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7 | 各論

7.3 キノロン系抗菌薬

7.3.9  レスピラトリーキノロン

1929 年のペニシリンの発見以来様々な抗生物質、

合成抗菌薬が開発されてきたが、いずれもその有用性 の裏返しとして過剰な投与が行われ、耐性菌の出現を 促した。これらの問題に対処することを目的に新しい 物質が検討されてきたが、近年、新しい骨格の抗生物 質、合成抗菌薬の開発はますます難しくなってきてい る。しかし、このような環境下でも、キノロン系抗菌 薬の開発研究は比較的活発に行われている。レスピラ トリーキノロンの概念は Ball が提唱したキノロン系 抗菌薬の世代分類から始まるとされる25)。東北大学 教授渡辺彰は「レスピラトリーキノロン系薬とは、呼 吸器各組織への移行が高率であり、かつ呼吸器感染症 の起炎菌として重要な肺炎マイコプラズマや肺炎クラ ミジアなどの非定型病原菌に加えて、細菌性肺炎の起 炎菌として最も高頻度で重症化しやすい肺炎球菌にも 有効なキノロン系薬であると理解される。」と述べて いる26)。ここでは表 7-3-2 でレスピラトリーキノロン に分類された比較的新しい薬剤について記述する。

<トスフロキサシン>

シプロフロキサシンの開発以来、1 位についてはエ チル基かシプロプロピル基が定着していたが、1984 年米国アボット社の研究陣により、低級アルキルでは ない p-フルオロフェニル基、あるいは o, p - ジフルオ ロフェニル基を持つ物質が優れた抗菌活性を示すこと が明らかにされた27)。トスフロキサシンは富山化学 総合研究所において開発され、1990 年に富山化学か ら発売された経口キノロン系抗菌薬である。トスフロ キサシンは、母核としてナフチリジン環が使われてい る。また7位に 3-アミノピロリジニル基を有すると 共に、ナフチリジン環の1位に 2,4- ジフルオロフェニ ル基が置換された物質である。これにより、グラム陽 性菌への抗菌力増強と、嫌気性菌にまで抗菌スペクト ルを拡大をすることが可能となった。

図 7-3-16 トスフロキサシン

<パズフロキサシン:注射用>

パズフロキサシンは富山化学において創製された薬

剤である。本剤はレボフロキサシンと同じ 3-(S)-メチ ルオキサジン環を持ち、キノロン骨格の 7 位に 4-N-メチルピペラジンの代わりに、C-C(炭素-炭素)結 合を介して 1-aminocyclopropyl 基を導入した物質で ある。本剤は従来のニューキノロン系抗菌薬に匹敵す る強い抗菌活性と広い抗菌スペクトルを有し、高い血 中濃度を示す注射剤で、動物実験ではけいれん誘発作

用、急性毒性および細胞毒性が少なく、また、in vitro の実験では細菌特有の DNA ジャイレース阻害作用と ヒトなどの哺乳類のトポイソメラーゼⅡ阻害作用にお ける選択性が見られたとされている28)。パズフロキ サシンは日本で創製された初の注射用キノロン系抗菌 薬として 2002 年に発売された。

表 7-3-1 キノロン系およびニューキノロン系抗菌薬の一覧

(母核別にまとめて記載)

図 7-3-17 パズフロキサシン

<モキシフロキサシン>

モキシフロキサシンはドイツのバイエル社により 創製された。ドイツでは 1999 年に承認され、日本に おいてはバイエル薬品により 2005 年承認取得がなさ れた。モキシフロキサシンは 7 位にフェーズ型二環性 アミノ基を 8 位にメトキシ基を有するニューキノロン である。本剤はキノロン系抗菌薬として日本で初めて PK/PD の概念に基づき開発された。

図 7-3-18 モキシフロキサシン

<ガレノキサシン>

ガレノキサシンは富山化学により開発された薬剤 である。本剤はニューキノロン系抗菌薬の特徴であ り、抗菌力に大きく関与するとされていた 6 位のフッ 素を欠いている。このユニークな構造が副作用の少な さと関連すると考えられている。構造がニューキノロ ン登場以前のキノロン系抗菌薬と同様であるにも関 わらず、ガレノキサシンは幅広い抗菌活性を有してい る。更に、ガレノキサシンではパズフロキサシン同 様 7 位置換基が C-C で結合されている。本剤はキノ ロン耐性菌を含むグラム陽性菌、グラム陰性菌に対し ても、また、クラミジア、レジオネラ、マイコプラズ マに対しても強い抗菌活性を有する。加えて、PRSP、

MRSA、VRE 等近年問題となっている耐性菌につい ても、従来のニューキノロン系抗菌薬より強力な抗菌 活性を有している29)30)。ガレノキサシンは 2007 年に 発売された。本剤は 1 日 1 回投与が可能である。

図 7-3-19 ガレノキサシン

<シタフロキサシン>

シタフロキサシンは第一製薬により開発された。本 剤はキノロン骨格の 1 位置換基が(1R、2S)-2-フルオ ロシクロプロピル基で、7 位にスピロ型の二環性アミ ノピロリジニル基を有するキノロン系抗菌薬であり、

オフロキサシンに比べて抗菌活性が強く、特にグラム 陰性菌、グラム陽性菌、マイコプラズマ属等に強い活 性を示す。また、従来のニューキノロン系抗菌薬の耐 性菌に対しても良好な抗菌活性を有している。DNA ジャイレースとトポイシメラーゼⅣ両酵素を強く阻害 するデュアルインヒビターであり耐性化を起こしにく いとされている。シタフロキサシンは 2008 年第一製 薬より発売された。

図 7-3-20 シタフロキサシン

新しく開発されたレスピラトリーキノロンを図 7-3-21 にまとめた。一覧にして見ると、構造的な多様性 が一目で認識される。なかでもガレノキサシンにおけ る 6 位フッ素の欠如が目立っている。

図 7-3-21 レスピラトリーキノロンの一覧 日本で承認された薬剤の一覧が渡辺によりまとめら れ分類されているが、ここでは本項に関連する薬剤の み抜粋して記載する(表 7-3-2)、なお、表中に記載さ れている薬剤のうち、ピロミド酸、シノキサシン、エ ノキサシンは 2016 年時点で市場から撤退している。

表 -7-3-2 日本で販売されているキノロン系抗菌薬剤