↑ 低
2.4 副動詞と複合格助詞との連続性
2.3で概観したように,他の言語と同様に朝鮮語にも用言の副動詞形が助詞として振る舞う 場合があり,先行研究を参照しつつ,現時点で助詞と認められるものを区別しておいた.用 言の副動詞形が助詞として機能する場合の他に,「格助詞に相当する働きをしており,ある一 定のまとまった形式になっていると考えられる」(塚本2012: 137)複合格助詞が存在する.11日 本語では例えば「〜について,〜に関して,〜を通して,〜をはじめ」などがある.朝鮮語 にも日本語と同様に複合格助詞があり,塚本(2012: 137)によれば,朝鮮語の複合格助詞は形 態の違いから次の(2-41)のように分類できる.(2-41a)の(ii)は漢字語に付くha-「する」に関 して,副動詞形hayeの縮約形hayになる場合があるが,全ての場合に縮約形が存在するわけ ではないため,括弧付きで示しているという(ibid.: 137).
(2-41) a. i. 単一連用格助詞+動詞連用形
(ii. 単一連用格助詞+動詞連用形の縮約形)
iii. 単一連用格助詞+動詞連用形(の縮約形)+接続語尾「서〈se〉」
b. (単一{連体/連用}格助詞+)名詞+単一連用格助詞
(塚本2012: 137) 本研究の対象と重なるのは(2-41a)の(iii)の場合であるが,参考までに塚本(2012: 138-140) に挙げられている(2-41)の具体例を示す.ここで本研究の対象として問題となるのは(2-42a) のうち-(a/e)seの形を取ったものである.対象となる語形をボールドにして引用する.
11菅野(1988: 1009)は後置詞を「体言や用言の直後に付く付属的な単語.副詞的なものと冠形詞的なものとがあ
り,前者には一部のとりたて語尾が付き得る.」として,菅野(1988: 1017)でkwanhaye「関して」, tayhaye「つ いて」, inhaye「よって」等,塚本(2012)で複合格助詞と呼んでいるものを挙げている.しかしその後,菅野
(2006a: 167-168)ではこれらを「補助的な単語」あるいは「補助語」と呼び,後置詞として特別に品詞を立て
る必要はないだろうと述べている.朝鮮語においてなにを後置詞とするかは研究者の間で見解が異なるため,
本研究では塚本(2012)にしたがい,=ey kwanhaye「〜に関して」などを複合格助詞と呼んでおく.
(2-42) a. i. =ey {kwanhaye/kwanhay/kwanhayse}「〜に{関し/関して};〜に{つき/
ついて}」,
=ey {kelchye/kelchyese}「〜に{かけ/かけて};〜に{わたり/わたって}」,
=ey {tayhaye/tayhay/tayhayse}「〜に{対し/対して};〜に{つき/つい て}」,
=ey {ttala/ttalase}「〜に{従い/従って}」,
=ey {uyhaye/uyhay/uyhayse}「〜に{より/よって}」,
=ey {issese}「〜にあって;〜において;〜に{あたり/あたって}」,
=ey {cuumhaye/cuumhayse}「〜に{際し/際して};〜に{あたり/あたっ て}」,
=ey {hanhaye/hanhay/hanhayse}「〜に{限り/限って}」
ii. =lul/ul {piloshaye/piloshay/piloshayse}「〜をはじめ」,
=lul/ul {wisihaye/wisihay/wisihayse}「〜をはじめ」,
=lul/ul {wihaye/wihay/wihayse}「〜のために〈目的〉」,
=lul/ul {thonghaye/thonghay/thonghayse}「〜を{通じ/通じて};〜を通して」
iii. =lo/ulo {inhaye/inhay/inhayse}「〜に{より/よって}〈原因〉」,
=lo/ulo malmiama「〜に{より/よって}〈原因〉」 b. i. =uy tekthaykulo「〜のおかげで」,
=uy taylilose「〜の代わりに」
ii. ={wa/kwa} machankacilo「〜と同様に」
iii. ={wa/kwa}(nun) pantaylo「〜と(は)反対に」
iv. ~ ttaymwuney「〜のために〈原因・理由〉;〜のせいで」,
~ tekpwuney「〜のおかげで」,
~ taysin{ey/ulo}「〜の代わりに」
(塚本2012: 138-140)
菅野(2006b: 116-118)は体言に接続する分析的な形のうち助詞相当のものに,塚本(2012)
で言及のなかった形式も挙げている.本研究で対象とする副動詞の形を取ったものを菅野 (2006b: 116-118)から挙げると,次の(2-43)のとおりである.
