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1.8 第 1 章のまとめ
この章ではまず,本研究で対象とする11個の副動詞について,結合する文法要素によって 定形性を調査し,結果を表5に示した.いくつかの副動詞はその意味と定形性によって,い くつかに分類した.第2章以降は,表5の副詞節の定形性を基準に,朝鮮語の副動詞間の関 係を探っていく.続く第2章では,第3章からの本格的な考察に入る前に,朝鮮語の副動詞 接辞が広義の意味で文法化して様々な機能を果たしたり,語彙化した例について整理し,本 研究の対象を明確にする.そして,副動詞形が文法化する場合にも副詞節の定形性が関連し ていることを指摘する.
第 2 章
副動詞と他の文法要素との連続性
朝鮮語の副動詞形は,助詞へと機能的な変化を遂げたり,他の文法的要素の一部になったり と,副詞節として述語修飾の機能を果たさない場合がある.1本研究で対象とする副動詞接辞 は,前述したように-key, -myense, -taka, -teni, -(a/e)se, -ko, -nikka, -myen, -(a/e)to, -nuntey/-ntey,
-cimanであるが,次の第3章から本論に入る前に,本研究で対象とする副動詞の範囲を限定
しておくと同時に,副動詞形と様々な機能とその連続性について整理しておきたい.ここで 検討するのは,(i)副動詞形が複合動詞の前部要素になる場合,(ii)副動詞形が補助用言を導 き,迂言的形式を形成する場合,(iii)副動詞形が助詞として機能する場合,(iv)補文節(引用 節)を形成する場合,(v)副詞として語彙化している場合の五つである.
(i)副動詞形が複合動詞の前部要素になる場合
朝鮮語の「動詞+動詞」複合語には,動詞の語根動詞が直接結合する場合と,前部要素の 動詞が副動詞形となって結合する場合とがある.前者の場合にはo#ka- (来る#行く-)「行き来 する」のようないくつかの動詞があり,このような語根同士が接続された複合動詞は現代朝 鮮語よりも中期朝鮮語2においてより生産的だった.ここで検討する必要があるのは後者の場 合で,特に本研究の対象である副動詞接辞-koが前部要素の動詞に接続する場合が考察対象 となる.つまり,二つの動詞が副動詞接辞-koによって接続されているとき,それが複文な のか,複合動詞なのかということが問題になるのである.
(ii)副動詞形が補助用言を導き,迂言的形式を形成する場合
日本語の「〜ている」のように副動詞接辞と動詞が文法化し,迂言的形式となる場合があ る.朝鮮語の場合は,進行を表すアスペクト形式-ko iss- (-advいる-)「〜ている」をはじめ,
1日本語でこのテーマについて詳しく扱っている研究に高橋(2003)がある.ここでは「動詞が動詞らしさをう しなうとき」として,動詞が他の品詞となる例を挙げている.
2朝鮮語の時代区分に関しては河野(1979)に従う.河野(1979: 67)は朝鮮語の時代区分を古代朝鮮語(ハング ルが発明された1443年以前)と,中期朝鮮語(1443年から壬辰(文禄)の役の1592年まで)と,近世朝鮮語
(それ以降現代まで)に区分している.なお,この区分は一般に韓国で行われる朝鮮語の時代区分とは重なら ない部分がある.
他の補助用言を導く場合も前部要素が副動詞形となっている.さらに,後部要素である補助 用言も副動詞形の場合しか存在しない-ko na-se (-adv出る-adv.seq)「〜し終わってから」, -ko na-ni (-adv出る-adv.fctc)「〜し終わると」, -ko na-myen (-adv 出る-adv.cond)「〜し終わった ら」の場合にも前部要素が副動詞形となっており,このような場合,前部要素が単なる副動 詞形なのかどうかが問題となる.
