6. 結論
6.1. 本研究で発見した事実
第4章では,RQ1「仕事現場における連携は、どのように能力獲得と関係しているの か」に関して,定量的データをもとに検討した。
まず,救急救命士は,学習の成果としてどのような能力を獲得しているのかを,量的 な質問紙調査から分析した。
その結果,救急救命士の能力には,「救命活動ノンテクニカルスキル」と「救命活動 テクニカルスキル」,そして「マネジメントスキル」があることを明らかにし,業務を 遂行する上でのテクニカルスキルとノンテクニカルスキルが明確に別のものとして認 識されるためには,救急救命士自身の熟達が必要であることを示した。
そして,その能力が,どのような連携から獲得されているのか,つまり連携と能力獲 得の関係性について分析した。
その結果,連携をリソースとした能力獲得については,救急救命士の10年目までの キャリアにおいては,「部下・後輩の指導」と「他地域の職員との出会いや情報交換」
が,「救急活動スキル」と「マネジメントスキル」を同時に高めていた。一方で,「職場 における対立や衝突」は,「救命活動スキル」の獲得を阻害していた。
また,キャリア11年目以降においては,「組織の異動」と「医師との関わり」が,「救 命救急ノンテクニカルスキル」を高め,「職場組織の改善・変革や新しい部門組織の立 ち上げ」,「激甚災害との直面」が「マネジメントスキル」を高めていた。また,「他職 種との関わり」が,「救命活動ノンテクニカルスキル」と「マネジメントスキル」の両 方を同時に高めていた。これらは「発達的挑戦」(McCauley et al., 1994)であり,救 急救命士の11年目以降の「発達的挑戦」といえる連携は,能力獲得に大きな関係性を もっていることを示した。
また,連携をリソースとして能力が獲得される仕事現場は,キャリアの進展に応じて,
組織内同職種→組織間同職種→組織内多職種→組織間多職種と拡大していく傾向があ ることを示した。以上の発見事実を整理して図示したのが表15である。
表 15 救急救命士の連携と能力獲得の関係性と連携の拡大
(注)表内の矢印は,キャリアの進展に伴う能力獲得を生む連携の範囲・対象の拡大を意味している
しかし,ここで注意しておくべきは,この能力獲得を生む連携の範囲・対象の拡大の 経過は,本研究の段階では一般化できるものではないということである。確かに組織内 同職種の仕事現場での業務からキャリアが開始されることが多いホワイトカラーとい った職種では,この救急救命士と同様の経過を見せることが考えられる。しかし救急救
通常属する組織 通常属していない組織
同職種
組織内同職種
◯部下・後輩の指導:10年目まで
→救命活動スキル,マネジメントスキル
◯職場における対立や衝突:10年目まで
→救命活動スキル(阻害要因)
組織間同職種
◯他地域の職員との出会い・情報交換:10年目まで
→救命活動スキル,マネジメントスキル
◯組織の異
動:11年目以降
→救命活動ノンテクニカルスキル
他職種
組織内多職種
◯医師との関わり:11年目以降
→救命活動ノンテクニカルスキル
組織間多職種
◯他分野の専門家と連携するプロジェクト(協議 会・運営委員会等)への参加:両キャリア段階
◯激 甚
災害との直面:11年目以降
◯職場組織の改善・変革,新しい部門・組織の立ち 上げ:11年目以降
→マネジメントスキル
◯他職種との関わり:11年目以降→救命活動ノンテクニカルスキル,マネジメントスキル 連携対象
連携範囲
命士以外の医療専門職においては,別の経過を見せることも想定される。例えば多くの 医師や薬剤師,診療放射線技師は,同職種が仕事現場に少なく,他職種と連携する組織 内多職種の仕事現場で業務を行うため,キャリア初期から組織内多職種での連携によっ て能力獲得がもたらされることも想定される。そのため,その職種ごとのキャリアの進 展にともなう能力獲得を生む連携の範囲・対象が,職種ごとにどのような広がりの特徴 をもつのかについての解明は,今後の研究の蓄積が求められる。
第5章では,RQ2「連携と能力獲得の間には、どのような学習プロセスが存在するの か」に関して,自由記述調査およびインタビュー調査という,定性的データをもとに検 討した。