(2-43) a. 与位格に続く複合格助詞
=ey panhayse「〜に反して」
=ey ceyhayse「〜に際して」
=ey tayko「〜に対して」
=ey=to pwulkwuhako「〜にもかかわらず」
b. 対格に続く複合格助詞
=lul/=ul hyanghayse「〜に向かって」
=lul/=ul maklonhako「〜を問わず」
=lul/=ul pwulmwunhako「〜を問わず」
=lul/=ul sikhyese「〜をして(せしめる)」
=lul/=ul nohko「〜に対して」
=lul/=ul twuko「〜について」
c. 具格に続く複合格助詞
=lo/=ulo hayse「〜を経由して」
d. 焦点助詞「〜だけ」に続く複合格助詞
=man hayto「〜だけでも」
e. 主題標識に続く複合格助詞
=nun/=un kosahako「〜はさておき,〜どころか」
(菅野2006b: 116-118)
塚本(2012: 143-147)では,(2-42a)にある例が単なる動詞の副動詞形とは異なり,ある一定
のまとまりを持った単位であることの証拠として,次の4点を挙げる.(i)格助詞と動詞副動 詞形の間にとりたて助詞(焦点助詞)を挿入できない,(ii)動詞が使役,受身,願望,否定な どによって形を変えることがない,(iii)与格助詞が有情物に付く場合でも無情物に付く場合 と変わらない,(iv)動詞が連体形を取る場合に過去の連体形を取ることが固定化している.(i) から(iv)の具体例を下で見ていこう.まず(i)について,=ey kwanhayse「〜に関して」の間 に焦点助詞の=to「〜も」が入っているが,このように間に他の要素を入れることは許されな
い.(2-44)の下線は引用者による.
(2-44) ∗sensayngnim=un
先生=TOP
i
この
mwuncey=ey=to
問題=DAT=も
kwanhay-se
関する-ADV.SEQ
hayselhay-ss-ta.
解説する-PST-DECL
∗선생님은 이 문제에도 관해서 해설했다.
「∗先生はこの問題にも関して解説した.」(塚本2012: 144)
次に(ii)について,(2-45)に示すように,例えば=ey kwanhayseに否定を表す-ci anh-を結 合させることはできない.
(2-45) ∗sensayngnim=un
先生=TOP
i
この
mwuncey=ey
問題=DAT
kwanha-ci
関する-NMLZ
anh-ase
NEG-ADV.SEQ
hayselhay-ss-ta.
解説する-PST-DECL
∗선생님은 이 문제에 관하지 않아서 해설했다.
「∗先生はこの問題に関さないで解説した.」(塚本2012: 144)
続いて(iii)について,朝鮮語の与格助詞は無情物に付く場合は=ey,有情物の場合は=eykey
あるいは=hantheyとなるが,(2-42a)に示された複合格助詞の場合,与格助詞が付く対象が有
情物であっても=eyが用いられる.
(2-46) a. tam{=ey/∗=eykey} kwanhay(se); tayhay(se); uyhay(se) 담{에/∗에게}관해(서);대해(서);의해(서)
「塀に 関し(て);対し(て);より/よって」
b. sensayngnim{ey/∗eykey} kwanhay(se); tayhay(se); uyhay(se) 선생님{에/∗에게}관해(서);대해(서);의해(서)
「先生に 関し(て);対し(て);より/よって」
(塚本2012: 145) 最後に(iv)に関して,一部の動詞を除けば動詞の連体形は非過去も過去もどちらも取りう るが,ここで扱っている複合格助詞の場合,その連体形は(2-47), (2-48)のように過去の連体 形に限られる.
(2-47) inwen
人員
sakkam
削減
mwuncey=ey
問題=DAT
{∗kwanha-nun
関する-ADN.NPST
/kwanha-n}
関する-ADN.PST
hyepuy
協議
인원 삭감 문제에{∗관하는/관한}협의
「人員削減の問題に{関する/∗関した}協議」(塚本2012: 147) (2-48) manh-un
多い-ADN.NPST
salam=tul=uy
人=PL=GEN
him=ey
力=DAT
{∗uyha-nun
依る-ADN.NPST
/uyha-n}
依る-ADN.PST
kwuchwul
救出
많은 사람들의 힘에{∗의하는/의한}구출
「多くの人達の力に{よる/∗よった}救出」(塚本2012: 147)
塚本(2012: 147)でも指摘するように,朝鮮語では過去の連体形だが,日本語では非過去の
連体形となる点が異なる.ちなみに(2-42)に挙がっている全ての複合格助詞が連体形を取る わけではない.詳しくは塚本(2012: 148-152)を参照されたい.
本研究ではこれらの複合格助詞を研究対象とはしないが,複合格助詞に焦点助詞が後接す る場合の例については第4章で言及する.