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素形材ビジョンの見直しに向けて

ドキュメント内 センタリング (ページ 160-163)

ここでは、第1章~第3章までの分析を踏まえて、素形材産業が今後目指すべき方向に ついての検討を行っている。

4.1 グローバリゼーションにいかに対処するか

海外展開しないと生き残れないのか

素形材産業の中では、とりわけ金型や金属プレスの利益率が低く、厳しい経営環境に 置かれている様子がうかがえる。一方、金型や金属プレスよりは海外展開が遅れている 鋳造や金属熱処理といった業種の方が利益率は比較的高い。装置型産業である鋳造や金 属熱処理に比べると、金型や金属プレスの規模が小さいことも影響していると思われる が、この両者を比較する限り、「海外展開しなければ生き残れない」という説は当てはま らない。

海外生産すれば儲かるか?

A

社は

90

年代前半から海外展開をスタートさせ、台湾を皮切りに、タイ、マレーシ ア、中国などに工場を構え、グローバルな生産体制を有している。しかし、海外生 産に踏み切ることで、国内取引価格も海外価格と同レベルに引き下げられるリスク があると警鐘を鳴らす。顧客からは「海外で生産するなら安く納品できますね」と、

海外生産を口実に国内取引価格も値引き要求されるからである。

利益の決め手は何か

金型や金属プレスの経営環境が他業種に比べて厳しいのは、海外との競争が激化して いるからと考えられる。その背景には

CAD/CAM

NC

工作機械の発達により技術が設 備に化体されて海外流出しやすくなり、人件費の安い新興国でも、熟練技能者がいなく てもある程度の品質の金型やプレス部品をつくれるようになったことが大きく影響して いる。日本のお家芸とまで言われ、技能やノウハウの結集と言われる金型も、“デジタル マイスター”に代表されるように技能の技術化が進み、さらに技術が数値制御となって 設備とともに海外へ流出したことで、海外の技術的なキャッチアップが加速した。

一方、鋳造や金属熱処理は未だノウハウに依存する部分が少なくない。特に鋳物は「ル サーの法則(製品の信頼度は、製品を構成する各部品の信頼度を掛けた値によって決まっ てくるという考え方)」に代表されるように、最終製品の品質は、それぞれの工程の品質 管理がかけ算で出てくるものなので、最新設備を導入しただけでは良い鋳物をつくるこ とができない。金属熱処理も同様で、「雰囲気」と言われるものをコントロールするには ノウハウが必要とされ、数値制御だけでは品質を出すことができない。

つまり、海外進出する・しないといったグローバル展開の状況が業績に物を言うので はなく、技術伝播のスピードをいかにコントロールできるか、その上で自社の競争優位 をいかに維持するかが重要なのである。なお、競争優位を維持・確立するとは、競争の 激しい領域で競り勝つことを意味するのではなく、自社のドメインを競争しない領域へ 上手くシフトさせることを意味する。競争に競り勝つということは、すなわち価格競争 に陥ることを意味しており、消耗戦を強いられるだけとなる。

競合がいないことで海外事業を有利に展開

熱処理を手がける

B

社は、業界にさきがけて

ASEAN

に工場を出し、熱処理工程が 必要不可欠な自動車産業がアジアで発展する礎を築いたと高く評価されている。同 社の価格は相場よりも高いものの、重要保安部品を扱う日系や外資の自動車部品 メーカーから重宝され、国内取引以上の厚遇で海外事業を展開できている。

4.2 エネルギー問題にいかに対処するか

日本の電力料金は高コストか

東日本大震災の原発事故の影響で電力料金が値上がりし、鋳造や金属熱処理、粉末冶 金などエネルギー多消費型の素形材産業の経営を圧迫すると懸念されている。確かに、

各国のエネルギーコストを比較すると、日本は韓国、米国に比べると総出荷額に占める エネルギーコストの割合が若干高い。しかし、電力料金そのものを比べると、国策とし て電力料金を低く抑えている韓国に比べるとかなり高いが、欧州との格差はそれほど大 きくなく、イタリアは日本よりも電力料金が高い。また、脱原発を宣言し、自然エネル ギーへの舵を切ったドイツにおいても電力料金は比較的高く、今後の電力料金について もドイツ鋳物協会が強い懸念を表明するなど、日本同様に厳しい環境下に置かれている。

鋳造や熱処理などの装置型産業は、電力コストが安いからといって簡単に海外生産へ シフトできる業種ではないため、エネルギーコストは確かに重要な競争要因となる。し かし、素形材のハイエンド領域で競合するドイツも決してエネルギーコスト面で優遇さ れているわけではないことがわかる。

エネルギーコストの問題は引き続き注視が必要であるが、原発問題への対応と同時に、

米国のシェールガス革命がもたらす世界のエネルギー需給の動向も視野に入れていく必 要があるだろう。

4.3 海外企業と比較した日本の強み・弱み

経済産業省が実施した

Web

アンケート調査では、海外競合企業として欧州や韓国の企 業が少なからず挙げられており、欧州はとりわけドイツの企業が多い。そこで、ここで はドイツと韓国の素形材産業との比較に重点を置いている。

ドイツの特徴、強みは何か

欧州経済はリーマンショックに端を発した欧州金融危機の影響から脱していないが、

その中でドイツ経済は堅調を維持している。ドイツの製造業は東欧市場も巻き込んだ

EU

統一市場の出現によって一人勝ちの様相を呈しており、素形材産業もその恩恵に浴して いる。たとえば、ドイツから輸出される鋳物は、主に

EU

市場向けに輸出されているの であって、関税の撤廃のみならず、人の移動も比較的自由な統一市場の出現は、ドイツ 国内市場が拡大したに等しい効果を生み出している。また、人件費が安い東欧市場が

EU

に加わったことで、ドイツの素形材企業の中には東欧に安い人件費を活用した量産工場 をつくり、多品種少量で付加価値の高い製品をつくるドイツ国内工場とベストミックス させているところもある。

経営面での特徴は、

M&A

による規模拡大と、選択と集中によるマーケットの棲み分け が浸透しつつある点にある。環境規制の厳しいドイツでは、環境対策への投資負担に耐 えられない小規模企業は淘汰され、また、優良な鋳物企業は大手コングロマリットの傘 下に入るなどして、日本に比べて素形材産業をはじめとする「中小企業」の従業員規模 が比較的大きい。また、淘汰の過程で事業の選択と集中を図り、ドイツ国内では事業領 域の棲み分けを図ってきている。

それに加えて、徹底した合理化・自動化によるコスト削減、価格競争からは一線を画 すという姿勢を鮮明にして(価格重視の)自動車業界からは撤退し、工作機械などの産 業用機械に軸足を移すなどして、より付加価値の高い分野へシフトしていく、という事 業戦略をとっている企業が多い。鋳造業では、大物鋳物を得意とする企業に既にその傾 向があり、風力発電等の事業へ参入している。

技術的な特徴としては、ドイツは「サイエンス主導型」である。ドイツは大学よりも 民間企業の方が研究者としてのステータスが高く、民間企業に優秀な技術者が集まる上、

フラウンフォーファー研究所、ドイツ・シュタインバイス財団など、顧客ニーズ指向か つ事業化を指向する技術移転機関がイノベーションに貢献している。

韓国の特徴、強みは何か

素形材産業に限ったことではないが、韓国の強みは国策として特定産業や企業への集 中支援を実施できる点にある。日本からの貿易赤字に悩む韓国では、部素材産業の育成 に力を入れており、その中でサポーティングインダストリーの育成にも力を入れてきた。

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