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7 | 各論

7.3 キノロン系抗菌薬

7.5.5  経口用セフェム系抗生物質

1962 年には、最初の注射用のセフェム系抗生物質と してセファロチンやセファロリジンが合成されていた。

しかし、これらの薬剤は経口投与しても効率的には吸収 されないため、並行して経口用のセフェム系抗生物質の 合成も試みられていた。1965 年に最初の経口用セフェ ム系抗生物質としてセファログリシン(図 7-5-25)が開 発され、続いて 1967 年にセファレキシンが、1969 年に はセフラジンが、1972 年にはセファトリジンなどが相 次いで開発された。これらはいずれも 7 位側鎖にアミノ 基を導入して腸管からの吸収性が高められている。ま た、経口吸収性の改善は 3 位に存在する側鎖の性状に

よっても影響されると考えられている。これらの薬剤 は、開発当初グラム陽性菌と一部のグラム陰性桿菌に有 効な経口投与可能な抗生物質として脚光を浴びた。

図 7-5-25  セファログリシン

(1)  経口用第一世代セフェム系抗生物質

この世代の代表的な薬剤としては、アンピシリンの 側鎖をセフェム系抗生物質に応用したセファレキシン がその代表である。後に述べるセファクロル、セフロ キサジンも含めいずれもアンピシリンと同じαアミノ ベンジル基が 7 位側鎖に導入され、更に 3 位には立体 的に小さな置換基が採用されている。

<セファレキシン>

1967 年に英国グラクソ 社と米国イーライ・リリー 社から、経口吸収性がよく生体内で不活化されず全身 感染症に使用可能な経口用セフェム系抗生物質セファ レキシンが発表された。セファレキシンはセファログ リシン 3 位側鎖のアセトキシル基を加水分解により除 去して得られる。3 位のメチル基が経口吸収に関係し ていると言われている。

図 7-5-26 セファレキシン

<セファクロル>

セファクロルは 1977 年米国イーライ・リリー社によ り、セファレキシンの合成法を研究している過程で見出 された。合成法の検討中に 3 位にクロル基の付いた 3- ク ロロセフェム化合物が得られ、これが優れた抗菌活性を 示したため、3 位を固定し 7 位側鎖を様々に修飾する中か ら、経口吸収性の良いセファクロルが開発された30)

図 7-5-27 セファクロル

<セフロキサジン>

セフロキサジンは 1972 年スイスのチバガイギー社の Scartazzini らにより合成された経口用セフェム系抗生 物質である。彼らはそれまでに開発された経口投与可 能なセフェム系抗生物質であるセファログリシン、セ ファレキシンと、注射用セフェムとの構造的な違いを 検討する中で、3 位の置換基により吸収性が大きく影響 されることに気が付いた。抗菌力および安定性を考慮 して様々な 3 位側鎖を検討した結果、3 位にメトキシ基 を有するセフロキサジンに行き着いた。現在、セフロ キサジンは小児用の経口剤とし販売されている。

図 7-5-28 セフロキサジン

(2)  経口用第二世代セフェム系抗生物質

第二世代の特徴としては、βラクタマーゼに安定な 薬剤として開発された第二世代注射用セフェム系抗生 物質を利用し、母核の 2 位にあるカルボン酸をエステ ル型に変えたプロドラッグ型の製剤として開発された 点にある。これらの化合物はいずれも腸内のエステ ラーゼにより加水分解されて活性本体となる。

<セフロキシム・アキセチル>

セフロキシム・アキセチルは 1976 年にグラクソ社で 開発された経口用セフェム系抗生物質である。注射用 セフェム系抗生物質として開発されたセフロキシムの カルボキシル基をエステル化したプロドラッグである。

彼らはセフロキシムのセフェム骨格 2 位のカルボキシ ル基をアセトキシエチル化することにより、良好な経 口吸収性を示すセフォロキシム・アキセチルを開発し た32)。日本では 1982 年より基礎・臨床試験が開始さ れ、1988 年に上市された。

図 7-5-29 セフロキシム・アキセチル

<セフォチアム・ヘキセチル>

セフォチアム・ヘキセチルは第二世代の注射用セ

フェム系抗生物質セフォチアムのエステル型プロド ラッグである。武田薬品ではセフォチアムのプロド ラッグを開発する中から、1983 年、2 位のカルボキシ ル基に環状アルキルをエステル結合することが優れた 経口吸収性を示すことを見出し、セフォチアム・ヘキ セチルを開発した。本剤は 1990 年承認を取得し、同 年発売が開始された。

図 7-5-30 セフォチアム・ヘキセチル

(3)  経口用第三世代セフェム系抗生物質

第二世代はグラム陽性、グラム陰性菌の両方に対して良 い抗菌力を持つが、第三世代になるとグラム陰性菌および 日和見感染菌に対しての抗菌力を有する一方、ブドウ球菌 に対する抗菌力の弱いものもある。セフィキシム、セフチ ブテンおよびセフジニルを除き、すべて経口吸収性を高め るためエステル型のプロドラッグとして開発された。

(3-1)経口用第三世代セフェム系抗生物質(ブドウ 球菌に適応なし)

