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第 7 章 結論

7.3 今後の課題

本研究の結びとして、今後の課題を 3 点述べる。

第 1 は、演劇的手法の追加と改良である。本研究では、インプロ、テレビドラマの再現 演劇、寸劇作りを利用した活動に対しては、学習者から比較的肯定的な評価が得られた。

しかし、今回の活動は短期的に行ったため、結果を一般化できる段階ではない。また、今 回の活動で利用した演劇的手法は三種類に限られるため、他の演劇的手法は同じ効果が得 られるのか、更なる検討が必要である。今後、多種類の演劇的手法を利用し長期的な実践 と分析を行う必要がある。

第 2 は、研究対象の拡大である。本研究では、演劇的手法のコミュニケーションに関わ る情意要因を強化する効果を明らかにしたが、主に 3 年生が対象であったため、他の学年 についてより詳細な情報を得ることができなかった。また、本研究はあくまでも中国人日 本語学習者のうち、一校一クラスで限られた人数の学習者を調査対象としたものであり、

結果の過度の一般化は慎むべきである。したがって、今後の研究では、研究対象を増やし、

さらに検討していく必要があると考える。

第 3 は、演劇に関する教師43自身の専門性の向上である。演劇的手法を利用するには、教 師側に演劇について十分な知識があることが求められる。また、渡辺(2009:146)は教師 のファシリテーターとしての役割について、「(学習ツールとしてのドラマは)コミュニケ ーション空間として効果的に機能するかどうか、その成否はドラマワークをデザインし運 営にあたるファシリテーターの力量に依存する度合いがきわめて高くなるのが特徴である」

という。教師の演劇の知識が不足であれば、ファシリテーターとしての役割を十分に果た すことができず、演劇的手法による活動の効果を低下させると考える。こうした専門性の 向上は、教師自身の日々の実践と研究しか方法がないと細川(2003)が指摘している。小 嶋(2010:143)は、現職教師は、勤務先の学習者と活動の目的・目標を共有しあい、アク

43

ここでの教師は中国語を母語とする日本語教師のことを指す。

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ション・リサーチ44の省察的サイクルを繰り返しながら授業改善を図り、学習者オートノミ ー45を育むとともに自らの専門職能・オートノミーを向上させることができるように奨励す る。教師は協働的・省察的な指導を通して演劇に関する専門性を向上させることになると 考える。ただし、教師は専門知識や指導法を自律的に学びたくてもマニュアルや学び方の 提示が全くなければ、専門性の向上が難しい。教師の演劇に関する知識および自律的成長 をいかに支援していくかは、今後追求していきたい課題の一つである。

44

アクション・リサーチ:ドイツの心理学者レビンが提唱した研究方法である。社会活動で生じる諸問 題について,小集団での基礎的研究でそのメカニズムを解明し,得られた知見を社会生活に還元して 現状を改善することを目的とした実践的研究。

45

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