第2章
3成分連結反応によるアルキルアルキニルケトン合成反応
第1節
Scheme 2-2
O
OTf
CO Ph 1 atm
Pd(OAc)2/dppp Et3N
DMF, 60oC, 2.5 h O
O
Ph 72%
Scheme 2-3
Scheme 2-4
これらの反応における機構を下記に示した(Figure 2-1)。芳香族ハロゲン化物
のPd(0)への酸化的付加の後、一酸化炭素が挿入してアシルパラジウム中間体が形
成される。これにアセチレンが置換した後、還元的脱離によって目的のアルキニル
ケトンとPd(0)が生成する。これらの反応における主な副生成物として、一酸化炭
素の挿入機構を経ずに薗頭反応が進行したことで生成する芳香族アセチレン誘導 体がある。
Figure 2-1
今日まで大きな進歩を遂げてきた 3 成分連結反応によるアルキニルケトン合成 反応であるが、いずれの場合も芳香族ハロゲン化物やビニルハロゲン化物、ビニル トリフラートおよびアニリン誘導体を出発原料としており、単純なアルキルハロゲ ン化物を用いたアルキルアルキニルケトン合成反応はこれまでに報告されていな い。これは脂肪族ハロゲン化物の遷移金属触媒への酸化的付加が非常に遅く、また 酸化的付加後に形成されるアルキル―遷移金属種の-水素脱離が速いことに起因 していると考えられる9)。
一方、第1章で述べたようにPd/h条件下、アルキルヨウ化物と一酸化炭素から 対応するアシルパラジウム中間体が形成されていることを示す結果を得た。そこで この知見を活かすことで、アルキルヨウ化物、一酸化炭素、末端アセチレンを原料 とした 3 成分連結反応によるアルキルアルキニルケトンの合成が可能となると考 え検討を開始した(Scheme 2-5)。
Scheme 2-5
以下、第2節ではアルキルヨウ化物、一酸化炭素、芳香族アセチレンを用いた3 成分連結反応についてその反応条件の最適化検討および基質一般性に関する検討 結果について述べる。第3節では脂肪族アセチレンを用いた反応における反応条件 の最適化と基質一般性について述べる。第4節では本反応の反応機構について述べ る。
第2節
アルキルヨウ化物、一酸化炭素、芳香族アセチレンを用いた3成分連結反応
1-ヨードオクタン(1a)とフェニルアセチレン(2a)を用い、一酸化炭素45気 圧下にて検討を開始した(Table 2-1)。触媒に Pd(PPh3)4を用い、塩基には Et3N を用いてベンゼン中にてXeランプ(500 W)を20時間照射した結果、目的のアルキ ルアルキニルケトン3aが1H NMR収率16%で得られた(entry 1)。次に触媒に PdCl2(PPh3)2を用いたところ、僅かな収率向上が認められた。(entry 2)。第1章 での結果と同様に反応系への水の添加により収率が劇的に改善され、単離収率71%
で3aが得られた(entry 3)。塩基をピリジンへ変更したところ、3aの生成はほと んど見られなかった(entry 4)。一方、触媒と光による効果を検討するため、それ ぞれのブランク実験を行った。その結果、触媒と光のいずれが欠けても所望の反応 は進行しないことが明らかとなった(entry 5, 6)。また光源についても検討を行っ
ており、Xeランプ300 Wでは原料が多量に残存し、またクオーツ内挿管の使用も
同様の結果をもたらすことを確認している。
Table 2-1
次にCO圧について2-ヨードオクタン(1b)を用いて検討を行った(Table 2-2)。 その結果、45気圧下では原料1bと目的物3bの比が25/75であったが、80気圧へ
加圧することで39/61となり、一酸化炭素の加圧による収率向上は見られなかった
(entry 1, 2)。また同様の基質を用い、フェニルアセチレンの当量を増やして反応
を行ったが、目的物の比率は大きく減少する結果となった(entry 3)。
Table 2-2
I + CO + Ph
h (Xe, Pyrex) PdCl2(PPh3)2 Et3N (1.2 equiv) C6H6/H2O = 10/1 20 h
O
Ph
entry acetylene
(equiv) cat. (mol %) CO (atm) 1H NMR ratio
1b 3b
1 1.6 7.4 45 75
2 3
1.3 4.9 80 61
6.4 6.6 45
25 39
84 16
1b 2a 3b
次に水の添加量について原料と目的物の比率に関する検討を行った(Table 2-3)。 その結果、C6H6に対する水の添加量は 10/5 でも大きな変化は見られなかったが、
水のみでは全く反応は進行しなかった(entry 3, 4)。
Table 2-3
以上の検討より最適な反応条件を見出すことができたことから、アルキルヨウ化 物に関する基質展開を行った(Table 2-4)。アルキルヨウ化物は第1級だけではな く、第2級や第3級アルキルヨウ化物も適応可能であることが示され、本反応の広 い構造多様性が示された。またクロロ基、エステル基、シリルエーテル基等の官能 基が存在しても所望のアルキルアルキニルケトンを与えたことから、本反応の高い 官能基許容性が示された。
Table 2-4a
O Ph
Ph
O
Ph
O
Ph
3c 65%
3d 57%
3e 74%
R I CO
O
+ + Ph R
