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組織内多職種の仕事現場での連携による能力獲得のプロセス

5. 連携による学習のプロセス

5.1. 定性的分析の結果

5.1.3. 組織内多職種の仕事現場での連携による能力獲得のプロセス

術を見せることが必要であるという気づきによって,積極的に行動した結果,信頼され るほどの能力を身につけることができたことが示されている。以上は,以下のように表 にすることができる(図16)

図 16 組織の異動による能力獲得のプロセス

「組織の異動」によって,チームメンバーやクライアント,上司が変更し,自身に求 められる役割や信頼の変化が認識される,そして新たな能力を獲得する必要性や,活動 方針の転換や,信頼を得られるような行動の必要性を自覚し,そうできるように行動を 重ねることで,観察や決断といった「救命活動ノンテクニカルスキル」が獲得されてい くプロセスが伺える。

できた。

13 病院でブロックが発見され,医師から「心電図測定はしなかったの?」と言わ れ,心電図測定しなかったためブロックを見逃してしまった事例であった。

104 医師から「見た目で緊急度を感じとるのも大切」と言われた。

以上の言及は,状況認識という,まさしくノンテクニカルスキルを獲得するプロセス を示している。ID22の医師からの具体的なアドバイスや,ID13のフィードバックは,

自身の注意深い観察の必要性の自覚を生み,Benner(1984)の言う,質的差異を識別 する意識を持つようになり,状況認識という,ノンテクニカルスキルを獲得しているプ ロセスを示している。

また,インタビュー協力者のA氏は,「医師との関わり」について,以下のように述 べている。

A 氏 以前でしたらドクターの方も,救急隊員なんて来たってそんな大した話も,

はいはいっていう感じの方が多かったですが,最近は理解を示してくれる方も多く て,逆にしっかり引き継ぎしないと怒られるというか。「こうこうこういうところ は,ちゃんと観察しないと駄目だよ」とか,「この患者さんだったら,こういうと こはしっかり見てよ」というアドバイスとかもいただけます。そういうのもやっぱ りドクターと一緒に仕事するからできてくるようなことだと思います。

ここでも,自由記述と同様に,病院搬送での引き継ぎにおいての,アドバイスやフィ ードバックによって,自身の注意深い観察の必要性の自覚が生まれ,質的差異を識別す るという意識を持ち,状況認識というノンテクニカルスキルを獲得しているプロセスが 示されている。またA氏からは,以前は医師も,救急隊員への理解が低く,「はいはい っていう感じの方が多かった」というように,アドバイスやフィードバックは行われて いなかったが,医師の意識変革とともに救急救命士自身の能力の向上によって医師から の理解が進み,より深い連携を生んでいることが語られている。このことは,図1にお いて学習の成果から学習の場への矢印で示したように,学習の成果として獲得している 能力の高さがレディネス(準備性)となり,新たな学習の場での学習のリソースとして の連携につながり,さらに学習が高度化していくということを示していると考えられる ものであろう。

さらに,「医師との関わり」は,以下のように,やりがいや,モチベーションの向上 も生んでいる。

70 救急現場で行う医師とコラボレーションした救急処置により患者の命を救っ た時のやりがいや,帰所後の医師とのコミュニケーションにより得た知識は何もの にもかえがたい。

14 医師の適切な処置で結果的に傷病者は社会復帰できました。この時に私は,も っと救急を勉強しようと思いました。

119 医師の情熱と行動力に強く感銘を受けた。

といったように,医師との連携をとおして,医師の能力と意識の高さを知り,自身の 学習の必要性の自覚,救急医療への意欲が生まれ,意欲をもって学習することで,「救 命活動ノンテクニカルスキル」の向上につながっていることが確認できる(図17)。

図 17 医師との関わりによる能力獲得のプロセス

医師からの具体的なアドバイスや,フィードバックは,自身の注意深い観察の必要性 の自覚を生み,質的差異を識別する意識をもって行動することを引き出している。また,

医師との連携を通して,医師の能力と意識の高さを知り,自身の学習の必要性の自覚,

救急医療への意欲が生まれ,意欲をもって学習を継続することにつながっている。その 結果,「救命活動ノンテクニカルスキル」の向上につながっていることが確認できる。

ここで特徴的であるのは,救急現場での医師との連携では,「専門についてのアドバ イス」や,「コミュニケーションにより得た知識」といったように,「救命活動テクニカ ルスキル」が獲得されているような言及もあるが,第4章で確認したように,重回帰分 析では有意な値を示してはいない。自由記述で言及されているような,救急現場での医 師との連携によって獲得される能力はむしろ,観察力や,モチベーションといったよう な,より包括的な「救命活動ノンテクニカルスキル」であるという特徴が見られる。こ

医師との 関わり

アドバイスや フィードバック による自身の能 力不足の認識 医師の能力 と意識の高 さの認識

注意深い観 察の必要性 の自覚

自身の学習の必 要性の自覚,救 急医療への意欲 の喚起

救命活動ノン テクニカルス

キル 質的差

を識 別する意識を 持って観察す

意欲を持っ て学習する

れは,やはり救急現場という過酷な状況での連携であるため,専門的な知識より,観察 や意思決定の重要性が強く認識されるためであると考えられる。