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4.1 副動詞と焦点助詞の結合可能性
主題や対照を表す=nun/=un「は」,添加を表す=to「も」,限定を表す=man「だけ」など は,韓国の研究では限定詞(delimiter),補助詞,あるいは特殊助詞などと呼ばれる.日本語に も類似した統語的,意味的特徴を持つ助詞があり,これらはしばしば副助詞やとりたて助詞 と呼ばれる.本研究ではなるべく朝鮮語研究や日本語研究に依存した術語にならないように,
これらの助詞を焦点助詞 (focus particle)と呼ぶことにする.ただし,先行研究を引用する場 合は引用元の術語を使用することとする.
朝鮮語の研究において,なにを焦点助詞に含めるかは研究者の間でも意見が分かれる.こ れまでの先行研究で,どのような要素が特殊助詞や補助詞の名の下に扱われてきたかは,ホ ン・サマン(2002: 112-113),任(2006: 51)にまとまっている.任(2006)で検討している先行 研究では8から23個の焦点助詞を挙げている.
副動詞接辞と焦点助詞の結合可否について調査した研究として,蔡琬(1977),徐泰龍(1979),
洪思滿(1983)を取り上げる.蔡琬(1977: 12)は副詞形の語尾と連結形の語尾を四つずつと,
九つの焦点助詞の結合可否を報告している.副動詞接辞については本研究の対象と重なると ころが少ないため詳細は割愛するが,焦点助詞=nama「だけでも」,=kkaci「まで」,=cocha
「さえ」,=mace「まで」との結合に制約があるとしている.徐泰龍(1979)は10個の焦点助 詞と,20個の副動詞接辞の結合可否について調査している.表21がその結果である.本研 究で対象としている副動詞接辞はボールドにして示してある.表21を見ると,-key, -(a/e)se,
-myense, -takaは全ての焦点助詞と結合可能である一方,-(a/e)toは一つも結合可能な場合がな
い.-cimanと-myenは主題の=nun/=unのみと結合可能である.
これに対して洪思滿(1983: 28-29)は副動詞に後接する焦点助詞として,次の15個の焦点助 詞を挙げている:nun, to, man, ppwun, pwuthe, kkaci, pakkey, na, tunci, ntul, lato, nama, ya, mace,
cocha. 1洪思滿(1983: 28-29)の示している活用語尾と特殊助詞の結合可否は表22のとおりで
ある.表22を見ると,本研究で対象としていない-a/e (adv.seq), -ci (nmlz)2, -lyeko「〜しよう
と」, -le「〜しに」, -tolok「〜するように」が含まれているが,=ppwun「〜のみ」を除くと,
ほとんどの焦点助詞が本研究で言うところの副動詞接辞に後接可能とされている.
徐泰龍(1979),洪思滿(1983)では,副動詞接辞と焦点助詞の結合の可否をどのように導き
出したのかを明言していない.さらに,副動詞が表す意味によっては,焦点助詞が結合でき るかに差があるにも関わらず,両研究では副動詞が表す意味による結合可否に関しては考慮
1洪思滿(1983)では焦点助詞を特殊助詞と呼んでいる.洪思滿(1983)はこの15個の焦点助詞に=mata「ごと
に,(の)たびに,おきに」を加えた16個を焦点助詞と認め,研究対象としている.
2洪思滿(1983)は-ciを副詞形と見ているが,これは名詞形と考えたほうがよいであろう.
表21 接続語尾と特殊助詞の結合可否(徐泰龍1979: 35)
nun to ya man na lato nama kkaci cocha mace
-le ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
-lyeko ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
-koca × × × × × × × × × ×
-tolok ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○? ○?
-key ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
-kose ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
-(a/e)se ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
-myense ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
-ni ×? × × ×? × × × × × ×
-taka ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
-ca × × × × × × × × × ×
-na × × × × × × × × × ×
-(a/e)to × × × × × × × × × ×
-ciman ○ × × × × × × × × ×
-toy × × × × × × × × × ×
-myen ○ × × × × × × × × ×
-ketun × × × × × × × × × ×
-(a/e)ya × × × ○ × × × × × ×
(羅列) -ko × × × × × × × × × ×
-mye × × × × × × × × × ×
表22 活用語尾と特殊助詞の結合可否(洪思滿1983: 28-29)
活用語尾(前)
特殊助詞(後)
nun to man ppwun pwuthe kkaci pakkey na tunci ntul lato nama ya mace cocha
-a/e + + + - + + - + + + + + + + +
副詞形 -key + + + - + + + + + + + + + + +
-ci + + + - + + + + - + + + + + +
転成語尾
-ko + + + - + + - + - + + + + + +
羅列形 -myense + + + - + + + + + + + + + + +
説明形 -nuntey + + + - + + + + + + + + + + +
中断形 -taka + + + - + + + + + + + + + + +
意図形 -lyeko + + + - + + + + + + + + + + +
接続形語尾
目的形 -le + + + - + + + + + + + + + + +
到及形 -tolok + + + - + + + + + + + + + + +
していない.唯一表21では羅列の意味の-koを設けているが,継起を表す場合の-koについ ては言及がないといった具合である.そこで,本研究では第1章で提示した表5にしたがっ て副動詞の意味分類をしたうえで,副詞節の定形性が低いほど表の上,高いほど下に配置し,
焦点助詞との結合可否を調査した.焦点助詞は洪思滿(1983)が挙げているリストに従った.