h (Xe, Pyrex) Ph PdCl2(PPh3)2(5 mol %) Et3N (1.2-1.4 equiv) 45 atm
1 0.1 M 2a C6H6/H2O=10/1 20 h
entry R-I 1 ketones3 yield (%)b
3
2
3
4
6
7
Ph I
I
I 1c
1d
1e
O
Ph
3b 65%
1
1b I
O Ph
3f 70%
5
I
Cl I
1g
I 1h O
O
TBSO 1i I
Cl
O Ph
O
O
Ph
O TBSO
O
Ph
3g 70%
3h 63%
3i 53%
8
1f
a: Conditions: 1 (0.5 mmol); 2 (1.2-1.3 equiv); catalyst, PdCl2(PPh3)2(5 mol %);
base, Et3N (1.2-1.4 equiv); benzene (5 mL); H2O (0.5 mL); CO (45 atm);
light (500 W xenon lamp, Pyrex). b: Isolated yield by silica gel chromatography.
次に開環および閉環をともなうラジカルカスケード反応を利用した 3 成分連結 反応について検討を行った(Scheme 2-6)。シクロプロピルメチルヨージド(1j) を用い、一酸化炭素とフェニルアセチレン(2a)による反応を行ったところ、シク ロプロピルカルビニルラジカルの開環が生起し、オレフィン部位を有するアルキル アルキニルケトン3jを42%の収率で得た10)。一方、5-ヨード-1-ヘプテン(1k)を 用いた場合、一酸化炭素によるカルボニル化―5-exo環化―カルボニル化―アルキ ニル化という機構を経て形成されたシクロペンタノン骨格を有するアルキルアル キニルケトン3kが41%で得られた。また類似のアルキルヨウ化物1lを用いると、
縮環構造を有する目的物3lが30%の収率で得られた。これらの結果は、第1章で
述べた Pd/h系における多成分連結反応によるエステル誘導体合成反応と同様に
本反応がラジカル機構で進行していることを示唆している。
Scheme 2-6
以上、第1節ではアルキルヨウ化物、一酸化炭素、芳香族アセチレンを用いた3 成分連結反応によるアルキルアルキニルケトン合成反応が、Pd/h条件において良 好に進行することを見出した。
第3節
アルキルヨウ化物、一酸化炭素、脂肪族アセチレンを用いた3成分連結反応
第2節では芳香族アセチレンを用いた反応について述べた。本節では脂肪族アセ チレンを適応可能とするために行った検討結果ならびに基質一般性について述べ る。
1-ヨードオクタン(1a)に対して 1-オクチン(2b)を用い、フェニルアセチレ ンの時と同様の条件で反応を行ったところ、所望のアルキニルケトン3mの収率は 40%であった(Scheme 2-7)。また副生成物としてノナン酸無水物(4)が22%で 得られた。この生成機構については次節で述べる。この副反応の生起は、脂肪族ア セチレンの反応性が芳香族アセチレンと比較して低いことに起因していると考え、
アセチレンの使用量を5.2当量へ変更して反応を行ったところ、目的のアルキニル ケトン3mの収率が88%まで向上した。
Scheme 2-7
また同様の傾向はTMSアセチレン2cを用いた場合にも見られた。TMSアセチ レンを1.6当量用いて反応を行った場合、所望のアルキニルケトン3nの収率は38%
であり、酸無水物4の生成が24%であった(Scheme 2-8)。上記と同様にTMSア セチレン 2c を増量した結果、無水物の生成は完全に抑制され、アルキニルケトン 3nの収率は58%まで向上した。
Scheme 2-8
以上の検討より、脂肪族アセチレンの場合における最適条件を見出すことができ たため、1-オクチン(2b)と TMS アセチレン 2cを用い、アルキルヨウ化物の一 般性について検討を行った(Table 2-5)。いずれのアセチレンを用いた場合におい ても、第1級のアルキルヨウ化物だけではなく第2,3級のアルキルヨウ化物でも反 応は良好に進行し、対応する目的物を与えた。
Table 2-5
O
C6H13
3p 76%
O
TMS
3r 44%
O
C6H13
O
TMS
3o 70%
3q 40%
R I CO
O
+ + R' R
h (Xe, Pyrex) R' PdCl2(PPh3)2(5 mol %) NEt3(1.2-1.4 equiv) 45 atm
1 0.1 M 25 equiv C6H6/ H2O = 10 / 1 20 h
entry R-I 1 alkynes2 ketones3 yield (%)b 3
2b
2b
2c
2c I
I
I
I 1b
1f
1b
1f 1
2
3
4
a: Conditions:1(0.5 mmol);2(5.0 equiv); catalyst, PdCl2(PPh3)2(5 mol %);
base, NEt3(1.2-1.4 equiv); benzene (5 mL); H2O (0.5 mL); CO (45 atm);
light (500 W Xe lamp, Pyrex). b: Isolated yield by silica gel chromatography.