その結果,連携による学習のプロセスには,学習のリソースとなる「連携」,「ギャッ プ認識」,「改善点把握」,「修正行動」,学習の成果となる「能力獲得」という,具体的 な段階があることを明らかにした。
連携によって,「ギャップ認識」が起こり,「改善点把握」によって必要なものが自覚 され,自身が具体的な「修正行動」を行うことで,「能力獲得」がなされていく。そし て獲得された能力によって,新たな仕事現場において,新たな連携につながっていくと いうプロセスがあることを示した。このことは,第4章で示した,連携をリソースとし て能力が獲得される仕事現場は,キャリアの進展に応じて,組織内同職種→組織間同職 種→組織内多職種→組織間多職種と拡大していくこととも符合する。
また,プロセスでの各段階が次の段階に繋がらなければ能力獲得は生まれないという ことを明らかにした。連携があっても,「ギャップ認識」がなければ「能力獲得」は生 まれず,「ギャップ認識」が起こっても,「改善点把握」がなければ「能力獲得」にはつ ながらない,「改善点把握」がなされても,「修正行動」されなくては「能力獲得」はな されないということを示した。
そして,職種と組織という境界の越え方によって,組織内同職種,組織間同職種,組 織内多職種,組織間多職種の4つの仕事現場に類型して検討したことで,それぞれの仕 事現場での連携ごとに,さまざまな「ギャップ認識」が起こり,「改善点把握」や「修 正行動」,獲得される能力も異なっていることを明らかにした。
さらに,そのギャップ認識は,連携の対象や範囲によって異なり,他者や他組織,他 職種からの作用で生まれることを示した。自身と他者との関係で,また,自分たちと他 の人たちとの関係で気がつく,連携の対象や範囲を超えることでないと生まれない認識 が,連携によって生まれていると考えられることを示した。
以上の発見事実を整理して図示したのが図25である。
図 25 連携による学習のサイクル
連携1によって,他者,他組織,他職種からの作用が生まれ,ギャップ認識 1が起こ る。その後,改善点把握,修正行動を経て能力獲得1が達成され,新たな連携2につな がる。連携2においても他者,他組織,他職種からの作用で,ギャップ認識 2,改善点 把握2,修正行動2,能力獲得2がもたらされ,連携3に接続される。その後もスパイラ ル状に継続し,能力は向上していく。プロセスの途中で留まった場合,マネジメントス キルやノンテクニカルスキルを含んだ能力は獲得されず,新たな連携につながることは ない。
この連携による学習のサイクルを,本研究の対象である救急救命士に置き換え,あら ためて確認すると,図で示される連携1から始まるプロセスは,組織内同職種連携の仕 事現場での連携による学習として捉えることができる。一様に他者,他組織,他職種か らの働きかけがあるが,キャリア初期での本人のレディネスでは,通常属する組織での 同職種である他者からのみギャップ認識が起こる作用が得られると考えられる。他者か らの作用でギャップ認識を起こし,各段階を経て能力獲得し,組織間同職種連携である 連携 2につながる。組織間同職種連携の段階では,他組織からの作用で,また,連携 3
と捉えられる組織内多職種連携では,他職種からの作用で,そしてさらに組織間多職種 連携では,他組織および他職種からの作用でギャップ認識を起こし,改善点把握,修正 行動,能力獲得へと到達していくというプロセスを描くことができる。
以上のように,連携することで,本人のレディネスにそって,他者,他組織,他職種 からの作用がもたらされ,現状の能力や役割とのギャップが認識される。そのギャップ を埋めるための改善点を把握し,修正すべく行動することによって能力獲得がなされる。
獲得した能力によって,また新しい連携が生まれ,新たにサイクルを繰り返し,能力は 高められていく,こうした連携による学習のプロセスモデルを提案することができた。
連携1 ギャップ 認識1
改善点
把握1 能力獲
得1 修正行動1
能力獲 得なし1 他
者 他 組 織
連携2 ギャップ 認識2
改善点
把握2 能力獲
得2 修正行動2
能力獲 得なし2 他
者 他 組 織
他 職 種
連携3 ギャップ 認識3
改善点
把握3 能力獲
得3 修正行動3
能力獲 得なし3
他 者
他 組 織
他 職 種
他 職 種