度はお互いに有意な正の相関を示した。

C1 C2 C3 C4 C5 C6 C7 C8 C9 C10 C11 C12

2.5 3.0 3.5 4.0 4.5

4年 3年 2年

図 4-8 各学年心理的欲求尺度の平均得点

69 4.3.3.2 動機づけ

(1) 性差

日本語学習における動機づけ尺度の全項目内容については表 4-12 に示す。

また、性差を 図 4-9 に示す。独立したサンプルのt検定の結果は、C14「日本語を勉強 しなければならない社会だから」(t(573)=-3.02,p‹.01)以外の項目は有意差がなかった ことがわかった。つまり、男女の日本語学習者の動機づけには大差がなかった。項目を見 れば、男女とも数値が高いのは C5「将来使えるような日本語の技能を身につけたいから」、 C6「自分にとって必要なことだから」、C7「外国語を少なくともひとつは話せるようになり たいから」、C8「自分の成長にとって役立つと思うから」、男女とも数値が低いのは C15「授 業から何を得ているのか、よくわからない」、C16「日本語は勉強しても、成果が上がらな いような気がする」、C17「日本語を勉強する理由をわかろうとは思わない」、C18「時間を

01. 日本語を勉強するのは楽しいから 。

02. 日本語を勉強して新しい発見があると嬉しいから。

03. 日本語の知識が増えるのは楽しいから。

04. 日本語の授業が楽しいから。

05. 将来使えるような日本語の技能を身に着けたいから。

06. 自分にとって必要なことだから。

07. 外国語を少なくともひとつは話せるようになりたいから。

08. 自分の成長にとって役立つと思うから。

09. 日本語を勉強しておかないと、あとで後悔すると思うから。

10. 日本語で会話ができると、何となく恰好がよいから。

11. 日本語くらいできるのは、普通だと思うから。

12. よい成績を取りたいと思うから。

13. 日本語を勉強するのは、決まりのようなものだから。

14. 日本語を勉強しなければならない社会だから。

15. 授業から何を得ているのか、よくわからない。

16. 日本語は勉強しても、成果が上がらないような気がする。

17. 日本語を勉強する理由をわかろうとは思わない。

18. 時間を無駄にしているような気がする。

表 4-12 日本語学習における動機づけ尺度の全項目内容 表 4-11 心理的欲求の下位尺度間相関と平均、標準偏差、α係数

自律性 有能性 関係性 平均値 標準偏差 α 係数

自律性 - .17** .17** 3.45 0.50 .72

有能性 .17** - .39** 3.32 0.52 .75

関係性 .17** .39** - 3.47 0.71 .67

**p<.01

70 無駄にしているような気がする」である。

(2) 学年差

各学年の差については図 4-10 に示す。

動機づけの平均数値については、2 年生と 3 年生でほぼ同じ傾向が見られた。一方、4 年 生では多少違う傾向が見られる項目があった。

ほかの学年と比べて低い数値を示したのが以下の項目である。

C2「日本語を勉強して新しい発見があると嬉しいから」

C4「日本語の授業が楽しいから」

C12「よい成績を取りたいと思うから」

ほかの学年と比べて高い数値を示した項目は以下の項目である。

C15「授業から何を得ているのか、よくわからない」

C16「日本語は勉強しても、成果が上がらないような気がする」

C17「日本語を勉強する理由をわかろうとは思わない」

C1 C2 C3 C4 C5 C6 C7 C8 C9 C10 C11 C12 C13 C14 C15 C16 C17 C18

1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5

女性 男性

2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0

女性 男性

図 4-9 動機づけ尺度の性差

71 (3) 信頼性の検討と下位尺度間の関連

動機づけ尺度の信頼性については、α係数を算出し、尺度の内的整合性によって検討し た。動機づけ尺度のα係数は.75 であった。動機づけ尺度は、内発的動機づけ、同一視的調 整、取り入れ的調整、外的調整、無動機に分かれている(廣森 2006)。これら 5 つの下位尺 度に相当する項目の平均値を算出し、<内発的動機づけ>下位得点(平均 3.31、標準偏差 0.81)、

<同一視的調整>下位得点(平均 3.76、標準偏差 0.80)、<取り入れ的調整>(平均 2.69、標 準偏差 0.80)、<外的調整>下位得点(平均 2.66、標準偏差 0.84)、<無動機>(平均 2.19、

標準偏差 0.70)として、内的整合性を検討するために各下位尺度のα係数を算出したとこ ろ、<動機づけ>でα=.85、<同一視的調整>でα=.82、<取り入れ的調>でα=.53、<同一 視的調整>でα=.61、<無動機>でα=.71 と十分な値が得られた。各下位尺度間相関を表 4

-13 に示す。内発的動機づけ、同一視的調整、取り入れ的調整、外的調整はお互いに有意 な正の相関を示した。取り入れ的調整と無動機は有意な相関がなかった。

C1 C2 C3 C4 C5 C6 C7 C8 C9 C10 C11 C12 C13 C14 C15 C16 C17 C18

1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5

4年 3年 2年

図 4-10 各学年動機づけ尺度平均得点

表 4-13 動機づけの下位尺度間相関と平均、標準偏差、α係数

内発的動機づけ 同一視的調整 取り入れ的調整 外的調整 無動機 平均値 標準偏差 α係数 内発的動機づけ - .54** .37** .24** .32** 3.31 0.81 .85 同一視的調整 .54** - .25** .30** .29** 3.76 0.80 .82 取り入れ的調整 .37** .25** - .48** -.01 2.69 0.80 .53

外的調整 .24** .30** .48** - .11** 2.66 0.84 .61

無動機 .32** .29** -.01 .11** - 2.19 0.70 .71

**p<.01

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