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福祉心理学への最初の一歩

教授  木 村  進

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れないし,その逆もあり得るということです。そこまで割り切ってしまうと 心理学が介入する余地はなくなりますが,その一歩手前で考えれば,幸福を 感じやすい条件というものがあるだろうということになります。その条件 は,感じる本人の条件でもあり,その人が存在する環境の条件でもありま す。どんな条件を持った人が幸福を感じやすいのかということと,どんな環 境に置かれた時に人は幸福を感じやすいのかということです。

 福祉心理学は,幸福ということを土台において,この 2 つの方向から人間 というものを理解しようとしています。

 別の角度から考えてみましょう。子どもには子どもの幸福があり,老人に は老人としての幸福があります。また,子育てにおいて幸福を感じる人もい れば,仕事の上で幸福を感じる人もいます。ですから,幸福の追求というの は,人間の生活のそれぞれの場面でなされなければならないわけです。した がって,福祉心理学は,縦軸に人の一生(生涯)というものを置き,横軸に その時その時の生活というものを置きながら展開されていくことになりま す。その時その時,それぞれの場面で人々が幸福感をもてるように心理学が 貢献するというのが福祉心理学の目標なのです。

◆ 3  人を見る目のあたたかさ 

 あまり学問的ではないのですが,上記のように考えてくると,私は,人を 理解し,人に働きかけをする時の目のあたたかさというのが気になってきま す。

 例えば,虐待をしている母親がいるとします。「子どもを叩くなんて鬼の ような母親だ」と決めつけるのは簡単ですが,「この母親だって叩きたくて 叩いているのではないだろう」と見ることもできます。「甘い!」といわれ ることを覚悟でいえば,福祉心理学を実践に移そうとするとき,後者の見方 が大切なのではないかと思っています。子どもを叩く母親は不幸です。この 母親が子育ての楽しさ,幸せを味わえるように援助していくのが福祉心理学 です。その時に,その母親をどう見るかということは重要な影響を持ってき ます。

 福祉心理学をいかに熱心に学習したとしても,人を見る目が変わるわけで はないでしょう。人を見る目は,その人の生き方の反映なのですから。福祉

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序章  ようこそ学びの世界へ

心理学は実践志向の分野だからこそ,その人の生き方も関係してくるという ところに,私はおもしろさを感じています。つまり,生き方とセットになっ た心理学の分野なのです。

◆ 4  おわりに   心理学の落とし穴  

 なまじ心理学を学習すると,人がわかったような錯覚に陥り,決めつけた 見方をするようになる危険性があります。そうならないためには,まわりの 人に(あたたかい)目を向けることです。心理学を学習する際に有利なこと は,私たちの周りにたくさんの生きた教材があるということです。つまり

「(まわりの)人から学ぶ」という姿勢を維持していけば,落とし穴に落ちる ことは避けられます。

 心理学を学べば学ぶほど,人がわからなくなっていく,人とつきあえばつ きあうほど,人がわからなくなっていくというのが本当なのではないでしょ うか。わからなくなっていくという意味は,相手にいろいろな可能性が見え てくるから断定できないということを意味しています。「まだ見えていない ところ(可能性)があるのではないか」という見方ができるようになること こそが,福祉心理学の目指すところであり,そのことが広い意味での「福 祉」の土台ではないかと考えています。心理学をしっかりと学ぼうとするな ら,その土台として「人とは何か」ということを考えておいてほしいと思い ます。

 福祉心理学科の学習内容については『福祉心理学科スタディ・ガイ ド』もご覧ください。

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誌上入門講義

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 「レポートの書き方がわからない」という声が多く通信教育部に寄せられ ていると聞きましたので,「レポートの書き方」について,私見を述べてみ たいと思います。「私見」というのは,この場合のレポートとは,それぞれ の科目における学習課題を意味しており,それは個々の担当教員の意図によ るものだからです。つまり,それぞれの課題を設定した教員によって,レ ポートの書き方についての考えが異なる場合もあることを意味しています。

ですから,ここには一般的なことを書いておきますから,それを踏まえて,

担当の教員とのやりとりを通して応用するようにしてください。

◆手順 1  テーマ分析が必要です 

 レポートのテーマ(課題)というものは,一定の内容を期待して出されて います。ですから,そのテーマは,いったいどのような内容を期待している のかということを,まず明らかにする必要があります。これが「テーマ分析」

です。

 テーマによっては,何を書かなければならないかが具体的に明確に示され ているものがあります。その場合は,テーマ分析に苦労しなくていいわけで す。しかし,中には,テーマが抽象的に示されており,一読しただけでは何 を書けばいいのかがみえないという場合があります。そういう場合には,

