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組織内同職種の仕事現場での連携による能力獲得のプロセス

5. 連携による学習のプロセス

5.1. 定性的分析の結果

5.1.1. 組織内同職種の仕事現場での連携による能力獲得のプロセス

まず,組織内同職種の仕事現場での連携による能力獲得プロセスを検討する。組織内 同職種の仕事現場とは,通常属している消防署内で,同じ専門性をもつ救急隊員や救急 救命士からなる仕事現場での連携である。

5.1.1.1. 部下・後輩の指導による能力獲得のプロセス

第4章の定量調査においては,組織内同職種の仕事現場で能力獲得を生んでいるもの として,「部下・後輩の指導」が挙げられており,「部下・後輩の指導」は,「救命活動 スキル」と「マネジメントスキル」を同時に高める連携となっていた。以下では,部下・

後輩の指導が,能力を高めていくプロセスについて検討していく。自由記述には,部下・

後輩の指導について,以下のような言及があった(文章前の番号は,回答者IDを示す)。

94 人(後輩等)への指導には,約 10 倍以上の知識,スキルが必要だということ,

後輩への指導を通じ学び,自分自身のスキルアップに繋がったと思う(どの様にし たら解りやすく,実践向きになれるか等),また人命救助には,知識・技術はもち ろんのこと,時間短縮がなければ自己満足で終わってしまうという考え方も身に付 いた。これらの経験や新たに得た知識を次世代へと引き継ぎたいと思う。

ID94 の言及には,「後輩への指導を通じ学び,自分自身のスキルアップに繋がった」

とある。これはまさしく後輩への指導が,能力獲得に繋がっていることを示している。

そして,その具体的なプロセスとして,「人(後輩等)への指導には,約10倍以上の 知識,スキルが必要」という,現在の自身の能力が不足しているという認識や,専門的 スキルを獲得するための学習が必要であるという自覚が生まれていることが述べられ ている。

33 自身の知識と技術力を向上させなければ,各隊の検証票を確認・評価すること は難しいと考えたので,自分にプレッシャーをかけてきた。結果,モチベーション の向上につながったと感じている。

46 救急隊長として業務するにあたって,隊員等に対しての指導や現場での指示を するためには,自らが学ばなければならないと考えた。

ID33 の「自身の知識と技術力を向上させなければ,…難しいと考えたので,自分に プレッシャーをかけてきた。」や,ID46の「指導や現場での指示をするためには,自ら が学ばなければならないと考えた」といった言及も,ID94と同様に,部下・後輩への 指導によって,自身の能力不足の認識や,学習への自覚の芽生えが言及されている。

こうした学習の必要性への自覚は,後輩への指導という連携によって生まれている自 覚であり,この学習の必要性の自覚から,自己学習が促され,「救命活動スキル」が獲 得されていると想定できる。また,部下・後輩から学ぶという言及もある。

14 最先端の知識を後輩から吸収するとともに,基本訓練の反復及び想定訓練を行 うことで現場経験の少ない後輩に自身の失敗例を交えながら指導し,現場に対応で きる救命士の育成を心掛けるようになった。

この ID14 では,「最先端の知識を後輩から吸収する」とある。これは,救急救命士 養成コースのある大学,短大,専門学校を卒業して救急救命士になった後輩であるか,

最近研修を終えてきた後輩であるか明らかではないが,部下・後輩の指導を行うことが 契機となり,部下・後輩が持っている知識を知り,自身が学び,獲得していくというプ ロセスを見せている。

このように,部下・後輩の指導を契機として,自身の能力不足の認識や,部下・後輩 の能力の認識が生まれ,学習の必要性の自覚が起こり,自己学習を促し,救命活動スキ ルの能力の獲得を生んでいるというプロセスを描くことができる。

また,「部下・後輩の指導」が,「マネジメントスキル」を高めるプロセスについては,

以下のような言及が見られる。

87 隊長として 1 救急隊をまかされ,どのようにして隊員一人ひとりの思いや,考 えを一つの方向に向け業務に取り組んでいくか悩んだ時期がありました。自分の考 え方が少しずつかたまっていき,一つ一つをこなしていくうちに成長とはいえない

かもしれませんが自信みたいなものを感じました。個人に合わせた課題を与えてい く。個々の性格,考え,能力を知る事に勤め,日常からコミュニケーションを取る 事が重要。隊としての向上を考える。理解しているようで難しいですが心がけてい ることです。

ID87では,「隊員一人ひとりの思いや,考えを一つの方向に向け業務に取り組んでい くか悩んだ」というように,隊長という隊をマネジメントしていく役割の変化,つまり 自身に求められている役割を認識し,メンバーの意識や能力を把握することが必要であ ると自覚し,日常からコミュニケーションを取る行動がなされていることが見て取れる。

そして,個人に合わせた課題を与えていくことや,隊としての向上を考えることが重要 であるという,組織をマネジメントしていく方法が意識されていることが示されている。

84 救急隊長として,出動する事もあるようになり,「傷病者だけみていた救急」

から,「出動〜帰署までの全てをみる救急」へ変わり,隊員個々のスキルを把握し なければならないと考えた。

ID84でも同様に,「傷病者だけみていた救急から,…全てをみる救急」を実現するた めに,「隊員個々のスキルを把握しなければ」と述べられている。ここでも,上司・先 輩としてという役割の変化があり,自身に求められている役割を認識し,チームメンバ ーそれぞれのスキルを把握しなければという自覚に至っている。また,

121 個人のみならず組織全体の事を考えるようになり,他隊との連携や各個人の やる気を引き出し,救急隊としてチームワークを大事にしたいと思っています。

22 それまで個人や隊レベルでの向上という視点から,組織レベルの向上への視点 が切り替わり,その向上のため,上司や救急隊員とのコミュニケーションについて 考えを新たにした。

ID121やID22においても,上司となり,組織をマネジメントしていくという,自身

に求められている新しい役割を認識し,メンバー一人一人のモチベーション管理やコミ ュニケーションの重要性に気づき,コミュニケーションを重視するようになり,「マネ ジメントスキル」が獲得されているというプロセスがうかがえる。

以上は,以下ように表としてまとめることができる(図14)

図 14 部下・後輩の指導による能力獲得のプロセス

部下・後輩の指導という連携が学習のリソースとなって,自身の能力不足や,部下・

後輩の高い能力の認識が起こり,自身の学習の必要性の自覚が生まれ,自己学習という 行動につながることによって,「救命活動スキル」を獲得していくというプロセスがう かがえる。

また,上司・先輩として部下・後輩を指導するという役割の変化で,自身に求められ ている新しい役割を認識し,メンバーの意識や能力を知ることや,モチベーション管理 の必要性の自覚,コミュニケーションの重要性の自覚が生まれ,メンバーとのコミュニ ケーションを重視した行動がとられることによって,「マネジメントスキル」が獲得さ れていくというプロセスがうかがえる。