その結果が表23である.焦点助詞については結合数が多いものほど右端に配置してある.焦 点助詞の方から見て,どのような焦点助詞が名詞句以外の様々な要素と結合することができ るかどうかを明らかにすることも重要であるが,本研究では詳しい考察は行わない.
表23 基礎資料の調査による副動詞接辞と焦点助詞の結合可否
副動詞接辞
焦点助詞
ntul mace ppwun pakkey tunci nama cocha na kkaci man pwuthe lato to ya (n)un 様態-key1 × × × ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 継起-(a/e)se1 × × × × ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
同時-myense1 × × × × × × ○ × ○ ○ × ○ × × ○
時間-(a/e)se2 × × × × × × × × × × ○ × ○ ○ ○ 目的-key2 × × × × × × × × × × × × × × × 継起-ko × × × ○ × × × ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
契機-myense2 × × × × × × × × × × ○ × × ○ ○
契機-nikka1 × × × × × × × × × × × × × × ○
中断-taka × × × × × × × × × × × ○ ○ ○ ○
契機-teni × × × × × × × × × × × × × × ×
譲歩-(a/e)to × × × × × × × × × × × × × × ×
逆接-myense3 × × × × × × × × × × × × ○ × ×
原因-(a/e)se3 × × 〇 × × × × × × × × ○ × × ×
条件-myen × × × × × × × × × × × × × ○ ○
理由-nikka2 × × × × × × × × × × × × × × ○
逆接-ciman × × × × × × × × × × × × × × ×
逆接-nuntey/-ntey × × × × × × × × × × × × ○ ○ ×
この表23の結果は,先ほどの表21,表22と比較すると,異なる点はあるものの,表 21 と近い結果となった.-key, -(a/e)se, -myenseに接続する焦点助詞が比較的数が多く,-(a/e)to,
-ciman, -myenは接続する例がないか,比較的数が少ない.ただ,-takaについては,本研究の
調査では,結合例が少ない結果となった.表23の結果について,いくつか指摘しておこう.
まず,大体において表の下にある副動詞接辞ほど焦点助詞が結合する例が少ない.つまり,
副詞節の定形性が低いほど焦点助詞が結合しやすく,定形性が高いほど焦点助詞が結合しに くいということである.1.6.2でも述べたように,他動詞を述語とする主節が最も定形性の度 合いが高く,逆に名詞化節が最も定形性の度合いが低いということになる.焦点助詞が付く のは,典型的には名詞句(節)である.よって,定形性の低い副詞節ほど焦点助詞が結合しや すいという今回の結果は,定形性の観点からも説得力がある.
ただし,次に述べることとも関連するが,定形性のみが影響を与えているわけではなさそ うである.契機の-teniと譲歩の-(a/e)toを見ると,これらは結合例が一つもない.-teniは回 想を表すとされる接尾辞-te-に理由などを表す副動詞接辞 -niが付いて形成された副動詞接 辞である.副動詞接辞-niは結合する焦点助詞がないと考えられるため,元々焦点助詞が付 かない-niを構成要素として持つために-teniにも焦点助詞が付かないと解釈することもでき る.譲歩の-(a/e)toについても,副動詞接辞-a/eに焦点助詞=to「も」が付いて形成されてお り,元々焦点助詞が付いているために後にはもう焦点助詞が付かないのだと考えることがで
きる.ただ,条件の-myenは副動詞-myeと主題,対照を表す=nが付いて形成されているに も関わらず,さらに=unが付くことが可能である.-myenの方は完全に文法化していると説 明することもできるかもしれないが,結合の可否の理由を全て説明するのは難しい.最後に,
この表23の結果はあくまで基礎資料に結合例があったかなかったかを示しただけであり,こ こで○になっていない組み合わせも存在する可能性がある.例えば,後述するように,逆接 -nuntey/-nteyには特に話しことばで=nun/=unが後接する例がある.焦点助詞=mace「〜ま で」も結合例がなかったが,節の定形性が低い副動詞であれば,結合する例はあると考えら れる.ただ,基礎資料に出現しなかった組み合わせに関しては実際の例を検討しつつ考察で きないため,本研究ではひとまず出現しなかった組み合わせに関しては深入りしないことに する.