テーマ分析が重要な意味をもってくることになります。

 もっとも初歩的な段階を想定すると,そのテーマについてほとんど知識が なく,何が何だかわからないということもあるかもしれません。その場合 は,テーマのことは別にしてまずそのことについての基礎的な学習をするこ とから始める必要があります。その基礎学習を終えた後にテーマ分析をする ことになります。

 テーマ分析というのは,結局,レポートに書かなければならない内容につ いて具体的に検討するということです。ですから,最終的には,いくつかの レポート

レポートの書き方

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序章  ようこそ学びの世界へ

短い文章や言葉にまとめられることになります。これを, 1 枚に 1 つずつ カードに書いておくか,パソコンで打っておきましょう(その理由はだんだ んわかってきます)。

 例えば「老年期の生きがいとはどういうものか考えてみよう」というテー マの場合,まず①「生きがいとは何か」ということで,生きがいの定義は書 かなければならないでしょう。次に,②「老年期の生きがいは何か」という ことを明らかにする必要があります。上記のテーマでは,ここまで書けば十 分とも解釈できますが,「どういうものか」という問いかけの中には,「どう いう意味をもっているか」ということも含まれていると考えれば,③「生き がいのもつ意味」も書いておいた方がいいかなということになります。

◆手順 2  材料を集める 

 レポートというものは,たいていの場合,あなたの意見や経験を聞くもの ではなく,客観的な裏づけのある材料を集めて,テーマにそってまとめると いうことが期待されています。したがって,次の段階は,材料集めにとりか かることになります。

 指定されたテキストがある場合は,まず,テキストの中で材料を探しま しょう。テキストがない場合でも,参考文献は指定されているはずですか ら,指定された参考文献を読んで,使えそうな内容を探します。使えそうな 内容が見つかったら,それをメモ程度にまとめて,これもカードに書いてお くか,パソコンで打っておきます。

 この段階で,上記手順 1 のカード別に手順 2 で作ったカードを並べて内容 を検討します。パソコンに慣れている人は,これをパソコン上で行ってもい いのですが,不慣れな人は,手順 1 と手順 2 の内容をプリントアウトしてか ら行った方がわかりやすいかもしれません。つまり,手順 1 の時に書きたい と思った内容に照らして手順 2 で探し出した内容で十分かどうかを検討する わけです。十分だと判断されたら次の段階に進むわけですが, 1 冊だけ読ん で書いたレポートでは「不合格」(再提出)と評価される危険がないわけで はありません。なぜかというと,通信教育におけるレポートは,「これだけ 勉強したよ」というアピールでもあるわけですから,「 1 冊しか読まなかっ たのか」ということも評価の対象になる可能性があるのです。

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 したがって,十分だと思われた場合でも,内容を補強するために他の文献 からも探してみた方がいいでしょう。上記の例でいえば,①の定義にして も,できたら 2 ~ 3 人の定義を挙げてその上で,「ここでは,以下のように 定義しておく」と書くと学習の成果がよくわかります。同じく,②や③につ いても,何人かの研究者が明らかにしていることを書いた後でまとめるとい う作業をするのがbetterです。

◆手順 3  内容を組み立てる(「見出し」を考える) 

 十分な内容がそろった後,内容の組み立てを考えます。つまり,どのよう な順序で内容を並べればわかりやすいレポートになるかを考えるということ です。手順 1 のカード別に手順 2 のカードを並べて,順序を考えるという作 業です。もちろん,これをパソコン上で行うことも可能です。ここで考慮し なければならないのが字数ということです。学部は 2 ,000字程度・大学院は 4 ,000字以内ということになっていますので,そのことも頭に入れながら,

組み立てを考えていきます。望ましくないレポートというのは,字数のバラ ンスを考慮せずに書いていって,最後の方で書き足りなくなってしまうよう なレポートです。ですから,集めた材料を検討しながら,字数のバランスに も気を配ってください。したがって,材料としては集めたが,紙数の関係で 使えないものも出てくるかもしれません。それが学習ということなのだと思 います。

 この作業は,レポート内容をいくつかの部分に分けて,(小)見出しをつ けて書く,つまり,ただ内容を書き連ねるのではなく,大きくいくつかの部 分に分けてまとめ,それぞれに内容を示す見出しをつけるということを意味 しています。上記の例では,手順 1 で 3 つに分けてあるので,それぞれを

(小)見出しとしてつけて,分けて書いた方がいいでしょう。

 このことを別の角度から言うと,目次を作る作業だということになりま す。2,000字程度のレポートでは目次は必要ないかと思われますが,目次を つけるつもりで書くとわかりやすいレポートになります。大学院の場合は 4,000字ですから,これは,目次をつけるのが当然と言えます。

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