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定性的分析の考察

5. 連携による学習のプロセス

5.2. 定性的分析の考察

5.2.1. 救急救命士の連携による学習のプロセス

本章で検討してきた,救急救命士の連携による学習のプロセスは,次頁の図としてま とめることができる(図22)。

組織内同職種の仕事現場では,「部下・後輩の指導」という連携が学習のリソースと なり,自身の能力不足や,部下・後輩の高い能力の認識から,自身の学習の必要性の自 覚を生み,自己学習という行動につなげ,「救命活動スキル」を獲得していた。また,

部下・後輩を指導するという自身に求められている役割を認識し,メンバーの意識や能 力の把握や,モチベーション管理,コミュニケーションの必要性を自覚し,メンバーと のコミュニケーションがとられることによって,「マネジメントスキル」を獲得してい た。

組織間同職種の仕事現場では,「他地域の職員との出会いや情報交換」を学習のリソ ースとして,自身の能力不足や意識の低さに気づき,学習や意欲を持った行動の必要性 を自覚して,継続的な学習や訓練がなされることで,救命活動スキルが獲得されていた。

そして,自組織との比較によって自組織の現状や改善点が把握され,改善に向けた行動 につながることによって,「マネジメントスキル」が獲得されていた。

また,「組織の異動」を通して,チームメンバーやクライアント,上司の変更に伴い,

自身に求められる役割や信頼度が認識され,そして新たな能力を獲得する必要性や,こ れまでの活動方針の転換や,信頼を得られるような行動の必要性を自覚し,そうできる ように行動することで,観察や決断といった「救命活動ノンテクニカルスキル」が獲得 されていた。

組織内多職種の仕事現場においては,「医師との関わり」を通して,具体的なアドバ イスやフィードバックから,自身の注意深い観察への自覚を生み,質的差異を識別する 意識をもって行動する意識を引き出していた。また,医師の能力と意識の高さを知り,

自身の学習の必要性の自覚と救急医療への意欲が生まれ,意欲をもって学習を継続する ことにつながっていた。その結果,「救命活動ノンテクニカルスキル」が獲得されてい た。

図 22 救急救命士における連携による能力獲得のプロセス

部下・後輩 の指導

自身の能力 不足の認識

部下・後輩 の能力の高 さの認識 自身に

られている 役割の認識

自身の学習 の必要性の 自覚

メンバーの意識 や能力を知る必 要性の自覚

メンバーのモチ ベーション管 の必要性の自覚

コミュニケー ションの重要 性の自覚

メンバーと のコミュニ ケーション

マネジメン トスキル 救命活動 スキル 自己学習

の継続

他地域の職 員との出会い

や情報交換

自身の能力 不足の認識

自身の意識 の低さの認

自組織との比較 による自組織の の認識

自身の学習 の必要性の 自覚

意欲を持って行 動することの必 要性の自覚

自組織の改善 点の把握

改善のため の行動 継続的な学 習と反復訓

継続的に努 力する

組織の

チームメンバー の変更に伴った,

自身に められ る役割の認識

クライアントの 変化に伴った,

自身に められ る役割の認識

上司の変更に 伴った,自身が 信頼が得られな

得してい ない能力の 把握

ニーズに合致 するよう活動 方針の変更

取り組む姿勢と 場で使える技 術を見せる

積極的に行 動する

救命活動ノン テクニカルス

キル 教わって学

習する

件数と年数 を重ねる

医師との 関わり

アドバイスや フィードバック による自身の能 力不足の認識

医師の能力 と意識の高 さの認識

注意深い観 察の必要性 の自覚

自身の学習の必 要性の自覚,救 急医療への意欲 の喚起

質的差 を識 別する意識を 持って観察す

意欲を持っ て学習する

災害 との直面

自組織の役 割の認識

自組織に不 足している 事柄の認識

自組織の改 善への意欲 の喚起

他組織との連 携強化の必要 性の自覚

組織の改善 に取り組む

職場組織の改 善・変革・新しい 部門・組織の立

ち上げ

自身に必要 な能力の認

調整スキル の必要性の 自覚

意識しつつ 行動する

他分野の専門 家と連携する プロジェクトへ の参加

自組織の役 割の認識

自職種の役 割の認識

他組織との連 携強化の必要 性の自覚

他職種との連 携強化の必要 性の自覚

継続的に業 務を行う

組織内 同職種

組織間 同職種

組織内 多職種

組織間 多職種

ギャップ認識

連携 改善点把握 修正行動 能力

仕事

他職種との 関わり

自組織の役 割の認識

他組織との連 携強化の必要 性の自覚 他職種との連 携強化の必要

性の自覚 継続的に業 務を行う 自職種の役

割の認識

医療専門職 としての自

意欲を持っ

て学習する 他職種の意

識の高さの 認識

また,組織間多職種の仕事現場での連携でもある「他職種との関わり」を通しては,

自職種や自組織の役割や,他職種の意識の高さへの認識が起こり,医療専門職としての 自覚や,他職種や他組織との連携の必要性を自覚し,意識をもって学習することで「救 命活動ノンテクニカルスキル」を,継続的に業務を行うことで,「マネジメントスキル」

