第 8 章 被災自治体の受援態勢の実態と受援計画の研究
8.1 研究の方法
8.2.1 神戸市で職員派遣を担当する課長・係長を対象とした
前述の受援を規定する「情報処理活動」,「指揮調整体制」,「現場対応環境」の 3 つの個別 要因に関する評価に係わる具体的内容について,インタビュー調査で出された意見は,「情 報処理活動」で 116 件,「指揮調整体制」で 119 件,「現場対応環境」で 167 件であった.
このインタビュー調査で出された意見を集約するために,各個別要因別に,まず,
TQM
(Total Quality Management
)手法の親和図を作成し,ついで,その親和図で付けたタイトルカードを 用いて,全体の親和図を作成した.本項では,各個別要因別に作成した全体の親和図で付 けたタイトルカードをもとに,各個別要因の内容について整理する.この 3 つの個別要因に関する評価の優先順位について,神戸市からの派遣職員を対象とし た質問紙による社会調査と同様に,3 つの個別要因が受援力の重要な項目であることが実証 された,第 4 章で述べた人的支援を受けた被災市町村を対象とした質問紙による社会調査 の結果で見ておく(図 30 参照).
図 30 「うまくいったか」の問いに対する「全くそう思わない」と「あまりそう思わない」
と回答した割合
0 10 20 30 40
問65.平常時からの情報処理活動
問69.支援受け入れ体制の整 備
問72.支援を受け入れるため の環境づくり
全くそう思わない あまりそう思わない
N=19 %
131
3 つの個別要因それぞれの「うまくいったか」について,5 段階評価の回答分布を見ると,
「全くそう思わない」,「あまりそう思わない」と低い評価をした団体の割合が多かった要 因は,「情報処理活動(問 65.平常時からの情報処理活動について全般的にうまくいった.)」 で,36.9%となっている.ついで,「指揮調整体制(問 69.支援受け入れ体制の整備が全 般的にうまくいった.)」が 21.0%,「現場対応環境(問 72.支援を受け入れるための環境 づくりについて全般的にうまくいった.)」が 15.8%である.
8.2.1.1 情報処理活動
「情報処理活動」は,大きくは「情報収集」,「情報共有」,「情報ツールが役立った」,「時 間的経過により情報収集が円滑化」に分けられる(図
31
参照).図31 情報処理活動
「情報収集」では,職員がもともと少なく,しかも多くの職員が被災した受援側の自治 体の中には,当初は,自ら積極的に情報収集したり,支援側の自治体に対して被災状況や 初動対応について,自ら積極的に情報提供をする意識のなかったところがあった.そのた め,支援側の自治体は,情報が極端に不足し,全体的な状況認識に時間がかかったという
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意見が出た.また,つぎに何がおこるのか,それにどのように対処すべきか等の先の見通 しや創造力がなかった被災自治体があったという意見も出た.
「情報共有」では,よかった事例として,被災自治体の災害対策本部等へ同席できたこ とによって,現地の情報把握や被災自治体との情報共有がうまくできたという意見が出さ れた.また,現場での朝礼・終礼等のミーティングの開催や引き継ぎにより,情報伝達と 共有がスムーズに行われるとともに,全体の連帯感も生まれたという点も挙げられた.
このような実態を踏まえて,支援側は,支援先の土地勘はなく,また,受援側自治体の 求めるものがわからないため,受援側が,被災者からニーズを集め,支援側に積極的に情 報提供する必要があるという教訓を得た.
8.2.1.2 指揮調整体系
「指揮調整体系」は,大きくは「受け入れ体制」と「応援側の指揮命令系統が確立され た(消防)」に分かれる(図
32
参照).「受け入れ体制」の整備状況に,過去の災害対応経験や受援計画の策定,応援側からの 提案,それぞれの有無が影響している.「受け入れ体制」の内容をみると,「指揮命令体制」,
「調整体制」,「本庁と区の連携がとれていた(いなかった)」等からなっている.
受援のあった被災市町村の「受け入れ体制」の課題について,つぎのような様々な意見 が出された.先遣隊が来るということを予想しておらず,受け入れの準備がされていなか った.被災直後は,支援の受け入れ窓口が不明確な被災市町村もあった.受け入れ窓口が 決まっていても,支援チームの窓口で,指揮する担当者が一人しかいなかったため,連絡 を取りづらく,レスポンスも迅速でなかった.また,その人がいないと,何もわからなか ったり,その人に聞かないと,ことが進まなかったりした.さらに,一人で判断されてい る場合には,その判断が妥当かどうかわからなかった.
