• 検索結果がありません。

アントレプレナー的マインドセットとアントレプレナー的

ドキュメント内 ファミリービジネスにおけるコーポレート・ (ページ 104-122)

1. はじめに

本章では、分析枠組みのアントレプレナー的マインドセットとアントレプレナー的パフ ォーマンスの関係について分析し、考察する。

本章の目的は、ファミリービジネスにおけるコーポレート・アントレプレナーシップに おいて、不確実性から利益を生むためにビジネスや機会について考える方法や意思、方向 性であるアントレプレナー的マインドセット(McGrath & MacMillan, 2000; Zahra, Ireland, Gutierrez, & Hitt, 2000)およびファミリービジネスにとって、行動的な戦略的思考のための土 台である戦略的プランニング(Ward, 1988)が、ファミリービジネスのコーポレート・アント レプレナーシップのパフォーマンスであるアントレプレナー的パフォーマンスに、どのよ うな影響を与えるかを分析し、考察することである。

ファミリービジネスにとってコーポレート・アントレプレナーシップは、企業や事業の 持続性や存続性、収益性や成長において重要な企業活動であり(Rogoff & Heck, 2003)、ファ ミリービジネスの経営活動の目的やゴールのひとつである事業の継続、企業の存続にとっ ても不可欠なものである。ファミリービジネスがコーポレート・アントレプレナーシップ に取組むためには、個人、組織、社会にとって価値となる優位性を探求し、かつ価値につ ながる新しい機会の探求に関心を持ち(Hitt et al., 2011)、新しい機会に意味をもたせて事業 化するための戦略的な視点をもち、戦略的な視点のもとに組織がアントレプレナー的行動 を促進することが必要である(Hitt et al., 2002)。そして企業が戦略的な視点のもとにアントレ プレナーシップに取り組むには、不確実性から利益を生むためにビジネスや機会について 考える方法や意思、方向性であるアントレプレナー的マインドセットが必要である(McGrath

& MacMillan, 2000; Zahra et al., 2000)。潜在性のある機会をアントレプレナーや組織、組織メ ンバーが継続的に探し出そうとするには、最初にアントレプレナー的マインドセットが必 要とされる(Hitt et al., 2002)。つまり、企業がアントレプレナーシップに取組んでイノベーシ ョンを成功させるにはアントレプレナー的マインドセットが不可欠である(Morris et al., 2008; Nordqvist & Zellweger, 2011)。さらに組織は、戦略的プランニングという組織全体の従 業員にゴールを伝える統合的なデバイスにより、組織が今どこに向かっているのか、組織 のゴールはどこかを個人が理解し、従業員がサブゴールを追求することになる(Ketokivi &

Castaner, 2004)。

本章では、アントレプレナー的マインドセットの概念に含まれる要素としてファミリー ビジネスのコーポレート・アントレプレナーシップ活動に正の影響を与えることが発見さ れた変化への意思(Kellermans & Eddleston, 2006)および意思決定包括性(Eddleston et al., 2008)

という 2 つの次元について、アントレプレナー的パフォーマンスにどのように影響を与え るかについて分析し、先行研究との比較検討を中心に考察を行う。さらに変化への意思お よび意思決定包括性とアントレプレナーシップ的パフォーマンスとの間に戦略的プランニ ングの媒介効果があるかどうかについても、分析し、考察する。

2. ファミリービジネス研究におけるアントレプレナー的マインドセット

アントレプレナー的マインドセットは、経営者や経営陣のアントレプレナー的な視点と アントレプレナー的な志向、行動への意思と、戦略への意思決定であり、イノベーション への志向性、事業機会発見への意思、資源の確認と調整、イノベーション戦略への意思決 定と行動への意思、イノベーションへの組織改革の意思などの組み合わせ(McGrath &

MacMillan, 2000)であり、継続的なイノベーションを導く潜在性があるため企業の競争優位 の源泉となりえるものである(Hitt et al., 2009)。アントレプレナー的マインドセットは、不確 実性から利益を生むためのビジネスや機会に対する思考方法や姿勢、志向性、意思、意思 決定と定義されるものである(MaGrath & MacMillan, 2000)。