を獲得していた。

組織間多職種の仕事現場では,「激甚災害との直面」という組織間多職種の連携のも とで働くことによって,自身や自組織の業務のふりかえりはもちろん,自組織の役割や,

自組織に不足している事柄が認識されるような,自組織の実践のふりかえりを促してお り,自組織の改善への意欲の喚起や,他組織との連携強化の必要性の自覚を生んでいた。

そして,そののち組織の改善の取り組み行っていくことで,「マネジメントスキル」を 獲得していた。

「職場組織の改善・変革・新しい部門・組織の立ち上げ」を通しては,新組織を生成 する過程で,さまざまな障害に阻まれ,調整スキルの必要性を認識し,それを意識しつ つ行動することで,「マネジメントスキル」が高められていた。また,「他分野の専門家 と連携するプロジェクト(協議会・運営委員会等)への参加」を通しては,自組織の役 割とともに自職種の役割の認識や,他組織,他職種との連携強化の必要性の自覚が生ま れ,「マネジメントスキル」が向上していた。

以上のように,救急救命士の連携による学習のプロセスを確認することができる。ま た,この連携による学習のプロセスには,学習のリソースとなる「連携」,「ギャップ認 識」,「改善点把握」,「修正行動」,学習の成果となる「能力獲得」という,具体的な段 階があることを示すことができる(図23)。

図 23 連携による学習のプロセス

「部下・後輩の指導」や,「他分野の専門家と連携するプロジェクト」という連携を 行うことによって,まず,自身や自組織,自職種に求められている役割や,能力や意識 の不足といった,現状と必要なレベルとのギャップが認識される。それとともにそうし た状況を打開していくには何が必要であるのか検討され,自身の学習やコミュニケーシ ョン,他組織や他職種との連携強化の必要性の自覚といったような,改善点が把握され る。そして,その自覚にもとづいて,自己学習の継続やメンバーとのコミュニケーショ ンといった,自身の修正を目指した行動を重ねることによって,能力が獲得されていく

連携 ギャップ

認識

改善点

把握 能力

修正行動

というプロセスがあることが明らかとなった。連携によって,「ギャップ認識」が起こ り,「改善点把握」によって必要なものが自覚され,自覚に基づいて,自身が具体的な

「修正行動」を行うことで,能力が獲得されていく。そして獲得された能力によって,

新たな仕事現場においての新たな連携につながっていく。

また,こうした連携による学習のプロセスは,Jarvis(1987)の学習プロセスモデル で示されている,学習へと連結しない場合があることをふまえると,以下の図のように 示すことができる(図24)。

図 24 連携による学習のプロセスモデル

このプロセスモデルでは,各段階が次の段階に繋がらなければ能力獲得は生まれない ということを示している。連携があっても,ギャップの認識がなければ能力の獲得は生 まれず,ギャップの認識から改善点の把握につながらなれば能力の獲得はなされない,

改善点の把握がなされたとしても,修正を目指して行動されなくては能力獲得にはつな がらないということを表している。

これまでに示されていた,KolbによるLewinの経験学習モデル(Kolb, 1984)では,

経験→省察→概念化→実践というプロセスが提示されていたが,本研究では,定性的デ ータである自由記述およびインタビュー調査を分析することによって,連携による学習 は,連携→ギャップ認識→改善点把握→修正行動というプロセスをたどっていることを 明らかにした。これらは,それぞれKolbによる経験学習サイクルの各段階と大きく対 応しているが,より具体的に他者との連携という経験に焦点を当て,その能力獲得のプ ロセスを示している。

そして,その「ギャップ認識」は,定性的データを検討して明らかにしてきたように,

他者や他組織,他職種からの作用で生まれると考えられる。そのため,「連携」から「ギ ャップ認識」の間に,他者,他組織,他職種からの作用を加えている。この視点は,

CrantonによるMezirowの意識変容学習プロセスモデル(Cranton, 1992)において,

「前提の問い直し」の際に「まわりの人」を加えている視点と同様のものとして捉えら れる。

連携 ギャップ

認識

改善点

把握 修正行動 能力 能力得なし