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社内のアントレプレナーシップ活動に関する調査結果

第 6 章 質問票調査の分析対象であるファミリービジネスの特徴

5. 社内のアントレプレナーシップ活動に関する調査結果

対象企業であるファミリービジネス 112 社の経営環境、および社内のアントレプレナー シップ活動についてまとめたものが以下である。第 4 章のファミリービジネスにおけるコ ーポレート・アントレプレナーシップの先行研究のレビューから、ファミリービジネスに おける社内のアントレプレナーシップ活動の特徴を分析した。調査内容は以下の項目でま とめた。

1) ファミリービジネスとして企業が目指すゴール 2) 社内のアントレプレナーシップ活動の実際

3) 社内のアントレプレナーシップ活動におけるオーナー経営者の役割とアントレプレナ ーとしての実際 (機会発見と実施・コントロールの状況)

4) ファミリービジネスとして社内のアントレプレナーシップ活動に取組む場合のファミ リーの関与

5) ファミリービジネスの持続的競争力の獲得と保持に必要なもの

まずファミリービジネスが目指すゴールについての結果を示すと、図6.2のようになる。

ファミリービジネスの経営目的の研究では、早期からパフォーマンスや利益の確保、成 長だけではない可能性が示唆され(Daily & Thompson, 1994)、収益性向上や成長の他にファミ リーの富の増大や(Grennwald & Associates,1995)、企業の存続が発見されている(Hoy &

Sherna,2009)。パフォーマンスも一般企業の企業目的である財務的パフォーマンスや社会貢 献などの社会的パフォーマンス以外に、非財務的パフォーマンスやアントレプレナー的パ フォーマンスなどが示されている(Nordqvist & Zellweger,2010)。これらの先行研究からファ ミリービジネスの企業目標を8 つあげ、企業として目指すゴールについて順に 3つ選んで もらった結果が以下である。目指すゴールとして、質問項目に市場のシェアを提示したが、

この項目については、返答がなかったため削除している。

1番目の企業目標もしくはゴールとして、ファミリービジネスのオーナー経営者、後継経 営者が選んだのは顧客満足である。次いで利益の確保、そして事業承継と事業の継続とな った。2番目の企業目標もしくはゴールには、従業員満足度が選ばれ、次は顧客満足そして

利益となる。3番目は事業承継が高く、次いで企業の成長となった。顧客満足を1番目の企 業の目標もしくはゴールに選んだ企業は2番目に従業員満足選ぶ比率が高く、3番目に事業 承継と継続を選んでおり、その企業数は 20 社である。また1番目に利益を選んだ企業 20 社のうち、2番目に社会貢献を選び、3番目に成長を選んだ企業は10社である。

図6.2 ファミリービジネスとして企業が目指すゴール

この結果から、オーナー経営者もしくは後継経営者、オーナー経営者および後継経営者(以 下、トップと略す)の視点が、顧客に向いた企業経営を行い顧客目線を中心としているのか、

従業員を大切にすることで企業を盛りたてて行く従業員目線であるのか、もしくは企業を 社会の公器という意識から、顧客や従業員すべてに対する社会貢献という視点を持ち企業 を存続させていくかという、視点の違いがある可能性が示唆できると考える。しかし、こ れらの視点は企業の年数、伝統、規模、地域性によっても影響を受ける可能性を否定でき ない。

ファミリービジネスのゴールについてTagiuri & Davis (1992)は、ファミリービジネスのゴ ールの幅広さや非財務的ゴールの存在を発見している。非財務的ゴールとして、従業員の 満足度、財務的健全性、製品、個人的な進歩、企業の市民性、雇用の安定性が発見されて いる。図6.2でも、顧客満足、従業員満足、社会貢献、企業価値などがゴールとされている ことから、ファミリービジネスでは幅広い非財務的ゴールが存在することがわかる。

24

3

52

10

3 0

20 20

2

21 26

12 16 15

6

20

12 8 9

19

38

1番目 2番目 3番目

また、ファミリービジネスとして企業が目指すゴールとしては、やはり本調査でも事業 承継と事業の継続があげられた。これは先行研究でも明らかにされているファミリービジ ネスの特徴のひとつであり(後藤, 2009)、一般企業とは異なる企業目標としてファミリービ ジネスであるがゆえに持っている目標であるとされる。

対象企業において、どのようなアントレプレーシップ活動が実施されたかに関しては、

記述方式の質問票調査、およびインタビュー調査によって事業の転換、取扱い商品の変化、

企業内イノベーションなどについて調査を行った。また対象企業のパンフレットやホーム ページ、可能であれば帝国データバンクや東京商工リサーチによる企業調査結果により、

事業の転換や商品、サービスの転換や変化を確認している。

社内のアントレプレナーシップ活動が、実際、企業活動としてどのようなものを指すの かについては、コーポレート・アントレプレナーシップの定義「既存企業の内部のチーム が、現在もっている資産、市場、能力を活用しつつ、それらとは一線を画した新規ビジネ スを考案し、育成し、市場投入し、管理する活動プロセスが社内起業である。(Wolcott &

