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社内取締役の責任

第 2 章 .資源の依存性を決定する要因にもとづく解釈.

11.  取締役等の責任と企業統治

11.2  社内取締役の責任

 取締役の善管注意義務については,個々の立場によって範囲が異なることに留意する必 要がある。代表取締役は業務全般について,管掌取締役は自らの管掌する業務分野につい

(46)「(取締役会への説明は,)「シェアハウス運営会社(筆者注:サクト)による入居者募集業務が困難になって いる」というだけであり,アパマンを紹介すれば足りるかの如き説明であるし,ガヤルドに至ってはたんに 経営者の資質のチェックの問題にされてしまっている」(第三者委員会報告書 242 頁)。

(47)経営会議が危機管理委員会の設置を決めたのは 1 月 16 日であり,それから 3 週間も取締役会に報告しなかっ たことになる。

千葉商大論叢 第 58 巻 第 3 号(2021 年 3 月)

て,一般の取締役よりも重い監督責任を負い,何らかの問題点を認知した場合には,是正 措置を自ら講じる義務がある(48)。それ以外の取締役は,基本的に代表取締役及び管掌取 締役の業務状況を監視することで足りるが,何らかの問題点を認知した場合には,取締役 会や管掌取締役に報告するなどして,その是正を促す義務が発生する。

 2015 年 1 月 16 日の経営会議(7.1.3 参照)で不良チャネルによる資料偽装や銀行側の確 認不備についての議論があり,社内取締役は収益不動産ローンのリスクについて認識を共 有した。また,シェアハウスローンのリスクについても,2016 年 1 月の経営会議(7.3 参照)

で社内取締役は認識した。こうした知見を踏まえた上で,相当規模の不正が行われている おそれがあると認識し,あるいは職務上要請される注意力をもってすれば認識可能だった にもかかわらず,各々の立場に応じた所要の措置を講じなかった場合には善管注意義務違 反が成立する。具体的には,以下の 4 状況のいずれかを認識していたかどうかが鍵となる。

 ①審査部門の機能不全

 ②不良チャネルによる資料の偽装や銀行側の確認不備の多発  ③サブリース契約の妥当性に関する重大な疑義

 ④取引禁止措置を受けたスマートライフが多数案件に関与

 この認識の有無を判定する上で重要なポイントとなるのが,2016 年 5 月のシェアハウ ス会議(7.4 参照),2016 年 12 月の内部告発(7.5 参照),2017 年 7 月の第 4 回サクト会議

(7.6 参照)の 3 件である(49)

 2016 年 5 月のシェアハウス会議では,融資額吊り上げを目的とした見込家賃の高額設 定,割高な物件価格が家賃保証の原資(= 自転車操業)になっている可能性,チャネルが 家賃保証できるような財務体質でないことなどが具体的に指摘され,同会議の出席者は,

「③サブリース契約の妥当性に関する重大な疑義」を認識してしかるべきであった。

 2016 年 12 月の内部告発は,融資関係資料の偽装,空室率の偽装などシェアハウスロー ンの実態を示す具体的な情報であり,この告発情報を入手した者は,「②不良チャネルに よる資料の偽装や銀行側の確認不備の多発」の疑いを抱いてしかるべきであった。

 2017 年 7 月の第 4 回サクト会議については,シェアハウスローンの大口取引先の一つ であるサクトの経営悪化自体が「③サブリース契約の妥当性に関する重大な疑義」である 上に,「②不良チャネルによる資料の偽装や銀行側の確認不備の多発」「④取引禁止措置を 受けたスマートライフが多数案件に関与」について審査部から具体的な説明がなされた。

 以下では,上記のポイントに留意しつつ,個々の社内取締役の責任について検証する。

ちなみに,シェアハウス会議終了後のシェアハウスローン実行額は計 1,992 件 994 億円,

(48)「(管掌取締役は,)自己の管掌分野については積極的,能動的,恒常的に業務執行の状況を監視し,それぞれ の組織が果たすべき機能を果たしているか,不正行為や新しいリスクが発生していないか等をモニタリング する必要がある」(第三者委員会報告書 243 頁)。

(49)2017 年 4 月の経営会議(7.6 参照)では,配布資料の「サクトインベストメント取扱い案件の出口戦略」に「サ クトには入居者斡旋スキーム(能力)なし」「シェアハウス販売利益をその他投資家への家賃保証原資に転用」

「シェアハウス販売減少に伴い家賃保証原資減少」「家賃保証入金遅れ発生」と記載されていた。サクトがシェ アハウスローンの大口取引先の一つであったことを踏まえると,「③サブリース契約の妥当性に関する重大 な疑義」と認められる。その一方で,この件に関する記述があるのは監査役責任報告書だけであるため,社 内取締役の責任に関しては取り上げないことにする。

樋口晴彦:スルガ銀行不正融資事件の事例研究(Ⅱ)

第 4 回サクト会議終了後は計 325 件 143 億円とされ,これらの融資によって発生した損失 は,出席者が迅速に対策を講じていれば回避可能であった。

11.2.1 岡野(兄)会長

 岡野(兄)氏の経歴は前述(2.1 参照)のとおりである。同氏は CEO であったが,業 務執行は COO の岡野(弟)氏に任せきりで,麻生氏から報告を受けることもなかった。「各 業務担当取締役(管掌取締役)とは,定期的な報告の制度はなく,相談事項があるときに それらの担当役員から口頭で相談があるのみであったという。(中略)その職務としては,

取締役会及び経営会議,そしてシステム更改の際のステアリングコミッティに出席するこ と以外,特に出席する会議はなく,岡野会長は,主に対外的な業務,例えば地銀協会の会 合,日銀主催の会合,社外団体等の役職に伴う会合などにあたっていた」(第三者委員会 報告書 220 頁)とされる。

