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ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 124-128)

総括

Ni,Mn,Co を遷移金属として使用する正極材料Li(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O2を使用し たリチウムイオン電池は,電気自動車の電池や定置型蓄電池として使用されてお り,市場での実績もある.ただし,今後の EV 化や再生可能エネルギーの増加に 伴うピークカット,ピークシフトの需要に応えるために,リチウムイオン電池の 生産量が拡大すると,リチウムの供給に問題が出る可能性がある.そのため,リ チウムイオン電池に替わる新型電池の開発は不可欠である.豊富に存在している ナトリウムを用いたナトリウムイオン電池は安価な二次電池として期待されてい る.筆者らはナトリウムイオンをインターカレーションゲスト,遷移金属の一部 に鉄を使用した O3 型遷移金属層状岩塩酸化物に着目した.ナトリウム含有系で はA+とM3+のイオン半径の違いが大きいため,結晶内でこれらの原子が入れ替わ るカチオンミキシングがリチウム含有系と比較して起こりにくいと考え,充放電 サイクルにおけるカチオンミキシングを伴う結晶構造変化による電池特性の劣化 を抑制できると予想され,これを検証するための研究を進めた.

第2章では,市場で使用されているリチウムイオン二次電池について層状岩塩 構造酸化物の劣化機構について述べた.内部抵抗の増大が確認された正極活物質 Li(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O2は,充放電サイクルにより表層にて立方晶岩塩構造への結晶 構造転移が確認された.この結晶構造転移は,反応サイトを減少させ,電解液/

活物質界面の電荷移動抵抗を増大させると考えられる.また,長期サイクルにお ける,Mn,Co の酸化物層,フッ化物層の存在もまた,反応サイトを減少させ,

電解液/活物質界面の電荷移動抵抗を増大させると考えられた.さらに,遷移金 属がリチウムイオンサイトへ移行するカチオンミキシングは,リチウムイオンの 固相内の拡散を阻害し,拡散抵抗を増大させると考えられた.

一方で,充放電サイクル試験において,正極,負極ともにリチウムイオンを挿

入,脱離する能力は失っておらず,充放電可能なリチウムイオンが減少している ことが明らかとなった.グラファイト表面にリチウムを含む皮膜が形成され,特 に長期サイクルにおいてLiOxの皮膜が厚く形成されることで,充放電可能なリチ ウムイオンが捕らわれ,結果として充放電容量を低下させていると考えられた.

高容量負極の候補であるSiのサイクル劣化機構についても述べた.充電深度の 浅い,理論容量の 30%である 1260 mAh/g においてもリチウムイオン挿入部は微 粉化していた.微粉化により電子伝導パスが切れることで,リチウムイオンの脱 離が阻害され,不可逆となっていた.XRDによりリチウムイオン挿入により非晶 質化し,さらに充電深度の深い 3500 mAh/g においては Li15Si4の結晶の形成が確 認された.このLi15Si4と電解液界面の電荷移動抵抗が,交流インピーダンスにお ける低周波数域に出現した反応抵抗であると考えられた.

3500 mAh/gまで充電した電極について,内部抵抗の解析により複数のリチウム

イオン挿入状態のLiSi化合物の電荷移動抵抗を確認した.低周波数域の反応が見 られたLi15Si4の他,Li12Si7,Li7Si3,Li13Si4が形成されるとの報告例あり,これら の反応に対応していると考えられた.

第3章では,ナトリウムイオンをインターカレーションゲストとし,遷移金属の 一部に鉄を用いたO3型層状岩塩構造酸化物であるNa (Fe1/3Mn1/3Co1/3)O2,Na (Ni1/3Fe1/3Co1/3)O2,Na (Ni1/3Mn1/3Fe1/3)O2,及びNa (Ni1/3Mn1/3Co1/3)O2を合成し,そ の電池特性,遷移金属の価数について述べた.ナトリウムイオン電池用の正極材 料として,新規のO3型層状岩塩構造であるNa (Fe1/3Mn1/3Co1/3)O2の合成に成功し た.対極を金属ナトリ ウムとしたハーフセル にて,25 ℃にて電圧範囲2.0-4.0 V,

0.05 Cにて可逆的に充放電が可能であることを確認した.放電容量84.4 mAh/g,平

均作動電圧3.25 Vを確認した.

遷移金属K端XAFS測定,及び57Feメスバウア測定にて,Na (Fe1/3Mn1/3Co1/3)O2

では,合成後ではFe, Coは3価,Mnは4価であることを確認した.充電によりFeは 3価,4価の混合となり,酸化還元反応への関与が認められた.Coは充電により3 価から4価となり,酸化還元反応へ関与する.一方で,Mnは4価のままで,酸化還 元反応へ関与しないことを明らかにした.

第 4 章では,ナトリウムイオン電池用の新しい O3 型層状岩塩構造である Na

(Fe1/3Mn1/3Co1/3)O2のサイクル劣化機構について述べた.1C レートで 100 サイ クル後の 95.0%の高い容量維持率と,50Cレートで 37 mAh/g(1C レートでの初 期容量の47%)の放電容量を備えた優れた電気化学性能を示した.

O3-Na(Fe1/3Mn1/3Co1/3)O2は O3-Li(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O2と比較して,優れたサイク ル特性を示した.充放電サイクル試験後のO3- Na(Fe1/3Mn1/3Co1/3)O2表面の結晶構 造変化はわずかであり,結晶構造の変化はリチウムの変化と比較して小さく,高 い結晶構造安定性を有していることが明らかとなった.

本研究により,仮説であったナトリウムをインターカレーションゲストとした O3-層 状岩塩 構造酸 化物 はカチオ ンミ キシン グ が起こり にく いこと が 実証され た.

O3 型層状岩塩構造の酸化物である O3-Na(Fe1/3Mn1/3Co1/3)O2が,優れた出力特 性,サイクル特性を有することを明らかにした.これは今後のナトリウム電池用 正極材料の有益な設計指針となると考えられる.本研究がさらなる高入出力特性,

長期サイクル特性を有する材料探索に繋がることを願う.

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