<セフィキシム>

セフィキシムは 1980 年藤沢薬品の高谷隆雄らにより 創製された経口用セフェム系抗生物質である33)。彼ら は第三世代の注射用セフェム系抗生物質であるセフチゾ キシムを開発する過程において、7 位のメトキシイミノ 基を他のアルコキシイミノ基に変換すると経口吸収性に 大きな影響を与えることを見出し、様々な誘導体を検討 する中から 7 位にカルボキシメトキシイミノ基を持つセ フェムが、経口吸収性を持つと共に注射用第三世代セ フェム系抗生物質と同等の抗菌力を持つことを見出し た。更に体内動態、安全性を比較検討する中から 3 位に ビニル基をもつセフィキシムが選択された。セフィキシ ムはβラクタマーゼに対し安定で、セファクロル、セ ファレキシン、アモキシシリン等の耐性菌に対しても強 い抗菌力を有していた。本剤は 1987 年に発売された。

図 7-5-31 セフィキシム

<セフテラム・ピボキシル>

セフテラム・ピボキシルは 1984 年富山化学の貞木 浩らにより開発された経口用セフェム系抗生物質であ る34)。富山化学では、より広い抗菌スペクトルを持 ち、かつβラクタマーゼに安定な経口剤を目指して、

セフェム骨格の 3 位に着目して検討を行った。その結 果 3 位 に 5-methyl-2H-tetrazol-2-yl-methyl 基 を 持 つ 物質が強い抗菌力を持ち、更にそのピバロイルオキシ メチルエステルの経口吸収性が優れていることを見出 した。本剤は 1987 年に上市された。

図 7-5-32 セフテラム・ピボキシル

<セフチブテン>

セフチブテンは 1986 年に塩野義製薬の吉田正らに より開発された経口用セフェム系抗生物質である35)。 本剤はセフェム骨核の 3 位に置換基を持たず、非エス テル型で、かつ 7 位にカルボキシブテノイル基を含む という特異な構造を持っており、優れた経口吸収性を 示す。本剤は 1992 年に上市された。

図 7-5-33 セフチブテン

(3-2)経口用第三世代セフェム系抗生物質(ブドウ 球菌に適応あり)

<セフポドキシム・プロキセチル>

セフポドキシム・プロキセチルは三共が 1982 年に CS 807 として開発した経口用セフェム系抗生物質である。

セフポドキシムの 2 位カルボキシル基をイソプロポキシ カルボニルオキシエチル誘導体として経口投与を可能に したプロドラッグである。本剤は内服後、腸管壁のエス テラーゼにより速やかに加水分解されて活性体セフポド キシムに変換される。セフポドキシムは各種のβラクタ マーゼに安定で、グラム陽性菌だけでなく、グラム陰性 桿菌に広範囲な抗菌スペクトルを有している一方、緑膿 菌には抗菌力を示さない。1989 年 9 月に承認された。

図 7-5-34 セフポドキシム・プロキセチル

<セフジニル>

セフジニルは藤沢薬品研究所において開発された経口 用セフェム系抗生物質で、非エステル型で 3 位にセフィ キシムと同じビニル基を持つことが特徴であり、7 位に は 2- アミノチアゾリルヒドロキシイミノ基を有する。本 剤は各種βラクタマーゼに安定で、グラム陽性菌・陰性 菌に対し広範囲な抗菌スペクトルを有している。本剤は 1991 年 10 月 4 日に承認を得、同年発売された36)

図 7-5-35 セフジニル

<セフジトレン・ピボキシル>

セフジトレン・ピボキシルは、1984 年、明治製菓薬 品総合研究所で、グラム陰性菌と同様にグラム陽性菌に も強い抗菌力を持つ物質を目指して合成された経口用セ フェム系抗生物質である。活性本体であるセフジトレン の 2 位カルボン酸にピバロイルオキシメチル基(ピボキ シル基)をエステル結合させ、経口吸収性を高めたエ ステル型プロドラッグである。3 位側鎖にビニル基を介 してチアゾール基を有する物質が、グラム陽性菌に対し ても強い抗菌力を示すことを見出し開発が決められた。

1994 年 4 月に製造承認を得、上市された37)

図 7-5-36 セフジトレン・ピボキシル

<セフカペン・ピボキシル>

セフカペン ピボキシルは 1985 年塩野義製薬研究所

で創製されたエステル型経口用セフェム系抗生物質で ある。同社ではグラム陽性菌からグラム陰性菌まで幅 広い抗菌スペクトルを有する化合物を見出すため,セ フェム母核の 3 位および 7 位両側鎖部分の化学修飾に よる合成、スクリーニングを進める中で、セフカペン を創製した。しかし,セフカペンは経口吸収されない ことから種々のエステル化を試み、最も良好な経口吸 収を示す化合物として、ピバロイルオキシメチルエス テルであるセフカペン・ピボキシルを選択した。1997 年 4 月に製造承認を取得し同年販売を開始した38)

図 7-5-36 セフカペン・ピボキシル

(分類は開発経緯を参考に筆者がまとめたものであり、臨床使用の 参考とすべきものではない)

表 7-5-2 経口セフェム系抗生物質

参考・引用文献

1) E.P. Abraham, G.G.F. Newton,:Biochem. J. 79, p377(1961)

2) Cephalosporins and Penicillins:edited by Edwin H. Flynn:Academic Press, New York, Chapter 1, p3〜(1972)

3) R.B. Morin et al.:J. Am.Chem.Soc., p84, 3400

(1962)

4) 藤沢薬品 100 年史:p163-164,1995 年

5) Chauvelle RR et al.:J Am Chem Soc 84,

p3401-3402(1962)

6) 中沢昭三:抗生物質の基礎知識,p100,南山堂,

1966 年

7) Kariyone T., etal.:J. Antibiot. 23, p131-136(1970)

8) 藤沢薬品 100 年史:p230,1995 年

9) 上 田 泰, 清 水 喜 八 郎 共 編: β ラ ク タ ム 系 薬,