Lippitz, 2009)」と、既存事業の活性化、戦略のリニューアル、既存組織の変化や再生(Morris

et al., 2008)であるという定義に基づいている。この定義に基づき、以下の5つについて、調

査対象企業が過去3年間、企業としてどの程度取組んできたかを5段階評価(5:積極的な取 組み~1:取組みなし)で示したものが図6.3である。

1) 新しい戦略に基づいた新製品・新サービスの投入 2) 新規事業のための組織改革や人材育成

3) 新規プロジェクトへの取組み

4) 既存事業のイノベーションへの取組み 5) 新しい機会の発見について、

この結果から、ファミリービジネスの社内のアントレプレナーシップ活動では、新しい 機会の発見を積極的に行っているファミリービジネスは、4 段階と 5 段階を合わせると 68 社になり約半数に上る。また新規プロジェクトへの取組みより、既存事業へのイノベーシ ョンの取組みを積極的に行い、既存事業のイノベーションに力を入れているファミリービ ジネスが全体的に多いことがわかる。新規プロジェクトへの取組みを積極的に行っている ファミリービジネスも24社と多く、イノベーションの取組みを積極的に行っているファミ リービジネスは、同時に新しい機会の発見も積極的に行っている。これらの結果から、フ ァミリービジネスでは、新しい機会の発見が、新規プロジェクトだけでなく、既存事業の イノベーションに対しても行われていると考えられる。反面、新製品や新サービスの投入 に積極的ではないファミリービジネスもある程度、存在することから、伝統や歴史に培わ れた商品を変える、サービスを変えることが、ファミリービジネスの競争優位性や価値を 損なう可能性も否定できないということであろう。

新しい機会の発見を行っていないファミリービジネスは 2 社のみであり、この2 社はい

ずれも貸しビル業を営む不動産業である。これらの結果をChristensen (1997)が提唱したイノ ベーションに当てはめると、従来の製品、既存事業の製品やサービスの価値を破壊する恐れが あるような、全く新しい価値を生み出す破壊的イノベーションよりも、既存事業における既存 製品やサービスを発展させることに力を入れており、従来製品の改良を進める持続的イノ ベーションが中心となっている。また新しい戦略に基づいた新製品や新規サービス、新規 事業における組織改革や人材育成も、既存事業の価値を損なわず、それを補完するような ものが多いことが質問票結果から、ファミリービジネスの社内のアントレプレナーシップ 活動は、ファミリービジネスの伝統を守るという意味においても持続的イノベーションに よる企業活動であることが理解できる。

図6.3 社内のアントレプレナーシップ活動について

次に、社内のアントレプレナーシップ活動において、新市場発見、新商品や新サービス の提案など機会の発見を担う者、発見した機会について提案されたアイディアやビジネス プランを実施・コントロールする者、もしくは部署等についての調査結果を表6.8に示す。

この結果から、112社中78社が、機会の発見とそれに対するアイディアやビジネスプラ ンの実施・コントロールの実際の両方を、トップ自らが行っていることがわかる。機会の 発見では112 社中、92社がその役割をトップが担っており、企画部や社員が機会を発見し 事業に発展する機会は少ないことを示唆している。またその実施やコントロールに関して

10 8 6 6

2 16

9 10

6 7

33 32 35 38

32 35

42

37

57 56

21 21 24

5

12

新戦略に基づく 組織改革 新規プロジェクト 既存事業改革 機会の発見 1消極的 2 3 4 5積極的

も中心的な役割はトップが担っており、一般企業のようにマネジメントレベルによる役割 分担が明確ではない可能性を示唆される。この結果は、中小企業庁(2009)によって明らかに された中小企業のイノベーションの特徴としてあげられた、中小企業の経営者は、経営者 自身が方針策定から現場での創意工夫までリーダーシップを取って取組んでいるという特 徴と同じである。このため、ファミリービジネスのコーポレート・アントレプレナーシッ プにおいて、トップがアントレプレナーの可能性は高く、実施や実行についても、トップ の権限によるコントロールや意思決定の影響は強く、役割は多岐に渡ると考えられる。

表6.8 機会発見と実施・コントロールの状況

実施・コン トロール

経営者 取締役会 取締役 幹部社員 各部・チーム 機 経営者 78 2 9 3 会 取締役 1 3 5

発 企画部等 3 2 1 見 幹部社員 2 1

社員 2

次に、ファミリービジネスの社内のアントレプレナーシップ活動において、意思決定プ ロセスとファミリー要因についてみてみる。意思決定プロセスに関しては、インタビュー を行った対象企業7社の結果から、オーナー経営者の意思決定プロセスを中心に捉え①経 営の実権を握るファミリーメンバーが独断的、一方的に決定する独断型、②自分の意見や 状況などは説明するが、意見は聞かず、決定を曲げることがない押切型、③自分の意見や 見通しなどを説明し、納得させる承認型、④決定した上で、ファミリーメンバーの意見を 聞きながら方法や、資源の配分等を調整する調整型、⑤最初からファミリーメンバーや経 営陣を交えて意見を交わす参加型というプロセスに分類している。企業内の意思決定にお いて、定例会議が行われているか否かという点と、ファミリーメンバーの合意として、決 定権を持つファミリーメンバーの決定に合意しているのか否かを調査し、ファミリーメン バーの対話としてファミリーメンバーによるコミュニケーションの頻度をみている。

これらのインタビュー調査の結果とその要因を前提として、家族親族の対応を中心に新 規ビジネスの実行に関する反応を意思決定プロセスとしてファミリーの関与の仕方を 6 つ に分類して、調査した。分類は以下になる。

①納得できれば賛成する承認型

②説明や話は聞くが何も言わずに任せきりという依存型