第 6 章で、質問票調査の分析対象企業であるファミリービジネスにおける社内のアント レプレナーシップ活動の調査結果では、ファミリービジネスとして会社が目指すゴールと して、顧客満足、利益の次に事業の継続と承継を掲げる企業が多いという結果が得られた。

事業の継続と次世代への承継が会社の目指す目標であるなら、ファミリービジネスでは継 続的に新しい機会探求行動と優位性探求行動にも取り組んで、価値を想像し、事業を継続 していく必要がある。企業内イノベーション・プロセスを含むコーポレート・アントレプ レナーシップによって価値を創造するには、経営者やトップ・マネジメントが市場価値を 生む潜在性と不確実性を、企業のイノベーションとして取組み、競争優位とするべく意思 決定し、戦略的な見通しをもってアントレプレナーシップに取組まなければならず(Zahra et al., 2000) 、そのためにはまずアントレプレナー的マインドセットが必要となる(Hitt et al., 2002)。

ファミリービジネスは所有と経営の一致を特徴とする企業形態であり、エージェンシー 理論を用いた先行研究で論じられているように、オーナー経営者やファミリーメンバーに よるトップ・マネジメントとしてのビジョン、目標、経営方法や志向などが企業経営に大 きな影響を与え、彼らのリスクテーキングやイノベーション志向によって、企業の資産や 競争優位性が左右される場合もある(Miller & Le Breton-Miller, 2005)。アントレプレナー的マ インドセットは、不確実性から利益を生むためのビジネスや機会に対する思考方法や姿勢、

志向性、意思、意思決定であるため(McGrath & MacMillan, 2000)、これまでの章で議論して きたが、ファミリービジネスがコーポレート・アントレプレナーシップに取組むにはトッ プやファミリーメンバーの思考方法、志向性や意思が重要となる。Habbershon et al.(2010)

はファミリーのアントレプレナー的マインドセットを、個人やグループのアントレプレナ ー的行動を追求することを志向する信念、価値観、姿勢だとし、世代を越えたアントレプ レナーシップの承継の研究においてファミリービジネス研究とアントレプレナーシップ理 論をつなげるもの鍵となる構成要素としているが、アントレプレナー的マインドセットを 組織のアントレプレナー的行動であるアントレプレナー的オリエンテーションに含めて捉 えており(Zellweger et al., 2012)、ひとつの独立した要因とは捉えていない。しかし、アント レプレナー的マインドセットは、トップやファミリーのアントレプレナー的な志向や意思、

行動への意思、姿勢、意思決定であるため、組織のアントレプレナー的行動として測定す るものではない。

これまでに、ファミリービジネスにおけるコーポレート・アントレプレナーシップ研究 において、McGrath & MacMillan (2000)やNordqvist & Zellweger (2011)が提示したアントレプ レナー的マインドセットの概念に含まれる要素として発見された次元は、変化への意思 (Kellermanns & Eddleston, 2006)および意思決定包括性(Eddleston et al., 2008)である。これら の要因はコーポレート・アントレプレナーシップの実行に正の影響を与えるものとして発 見されている。変化への意思は、ファミリービジネスが、不確実性から新しい機会を発見 しアントレプレナー的行動を追求するために、ファミリービジネスの文化を効果的に変化 させ、促進させようとする意思や姿勢であり(Zahra et al., 2004)、アントレプレナー的活動を 行うためにリスクを取り、変化を誘発させようとする意思や意思決定である(Miller, 1983)。

さらに、変化への意思は、イノベーションとリンクするものである(Karagozoglu & Brown, 1988)。

意思決定包括性は、ファミリービジネスのコーポレート・アントレプレーシップを育成 するものであり(Eddleston et al., 2008)、積極的にアントレプレナー的行動を促進するため、

ファミリービジネスとファミリーメンバーの間でゴールを明確にし、一致させるものであ る(Eddleston et al., 2008)。また組織のパフォーマンスを最大化させるために、トップとして オープンなコミュニケーションや参加型のマネジメントを用いて、オプションを評価し、