(iii)副動詞形が助詞として機能する場合
英語の‘considering’や日本語の「〜について」のように,非定形動詞が接置詞(adposition)
として機能する場合がある.Haspelmath (1995: 38)はその他にも,副動詞から接置詞へと機 能変化した例として,ドイツ語の entsprechend ‘according to’ (entsprechen ‘correspond’から), ロシア語のspustja ‘after’ (spustit’ ‘let down’から)やトルコ語のgöre ‘according to’ (gör- ‘see’
から)のような例を挙げている.朝鮮語もこのように動詞の副動詞形に由来する助詞を有して おり,これが単に動詞の副動詞形なのか,助詞なのかの区別が問題となる.このような助詞 として機能する動詞の副動詞形には菅野(2006b)が「分析的な形」と呼ぶものが多く含まれ る.形態的には「格助詞+動詞の副動詞形」が助詞として機能する場合と,動詞の副動詞形の みが助詞として機能する場合がある.前者には=ey tayhay-se/tayha-ye (=dat+対する-adv.seq)
「…について/対して」,=lul/=ul wihay-se/wiha-ye (=acc+ためだ-adv.seq)「…のために」など が,後者には-∅po-ko (-∅見る-adv.seq)「…(人に)向かって」, -∅chi-ko (-∅見なす-adv.seq)
「…として」などがある(菅野2006b: 116-118).「格助詞+動詞の副動詞形」は副動詞形だけ でなく形動詞(連体)形になる場合もある.本研究では「格助詞+動詞の副動詞形」の場合 を複合格助詞と呼んで,格助詞と区別しておく.
これまでに挙げた三つの場合の構造を提示すると,(2-1)のようになる.3ここで,Vは動詞,
PRTCは助詞,AUXは助動詞を表す.(i)複合動詞は,(2-1a)に示したように,二つの動詞が 一つの述語として振る舞う.(ii)補助動詞も(2-1b)のように二つの動詞が一つの述語として振 る舞い,V1とV2の間に入ることができるのは一部の焦点助詞だけである点は複合動詞と同 様だが,V2が文法化しているという点で異なる.(ii)補助動詞と(iii)助詞を比べると,(2-1b,
2-1c)に見るようにV1, V2のうちどちらが文法化しているかという点で違いがある.(2-1c)
では,述語として機能するのはV2のみである.
(2-1) a. 複合動詞
V1 (prtc) V2 ← V1 V2
b. 補助動詞
V1 (prtc) aux ← V1 V2
c. 助詞
prtc V2 ← V1 V2
3大堀(2002: 191-195)では,動詞が助動詞,後置詞へと文法化するプロセスについて論じている.(2-1b, 2-1c)
は大堀(2002: 191)で提示されている図を参考にした.
(iv)補文節(引用節)を導く場合
朝鮮語では,副動詞接辞の-koは用言の終止形に接続して補文節を導く.副詞節と補文節 の連続性は,Croft (2011)が複文(complex sentence)の四つのタイプの連続性を論じながら提 示している図2によっても支持される.図2からわかるように,副詞節(adverbial clauses)と
補文節(complements)は様々な言語で連続性が確認される.
図2 複文タイプの連続体(Croft 2011: 322)
(v)副詞として語彙化している場合
副動詞形が述語修飾の機能を保ちながらも形態的に固定化され,副詞として語彙化してい る例がある.このような場合についても,単に用言の副動詞形と見るか,副詞と見るかが問 題となるが,判断が難しい場合もある.ここでは,kuleha-「そうだ」に副動詞接辞が付くこ とで形成される一連の(接続)副詞も一緒に扱うことにする.この「kuleha-+副動詞接辞」が 接続詞なのか副詞の一種なのか,それとも単に用言の活用形に過ぎないのか,といったこと が問題となる.接続詞という品詞を設けるかどうかについては,朝鮮語研究の中で様々な見 解が出されている.本研究ではなにを接続詞と認めるかという議論にまでは立ち入らないこ ととする.重要な点は朝鮮語の「kuleha-+副動詞接辞」という語形成を持つ,文と文を繋ぐ 副詞は,日本語の「そうして」「それから」のように指示語に各種の副動詞接辞が接続して形 成されているということである.朝鮮語,日本語と同じ「アルタイ型」言語4であるモンゴル
4亀井・河野・千野編(1996: 28-29)は言語類型論的な観点から「アルタイ型」という類型を立て,そのような言 語の特徴として,第一に連辞性があり,第二に主文述語が文末に置かれることだと述べている.「アルタイ型」
言語には,日本語,朝鮮語だけでなくニヴフ語やドラヴィダ語族の言語など,様々な言語が含まれうる.
語にも,指示動詞tegex「そうする」の完了副動詞形がtegeed「そして,それで」,仮定形が
tegvel「それなら」のように接続詞として使われる例がある(山越2012: 187).
以下,(i)から(v)の場合について,順に考察していく.