以上、第3節では脂肪族アセチレンを用いた3成分連結反応によるアルキルアル キニルケトン合成反応について述べた。芳香族アセチレンの時と同様にアルキルヨ ウ化物に対して小過剰の脂肪族アセチレンを用いた場合、カルボン酸無水物が副生 成物として得られたが、過剰量(5当量)用いることで副反応を抑えることができ、
目的物が良好に得られることを見出した。
第4節 反応機構の考察
本反応の想定反応機構を1kとフェニルアセチレン(2a)の反応を例に下記に示 した(Scheme 2-9)。第1章 第4節で述べたように、光照射条件下、Pd(0)から の1電子移動によりアルキルラジカルAが生成する11)。なお、この時に生じるPd(I)I はその 2量体との平衡が存在していると考えられる12)。アルキルラジカル Aが一 酸化炭素を捕捉後、5-exo環化によりシクロペンタノン骨格を有するアルキルラジ カル Cが形成される。COの捕捉によりアシルラジカルD となった後、Pd(I)Iと のカップリングによりアシルパラジウム中間体 E が形成され、フェニルアセチレ ンと反応後、還元的脱離によってアルキニルケトンとPd(0)が再生される。
Scheme 2-9
脂肪族アセチレンを小過剰量用いた際に副生成物として得られたカルボン酸無 水物は下記の機構により形成されたと考えられる(Scheme 2-10)。アルキルヨウ
化物から Pd/h 条件により生成するアシルパラジウム中間体が系中に存在する
H2Oにより加水分解されることでカルボン酸となり、これがアシルパラジウム中間
体と反応することでカルボン酸無水物4が生成する。このような加水分解が生起す る要因として、アシルパラジウム中間体への反応性が芳香族アセチレンに比べて脂 肪族アセチレンの方が劣ることに起因していると考えられる。
Scheme 2-10
第5節 結論
Pd/h系を利用したアルキルヨウ化物と一酸化炭素、末端アセチレンの3成分に
よるアルキルアルキニルケトン合成反応について検討を行った結果、下記に示す結 果を得ることができた。
1. アルキルヨウ化物、一酸化炭素、フェニルアセチレンによる3成分連結反応が Pd/h条件において良好に進行し、対応するアルキルアルキニルケトンが高収 率で得られることを見出した。本反応は第1級のアルキルヨウ化物のみならず 第 2,3級のアルキルヨウ化物を用いることが可能であり、また種々の官能基を 有するアルキルヨウ化物においてもこれらを損なうことなく目的の反応が進行 した。
2. 芳香族アセチレンだけではなく、脂肪族アセチレンを用いた場合でもその当量 を増やすことで所望の反応が良好に進行することを見出すことができた。
3. 一般的にアルキルハロゲン化物の遷移金属触媒への酸化的付加は非常に遅く、
また生成するアルキル遷移金属種の水素脱離が非常に速いことから、アルキル ハロゲン化物を用いた同様の反応例はこれまでになかった。しかし、これまで とは異なるアプローチであるラジカル機構を経る本反応は、これまで実現不可 能であったアルキルヨウ化物、一酸化炭素、末端アルキンによるアルキルアル キニルケトン合成反応を実現可能なものとすることができた。