戦略的に意思決定を行うものである(Davis et al., 2004)。本論文では、これら2つの要素をア ントレプレナー的マインドセットを構成する次元として取り上げる。

戦略的プランニングは、ファミリービジネスのトップ、ファミリーメンバーの認知や意 思を組織の戦略として統合し、資源を組織行動に活用するよう配分し利用し、かつ既存の 競争優位と潜在性を持ったイノベーションを統合させるために、これらを結びつける役割 を持つものである(Sirmon & Hitt, 2003)。

3. アントレプレナー的パフォーマンス

ファミリービジネスのアントレプレナーシップに関する研究は、起業の多くがファミリ ーによって行われることから企業のスタートアップやベンチャーの研究と、長期に存続す る既存組織における既存資源を用いた社内起業に関する研究に分かれる。ファミリービジ ネスのアントレプレナーシップとパフォーマンスに関する実証的な先行研究では、ファミ リービジネスの経営目的やゴールが利益の追求だけでなく、存続、事業承継、ステークホ ルダーとの関係構築、地域貢献や社会貢献なども含まれることから、利益率、成長率、生 産性など業績優位性を分析する財務的パフォーマンス以外に、研究目的やテーマ、研究対 象 に よ り 非 財 務 的 パ フ ォ ー マ ン ス に よ る 多 様 な パ フ ォ ー マ ン ス が 用 い ら れ て い る (Habbershon et al., 2010; Nordqvist & Zellweger, 2010)。

財務的パフォーマンスには、中小企業やベンチャーのアントレプレナー的行動によるパ フォーマンスを測るのに適している売上成長率、利益率、市場シェアの増加などの財務的 な成長性の指標(Moreno & Casillas, 2008)と、実際の財務的数値ではなく過去数年間の企 業の財務的パフォーマンスを、CEO やトップらが評価する知覚的財務的パフォーマンス (Lumpkin & Dess, 2001; Rauch et al., 2009)がある。財務的数値に対する主観的で知覚的な評価 も、客観的な財務的パフォーマンスと高い相関関係にあり、コーポレート・アントレプレ ナーシップのパフォーマンスの評価に利用できる指標である(Kellermanns & Eddleston, 2006)。スタートアップやベンチャーの研究では、主に財務的パフォーマンスが用いられる が、既存資源を用いたコーポレート・アントレプレナーシップでは、財務的パフォーマン スだけでなく、満足度などの非財務的パフォーマンスも用いられる。これらパフォーマン スの向上には企業規模や企業年数、従業員数、株主比率等の企業属性的な組織要因が影響 を及ぼすことが発見されているが(Rauch et al., 2009)、影響を及ぼす組織要因や有意性につい ては先行研究の結果にばらつきがあり(Rauch et al., 2009)、企業属性的な組織要因とパフォー マンスの間に何らかの媒介変数が存在する可能性は否定できないだろう。

ファミリービジネスの研究での非財務的パフォーマンスは、ステークホルダーや従業員 の満足度や社会的貢献度などの社会的パフォーマンスと、アントレプレナー的パフォーマ ンスに分けられる(Habbershon et al., 2010)。Habbershon et al. (2010)およびZahra (1995)によれ ば、アントレプレナー的パフォーマンスは、組織内でのイノベーション、リニューアル、

ベンチャーへの取組みとその成果として定義される。その際、イノベーションは製品、製 造プロセス、組織的なシステムの創造と導入、リニューアルはビジネスへの視点の転換、

競争的アプローチの変更、新しいケイパビリティの獲得などの組織的オペレーションの再 活性、ベンチャーは新規事業への参入、新規市場の開拓や既存市場の拡大と定義される。

そのためアントレプレナー的パフォーマンスは、既存事業における既存資源を用いたアン トレプレナーシップとして、「既存企業の内部のチームが、現在もっている資産、市場、能 力を活用しつつ、それらとは一線を画した新規ビジネスを考案し、育成し、市場投入し、

ドキュメント内 ファミリービジネスにおけるコーポレート・ (ページ 104-122)