受援側から具体的な指示がなかったり,依頼された業務が現実に必要としていることと 異なっていたりして,支援者側が,何をしていいのかわからず,混乱を生じたケースがあ った.
庁舎が壊滅し,多くの職員が死亡または行方不明となった被災自治体では,被災前の業 務を熟知した職員の不在などにより,支援者間の調整役としての機能が充分に果たせてい なかったケースがあった.
被災市町村によっては,本庁と現場事務所との横のつながりが薄く,連携が採られてい
133
ないように見受けられた.また,受け入れのマニュアルもなく,受け入れの訓練をしてい た様子もなかった.
その一方で,よかった事例として,地元病院の医師が災害医療支援コーディネーター役 に徹して,発災当初から,情報の集約及び情報の発信を行い,混乱を回避することができ たケースが挙げられた.
このような「受け入れ体制」の実態を踏まえて,発災直後から,自治体や
NPO
等様々な 主体が多数応援に入ることを予想して,受け入れ側で支援チームとの窓口になる人を決め ておくなど支援者に対する指揮命令系統の確立や受け入れ体制の整備をしておく必要があ るという教訓が得られた.また,支援チームの窓口となる人を複数決めておく必要がある ことや,受け入れ側の本庁と出先機関との相互応援の仕組みを平常時から明確にしておく 必要があることも教訓として得られた.図 32 指揮調整体系
8.2.1.3 現場対応環境
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「現場対応環境」は,大きくは「活動環境」,「派遣職員の生活環境」,「職員の士気」,「原 発問題によって活動に支障があった」に分かれる(図 33 参照).「活動環境」は,「情報」,
「資器材」,「移動手段」,「活動体制」からなる.また,「派遣職員の生活環境」は,「宿泊 場所の確保が必要である」,「食事の状況」,「トイレの状況」からなる.
図 33 現場対応環境
「活動環境」の課題について,つぎのような意見が出された.当初は,派遣先の市役所 内に執務事務スペースがなかった.また,現地の地名がわからず,土地勘もないため,電話 での対応に苦慮した.活動するための移動手段がなかった.多くの被災地において,給油 できるガソリンスタンドも限られ,常に,燃料補給のことが問題となった.
その一方で,「活動環境」のよかった被災自治体のケースとして,つぎの点が挙げられた.
業務資器材の整理・補給をはじめ,飲料水や雨具等の常備の他,専用の入力作業用パソコ ンも用意されていた.持ち込み物資の保管スペースやごろ寝する場所を確保していた.支 援チームの職員が被災自治体の職員とペアで活動できた.
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「派遣職員の生活環境」のよかった事例として,事務所付近の飲食店等を掲載した「生活 マップ」を支援チームに配布したというケースが挙げられた.
このような「現場対応環境」での実態を踏まえて,つぎのような教訓を得た.支援チー ムを受け入れる際には,まず活動拠点となる場所の確保が重要となることから,受け入れ 拠点場所の選定を事前に行っておく必要がある.また,支援者に配布できる地図等の資料 の整備・確保などが必要である.さらには,石油会社や運送業界との協定を予め結んでお くことも必要である.
8.2.1.4 人的支援を受けた市町村を対象とした質問紙による社会調査結果
以上,3 つの個別要因に関する課題について,人的支援を行った神戸市の立場から見てき た.それに対して,3 つの個別要因に関する課題について,受援した市町村の意見を,第 4 章で述べた人的支援を受けた市町村を対象とした質問紙による社会調査における「応援受 入状況に関する設問」の結果で見ておく.
図 34 「うまくいったか」の問いに対する「全くそう思わない」と「あまりそう思わない」
と回答した割合(N=19)
人的支援を受けた市町村を対象とした質問紙による社会調査の結果で,3 つの個別要因を 測定する項目の 5 段階評価について,「全くそう思わない」と「あまりそう思わない」と低 い評価をした団体の割合を見ると,図 34 のとおりであった.「全くそう思わない」と「あ まりそう思わない」と回答した団体の割合が多かった項目を多い順に挙げると,「情報処理 活動」の測定項目である「問 62.派遣チームのために,資料や地図等平常時から備えてい た.」,同「問 61.り災証明発行等,災害発生時に必要な業務マニュアルの整備・見直しや,
0 20 40 60 80
問62.資料や地図等の備え 問61.業務マニュアルの整備 問60.支援制度の情報収集 問70.受け入れる場所 問63.本庁と出先機関との応援 問68.受援計画の策定 問64.派遣チームとの情報共有 問67.指揮命令系統 問66.応援受け入れ体制 問71.派遣チームとのペア体制
全くそう思わない あまりそう思わない