 2016 年 5 月のシェアハウス会議に岡野(兄)氏は出席していない。2016 年 12 月の内部 告発については,「(岡野(兄)氏は,)某不動産チャネルの社員からの二重契約や自己資 金の改ざん等を行っている旨の内部告発に関する報告稟議に押印しているところ,当該稟 議には,通報内容に加え,改ざんを行った実際の経緯とされる資料が添付されている」(取 締役等責任報告書 68-69 頁)とのことである。この時点で同氏は,「②不良チャネルによ る資料の偽装や銀行側の確認不備の多発」について認識できたと認められるが,稟議後の 同氏の対応については不明であり,この時点における善管注意義務違反の認定には躊躇せ ざるを得ない。

 2017 年 7 月の第 4 回サクト会議に岡野(兄)氏は出席しなかったが,会議終了後に白 井氏から結果報告を受け,「②不良チャネルによる資料の偽装や銀行側の確認不備の多発」

「③サブリース契約の妥当性に関する重大な疑義」「④取引禁止措置を受けたスマートラ イフが多数案件に関与」を認識した。この時点で同氏が所要の措置を講じなかったことは,

善管注意義務違反に該当する。

 ちなみに,第三者委員会報告書は,第 4 回サクト会議後における取締役の善管注意義務 違反の具体的態様として,以下の 3 件を認定している。同会議について報告を受けた岡野

(兄)氏にも同様に当てはまる。

 ・第 4 回サクト会議の結果,会社に著しい損害を与えるおそれがある重大問題の発生を 認知したにもかかわらず,対策の早急な策定や取締役会・監査役会への報告を怠った こと

 ・2017 年 10 月 19 日の取締役会で,シェアハウス問題について矮小化する説明が行わ れた際に,第 4 回サクト会議で提起された重大問題について担当役員に説明するよう に求めなかったこと(あるいは自ら説明しなかったこと)

 ・2017 年 10 月 19 日の経営会議で条件厳格化方針を決定したにもかかわらず,10 月 31 日の「社内会議」でこの方針を変更したこと(あるいは方針変更を認識したのに是正 を指示しなかったこと(50)

(50)岡野(兄)氏は「社内会議」に出席しなかったが,白井氏から結果報告を受けていた。

千葉商大論叢 第 58 巻 第 3 号(2021 年 3 月)

11.2.2 岡野(弟)副社長

 岡野(弟)氏の経歴は前述(2.1 参照)のとおりである。同氏は 2000 年から業務執行全 般の最高責任者たる COO であり,過大な営業目標の設定や数字第一主義の醸成,麻生氏 の重用など営業部門の暴走を招来する構造を作り出した当事者である。

 岡野(弟)氏は麻生氏が作成した審査部関係の人事異動案を承認しており,「①審査部 門の機能不全」を認識していた。「②不良チャネルによる資料の偽装や銀行側の確認不備 の多発」についても,様々な機会を通じて情報を入手しており,遅くとも 2015 年 2 月に 出口ミーティングの報告やスマートライフに関する内部告発を受けた時点で,融資案件の 精査や審査体制の強化など所要の措置を講じる義務が生じていた。それにもかかわらず,

同氏は対策に着手しないばかりか,取締役会・監査役会・経営会議への報告も懈怠してお り,重大な善管注意義務違反が認められる。

11.2.3 米山社長

 米山氏の経歴は前述(2.1 参照)のとおりである。同氏は,2017 年 7 月の第 4 回サクト 会議に出席し,「②不良チャネルによる資料の偽装や銀行側の確認不備の多発」「③サブリー ス契約の妥当性に関する重大な疑義」「④取引禁止措置を受けたスマートライフが多数案 件に関与」を認識した。それによって代表取締役として所要の措置を講じる義務が生じた が,前述した 3 件の善管注意義務違反を犯したと認められる。

11.2.4 白井専務

 白井氏は,2008 年 6 月に常務取締役,2011 年 6 月に専務取締役に就任し,2012 年 6 月 以降は代表権を有していた。この間,同氏は一貫して経営企画部を管掌し,CCO(最高 コンプライアンス責任者)も務めていた。

 白井氏は,2013 年以降の書類偽装に係る内部告発や外部通報のうち,経営企画部で対応 した案件について報告を受けていた。2015 年 4 月及び 5 月の内部告発を受けて経営企画部 が作成した報告書の内容も確認しており,「不良チャネルによる資料の偽装や銀行側の確 認不備」を承知していた。ただし,②の「多発」と形容すべき状況であったかどうかにつ いては明確でなく,この時点における善管注意義務違反の認定には躊躇せざるを得ない。

 白井氏は人事部(経営企画部の一部署)も管掌しており,「営業を重視する故・岡野副 社長の意向等により,営業偏重の人事が行われてしまうリスクについては認識し得た」と される(第三者委員会報告書 254-255 頁)。こうした人事介入が審査の形骸化につながる ことは明白であり,同氏は「①審査部門の機能不全」について早い時点で認識していた可 能性が高い。

 さらに白井氏は,2017 年 7 月の第 4 回サクト会議に出席したことから,「②不良チャネ ルによる資料の偽装や銀行側の確認不備の多発」「③サブリース契約の妥当性に関する重 大な疑義」「④取引禁止措置を受けたスマートライフが多数案件に関与」を認識した。遅 くともこの時点で,同氏には代表取締役として所要の措置を講じる義務が生じたが,前述 した 3 件の善管注意義務違反を犯したと認められる。

 ファミリー企業報告書①は,「白井氏は,望月氏と共に喜之助氏に近い立場にあり,長 年の側近であって,(中略)(白井氏が)ファミリー企業問題等について喜之助氏の意を汲

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